食道がんの緩和ケア
によると、食道がんの罹患数は全がんの10位内に入っていませんが、死亡数は10位です。
男女比は男性が多く、罹患数は男性が5倍以上です。
食道がんも容易ではない病気です。
いくつかの理由が考えられ、
① 食道の壁には豊富なリンパ管が網の目のように張り巡らされているのでリンパ行性転移を起こしやすいこと
や
② 食道という臓器は、頸部から胸部を通り腹部にまで長く存在するために、広く転移する可能性があること
が挙げられています。
参考;なぜ食道がんはリンパ節転移や手術に伴う合併症が起こりやすいのか?
食道がんの苦痛・つらい症状と緩和ケアについて解説します。
食道がんの体の苦痛症状と緩和ケア
食道がんと痛み
食道がんも他のがんと同様に初期にはあまり痛みを訴えません。
進行すると、様々な痛みが出現します。
例えば、飲み込んだ際の痛みである嚥下痛。
食物が腫瘍部を刺激して起こります。食道は食べ物の通り道なので、食事時に好発します。20%程度の患者さんに起こるとされます。
他に胸骨裏の不快感や灼熱感を訴える方もいます。
痛みは、必ずしも高度というわけではなく、鈍痛が多いです。
痛みの形式としては、内臓痛というものに分類されます。
痛みには不快感や重い感じ、気持ち悪さを伴うことがあります。
内臓痛は医療用麻薬が良く効きます。
食道がんに対して放射線治療や抗がん剤治療などを開始しても、これらの治療が効いて腫瘍が制御されて痛みが緩和されるまでは一般にある程度時間がかかります。
その間、いたずらに苦痛に耐える必要は全くありません。
痛みは情動などにも悪影響を与えます。内臓痛は適切に医療用麻薬治療で緩和すべきです。
もちろん医療用麻薬以外の鎮痛薬も状況に応じて使用したり、併用したりします。
先に述べたように転移が様々な場所に起こりうるため、肝転移をすれば肝被膜痛(内臓痛)が、骨転移をすれば骨痛(体性痛)が発生しえます。
リンパ節転移から腕神経叢浸潤を来し、高度の神経障害性疼痛を患い難治性で大変だった患者さんを診療したこともあります。
そのような場合は医療用麻薬一辺倒の治療ではうまくいかないこともあります。
痛みの具合は人それぞれなので、その方に合った鎮痛療法を行っていきます。
食道がんと痛み以外
食欲不振や嘔気・嘔吐などは他のがんと同様に出現します。
腫瘍自体が食欲を低下させる他のがんと同じメカニズムの他にも、食道がんは食べ物の通路を塞いでくるため、直接的に嚥下困難や吐き気をもたらします。
がんに対する治療で腫瘍を除去あるいは縮小させれば通過が改善するので、それらの治療を行うことが検討されます。
またステント療法を行って、食道の開存を図ることもあります。
周囲に重要な臓器や構造物があるのが食道です。
気管に進展すれば気管食道瘻(ろう。穴のこと)が形成され、難治性の咳や、肺炎を繰り返すことがあります。
大動脈も近いので、食道がんが大動脈などの太い血管に進展し、びらんから出血するというケースもあります。
これらに対し、できることを考えて諸症状の軽減を図ります。
食道がんと心理的な問題、治療に関する問題
食道がんは一般に手強い病気です。
経過の厳しさや、転移等によって様々な症状がもたらされることは心理的にも大きなストレスになります。
食道がんの患者さんは倦怠感が手術前より強いことや、抑うつの多さも指摘されています。
ただ、倦怠感と食欲不振、抑うつは、ある研究において、ステロイドに反応して同様に改善したということが指摘されています。
病態の背景が似ている、つまり腫瘍性の炎症性サイトカイン血症などが関係し、腫瘍が起こしている特定の物質の上昇や活性化が、倦怠感や抑うつの源となっていることが推測されます。
このように食道がんは抑うつの頻度も少なくないので、十分注意する必要があります。
患者さんやご家族への助言としては、気持ちの落ち込みや、興味や喜びが喪失する期間が長く続くようならば、担当医や緩和ケア医、精神科医などに相談すると良いでしょう。
病期に応じて、手術や放射線治療、化学療法が行われます。治療による合併症や副作用も問題となりますので、その点にも十分な配慮とケアが大切です。
食道がんの患者さんの社会背景としては高齢の男性が多く、社会的な支援体制が脆弱であるケースも少なくないため、ケアに当たる側としてはその点に留意してことに当たっています。
まとめ
食道がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。
痛みはもちろんですが、食物の通り道が障害されることの他、周囲の重要臓器への転移や、リンパ行性にさらに遠くへ転移することもあり、多様な症状を来たすため適切な対処が必要となります。
腫瘍自体によっても起こるだるさや食欲不振、やせですが、食道がんはそれらが比較的強いことが知られており、1つに食物の通り道が塞がれることによるプラスαの影響があることの他にも、疾患自体がだるさや抑うつを出しやすい特性があることも推測されており、症状をしっかりと総合的かつ経時的に把握して対応することが良いと考えられます。
その点で、緩和ケアが治療と並行して広範に力を振るう必要性がある腫瘍の1つと言えるでしょう。