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転移性乳癌とわかったら

転移性乳癌と皆さんあるいはご家族が診断されたら、きっと戸惑われていらっしゃるでしょう。

突然のことで驚かれた方もいると思います。

転移性乳癌はステージ4になります。しかし世間の認識と異なり、ステージ4は末期がんとは完全なる別物です。

長期に生存される方も多くいらっしゃるので、まずは希望を捨てないことです。

その上で、どう動いたら良いのかを3700人以上のがん患者の診療にあたってきた医師が説明いたします。

なおもう一つ説明しておきますが、緩和ケアは末期になって行うものではなく、転移性乳癌は発覚したら緩和ケアを受けたほうが良いです。ただしそれは末期だからということではなく、早期からの緩和ケアの利点を享受するためです。

最初にリストを挙げますが

・セカンドオピニオン

・がん情報サービスおよびがん相談支援センターでの情報収集

・サポートしてくれる緩和ケアとつながる

以上になります。それぞれについて解説します。

 

あせらない、あわてない、あきらめない

まず大切なマインドとしては、「あせらない」「あわてない」です。

告知され、治療が提示されると、すぐに治療をしなければ死んでしまうという気持ちに駆られることがあるかもしれません。

しかし一般に、数週間の違いで、命に関わることは決して多くありません

重要なことは、まず病院選びです。

転移性乳がんの場合の特徴として、治療は基本的に継続していかねばならない、というものがあります。

そのため、治療を開始した病院で、ずっとそのまま通院することが標準的です。

すると、例えば

・病院が通いづらい

・医師との相性が心配

・緩和ケアなどの支援部門が弱い

などの病院で治療を開始すると、後々困ることが出て来ます。

そのため、まずは治療を行う病院をあせらずに決める必要があります。

この時、もちろん診断してくれた先生への恩義などもあるとは思いますが、自分の命に関わることなので、それにこだわる必要はありません。

自らの命を守るのは自分自身です。

ご自分に合った医療機関を探すことを優先させましょう。

 

セカンドオピニオンを求める

セカンドオピニオンを求め、治療病院選びを行っていきます。

セカンドオピニオンは、他の病院の専門家の医師に治療に関する見解を求めることです。

セカンドオピニオンは転院とは違います。

そのため、セカンドオピニオンを受けて、そこでも同じような見解だったら、元の病院で治療を受けるのが標準です。

違う意見が出た場合は、よりご自身にとって納得のいくほうを選択するということになります。

診断時は、実はそれほど見解が大きく分かれることはありませんが、病気が進行してくると、医師や医療機関によって推奨される治療が変わるということは珍しくありません。

それは、病気が進行している時のほうが、科学的根拠の背景となる研究が必ずしも相対的には豊富ではないということから来ています。

いずれにせよ、あまり多くはありませんが、診断された病院での治療がユニークで、後でそれを知って驚いた…ということもありますから、セカンドオピニオンは取ったほうが良いです。

なお、病院は特定の大学の系列病院であるケースがあり、同大学の系列だと基本的にセカンドオピニオンの内容が変わらないということがありますから、基本的には別系列の病院でそれを求めるのが標準なのは知っておくと良いでしょう。

 

がん情報サービスやがん相談支援センターを活用

診断された時は右も左も分からない状態ですから、情報不足ですし、また怪しい情報にも弱い時期です。

有名人で、最初に怪しい治療に行ってしまって治療開始が遅れ、命の長さに影響したのではないかという方が何人かいらっしゃいますが、それは初動が間違っていたからです。

情報の

・基本情報は→がん情報サービス

・その病院や地域の情報は→がん相談支援センター

で集めるという意識が大切になるでしょう。

1 がん情報サービス

国立がんセンターが運営している基本中の基本のサイトです。

乳がんについて書いてある部分のリンクを貼っておきます。

乳がん(にゅうがん)

ここに記してあることが標準で、まずはこの内容を押さえておきましょう。

またご本人およびご家族両方に知ってもらうのが良いと思うので、皆さんに目を通してもらいましょう。

これから治療を受ける時に、内容を誰もが理解していることは大切です。

2 がん相談支援センター

がん相談支援センターはがん治療の拠点病院には必ず設置されています。

専属のスタッフが、がんの相談に乗ってくれます。

重要なのは「かかっていない病院の方の相談にも乗ってくれる」ということです。

そのため、自分の診断された病院に同部門がない場合でも、近隣の拠点病院で相談を受けることができます。

がん拠点病院に設置されているので、そこで働くスタッフはその病院や地域の実情を知っています。

そのため、がん情報サービスでは得られない、個々の情報を得ることができるでしょう。

具体的にどこで治療を受けたら良いのかということについてのヒントとなる情報が得られるでしょう。

 

サポートしてくれる緩和ケアとつながる

がん治療は、治療だけではいけません

治療に伴い、身体や心、経済的問題など、様々な問題が起こりうるため、それらを解決し、皆さんを支える「ケア」を並行して継続して受けることが必要不可欠です。

それが「緩和ケア」です。

もしかすると、少し事情を知っている方は、緩和ケア=末期と思っているかもしれませんが、現在においてそれは間違いです。

国が「診断された時からの緩和ケア」つまり「早期からの緩和ケア」「早期緩和ケア」を推進しており、転移性乳癌の場合は全例、診断された時から受けるのが望ましいです。

ただし、まだ緩和ケアを終末期と勘違いしている一般の方だけではなく、医療者も少なくなく、誤解も多いのが実情です。しかし、心身を支えるケアは必要不可欠です。

そのため、かかっている病院に緩和ケアチームや緩和ケア外来が存在するかを

・ネットで「かかりつけ病院名 緩和ケアチーム」あるいは「かかりつけ病院名 緩和ケア外来」と検索

・がん相談支援センターで尋ねる

などして把握しましょう。

実効性のある緩和ケアが行われている病院とそうではない病院では、つらさが変わってきます

抗がん剤などの治療の副作用対策も緩和ケアには含まれますので、それが弱い病院だと苦労する可能性があるのです。

かかりつけ病院で緩和ケアが受けられない場合も、周辺の病院の緩和ケア外来が受け入れてくれたり、遠隔相談を用いて全国をカバーしている当相談所を利用するなどの方法があります。

とにかく、治療だけではいけない、必ず治療とケアを並行する、ということは覚えておきましょう。

 

転移性乳癌 最初にやるべきことのまとめ

焦りは禁物です。

数週の猶予はありますから

・セカンドオピニオン

・がん情報サービスおよびがん相談支援センターでの情報収集

・サポートしてくれる緩和ケアとつながる

を一定以上のスピード感を持って行い、納得のいくようにすることが、後々の悔いを減らします。

そして「あきらめないこと」

現在の医学では、転移性乳癌が完全に治るのは難しい状況はありますが、それは「今」時点の話であり、患者数が多い乳がんには次々と新しい薬が開発されていますので、最終的にはAIDSのように治療を続けながら寿命を全うできるようになることが目標です。

そのため決して悲観する必要はありません。

余裕ができたら患者会などともつながり、また継続的に緩和ケア外来で話を聴いてもらい、心身健やかに良い生活を送りましょう。

診断された時はそう思えないかもしれませんが、そのように元気に過ごしておられる方も多いのが転移性乳癌です。

安心して治療を受けて頂ければと考えます。

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。