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新型コロナの治療薬

流行し始めている新型コロナ。

その問題点は、新型だけあって、ウイルス自体の有効な治療法が確立していないことです。

中国ではレムデシビル、クロロキン、ファビピラビル(商品名アビガン)やロピナビル/リトナビル(商品名カレトラ)などが試行されているようです。

日本でもカレトラが使用され始めていますが、有効性に関してはまだ確立していません。

そのような中、3月3日に一斉に報じられたのが気管支喘息の吸入薬であるステロイドのシクレソニド(商品名オルベスコ)による治療が奏効したとのニュースでした。

医師が解説します。

 

シクレソニドが奏効したとされる3例

日本感染症学会のHPに足柄上病院の症例報告が掲載されています。

シクレソニド(商品名オルベスコ)の効果の症例報告【日本感染症学会HP】

8例のクルーズ船からの患者を同病院は受け入れたとのことです。

うち2例は検査のみの陽性者で症状がなく、退院したとのことです。

残りの6例のうち、最初の3例は重症化に伴い転院し、うち2例は人工呼吸器装着となっているようです。

その間、国立感染症研究所のコロナウイルス研究室から、シクレソニドが抗ウイルス効果を示す可能性について情報提供があり、残りの3例に対して使用したとのことです。

すると、すでにカレトラが使用されているにもかかわらず効果が不明確でかつ副作用(下痢など)があって継続不可能だった肺炎の患者さんに効果が認められたとのことです。

また残り2例も症状の改善を認めるなどの奏効を示したとのことでした。

現段階では確たることは言えないと報告でも併記されていますが、この効果をうけて、研究が予定されているとのことです。

 

ステロイド使用の意味とは?

先述したように、シクレソニドはステロイドの吸入薬です。

ステロイドは炎症を抑える効果が強力です。

しかし、内服や注射でステロイドを、新型コロナの患者に使用することは、有名医学雑誌のLancetでも否定的な見解が出ていました。

新型コロナへの全身ステロイド使用の非推奨のLancet論文

ただし、日本のARDS(急性呼吸窮迫症候群。新型コロナの重症例でも起こる)のガイドラインでは、場合によっては検討される由が記されています。

本邦のARDS治療ガイドライン(少量ステロイドが適応になる場合もあり)

重症の感染症では、ウイルス対免疫細胞によって起こる強い全身の炎症が、非常に状態を悪くすることが知られています。

ステロイド投与のメリットとしては強力な抗炎症効果から、肺のACE2受容体から侵入したコロナウイルスがもたらす炎症を緩和できる可能性があるのです。

 

シクレソニドのさらなる利点―抗ウイルス効果―

ただ今回シクレソニドが選ばれたのはそればかりではないようです。

国立感染症研究所のコロナウイルス研究室が、シクレソニドの抗ウイルス効果について情報提供したとのことです。

それを受けて、足柄上病院はこの治療を行ったということのようです。

すなわち、シクレソニドの抗ウイルス効果を期待しての投与だったということですね。

そして他のステロイドでは現状、それはまだ確かめられていないということなのです。

本当にシクレソニドに抗ウイルス効果があるのか気になるところです。

調べると、MERSの臨床分離株を用いて、薬をしらみつぶしに探して、シクレソニドにも抗ウイルス効果があることを示した海外のプレプリント(論文下書き)は見つけました。

MERSの臨床分離株を使用してシクレソニドの抗ウイルス効果を見たプレプリント

シクレソニドと新型コロナ治療

(上記プレプリントから引用)

これを見ると、抗HIV薬であるネルフィナビル(カレトラと同系統の薬剤)と近い程度の50%阻害濃度(低いほうが強力)をシクレソニドは有しているようです。

先ほどの足柄上病院からの症例報告でも、国立感染症研究所からもたらされた情報として、シクレソニドとカレトラは同程度のウイルス増殖抑止作用があるとの記載がありました。

ただポイントはここからですが、吸入薬のメリットがあります。

それは感染局所に、高濃度の薬剤を届けうる点です。

数十倍の濃度の可能性があると、症例報告には書かれています。

ウイルス増殖を抑止する実験室での濃度が同じであっても、肺胞に届く濃度では差が出る可能性があり、したがってより効果を発揮しうる可能性があるということなのですね。

ただ新型コロナは肺の奥深くに位置するため、症例報告に実際量が記載されているごとく、多めの量を深く吸い込む必要があるようです。

そのため、吸い込む力が弱っている高齢者や呼吸器の病気がある方への使用は課題があるとのこと。

一方で、人工呼吸器が装着されているような重症の方だと、スペーサーという器具を用いて肺へ送り込むことができると記されています。

 

冷静さが必要

このニュースを受けて、早くも処方の増加の兆しもあるようです。

ただし、ここは落ち着く必要があります。

というのは、抗ウイルス効果があるということは、乱用でその抗ウイルス効果に耐性が生じうるということでもあるからです。

耐性が形成されてしまえば、投与で命を救えるかもしれない人が救えなくなってしまう可能性があるのです。

そのため、気管支喘息で使用している人が喘息に対して使用するならばともかく、風邪症状がある人が「これはきっと新型コロナだ。重症化したくない」などとシクレソニドを使用することは、大変な結末を皆にもたらしうることがないとは言えません。

どうしても新型コロナに関しては治療法の報道が少ないので、期待する気持ちはわかります。

しかしこのシクレソニドにおいてもまだ3例の結果であり、これから研究が組まれて、真の効果が明らかになってくると考えます。

それを冷静に待ちつつ、引き続き衛生の保持や、心身をできるだけ消耗しないようにセルフケアを行ってゆくのが大切と考えます。

【お役立ち情報】コロナウイルスと消毒(よく尋ねられる有効な消毒液をまとめました)

◯ 62〜71%エタノール

◯ 0.5%過酸化水素

◯ 0.1%次亜塩素酸ナトリウム

なお、2020年現在、消毒用のエタノールは品薄状態が続いており、無水エタノール4と精製水1の割合で作成することが一つの解決策です。

ただし、 燃料用アルコールの「メタノール」と間違えないこと、無水エタノールは引火しやすいため火の近くで作成しないこと、また乾くまで擦り込むことが大切なので手からしたたる程度までの量を使用することなどが大切です。

次亜塩素酸に関しては下記のページが参考になります。

次亜塩素酸水を使う際の目安濃度・適切なppmについて

次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液の特性の比較

また、新型コロナでのデータではありませんが、ウイルスの中でも新型コロナに近いSARSに関して、食器洗いに使う市販の中性洗剤も消毒作用があることが確認されています。

0.5%の濃度で「100万個」のSARSウイルスを倒すことができ、中性洗剤には薄めても十分に消毒効果があることがわかったとのことです。界面活性剤が同ウイルスに対して有効とのことです。

こちらも選択肢に挙がることでしょう。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。