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頭頸部がんの緩和ケア

顔から首までの部位(頭頸部)にできるがんを総称したものです。

発生部位によって、多様な種類があります。

咽頭がん(上咽頭がん・中咽頭がん・下咽頭がん)、喉頭がん、口腔がん、副鼻腔がん、唾液腺がん、甲状腺がんなどが含まれます。

がん全体の中で、頭頸部がんの割合は5%程度ですが、その中には上記の多様な腫瘍が含まれます。そしてそれぞれ性質や治療法が異なります。

中高年の男性に好発し、喫煙や飲酒の関連が指摘されています。

ただ、がん種によっては、若年者や女性での発症もあります。ヒトパピローマウイルス(HPV)やEBウイルスなどのウイルス感染も発症と関連していることが示唆されています。

発生部位によって症状も多様ですが、共通するものもあります。

頭頸部がんの緩和ケアについてお伝えします。

 

頭頸部がんの体の苦痛症状と緩和ケア

頭頸部がんと痛み

頭頸部がんはしばしば初期症状が少なく見逃されやすいため、進行した状態で見つかることも多いです。

疾患が進行すると当該部位の痛みが起こります。

腫瘍が原因で耳痛を来たすこともしばしば認められます。

各腫瘍によって様々な痛みを生じ得ます。

上咽頭がん・・・腫瘍部の痛みの他、頸部のリンパ節転移も高率に起こすので、同部位の痛みを訴えることがあります。

中・下咽頭がん・・・腫瘍部の痛みの他、嚥下痛、耳への放散痛などを起こします。

口腔がん・・・腫瘍部の痛みの他、摂食に伴う痛み、嚥下痛、耳への放散痛などを起こします。

喉頭がん・・・腫瘍部の痛みの他、耳への放散痛などを起こします。

副鼻腔がん・・・腫瘍部の痛みの他、顔面痛や頭痛を起こします。

頭頸部がんの痛みは、一般に対処が難しい痛みに属します

頭頸部がんの担当科は耳鼻咽喉科や口腔外科になりますが、私が協働した耳鼻咽喉科の腫瘍専門医の先生はかなりの数の症例を併診としてくれました。

それでよく理解できたこととして、頭頸部がんの痛みはしばしば一筋縄ではいかないという事実です。

病気ごとの緩和ケア説明で、これまで医療用麻薬は内臓痛という内臓の痛みによく効くことをお伝えしてきました。

けれども、頭頸部癌の痛みはしばしば体性痛や神経障害性疼痛を合併しています。

これが何をもたらすかというと、医療用麻薬だけで必ずしも著効を得られない、という状況です。

対処法としては、体性痛の要素があれば、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の併用を考慮します。

難治性の神経障害性疼痛の場合は、医療用麻薬の他に、鎮痛補助薬という痛み以外の主適応症を有しているが痛みへの効果もある薬剤群を併用します(例えば商品名リリカや商品名サインバルタなどが有名です)。

しかも頭頸部がんならではの難しさがあります。

それは嚥下障害や嚥下痛などがしばしば併存するため、「飲み薬が飲めない」あるいは「飲み薬が飲みづらい」ということがよくあるということです

したがって、鎮痛薬の選択肢も狭まります。その方がちゃんと鎮痛薬を使用できる方策を選択しなければなりませんが、これは診察時間もかかり、緩和ケア医の併診が望ましい理由のと言えるでしょう。

 

頭頸部がんと痛み以外

それぞれのがんによって、痛み以外にも様々な症状を起こします。

のどの異和感や飲み込みの悪さ(嚥下障害)、声がすれや、口内の難治性潰瘍、頸部リンパ節腫脹による張り感など多様です。

どちらかというと、離れた臓器や内臓に転移して・・・というよりは、腫瘍周囲への進展によりもたらされる問題が大きいでしょう。

物理的な圧迫や閉塞、機能障害に関しては、緩和ケアでも対処が難しい症状もあります。症状緩和のための放射線治療なども検討・施行されます。

また食事摂取が腫瘍によって物理的に困難になることの他に、炎症性サイトカイン血症などから腫瘍性の悪液質を起こす傾向も強く、倦怠感(だるさ)や食欲不振、体重減少も他の高度進行がんと同等以上に起こりえます。

あらゆる可能性が考えられるので、出た症状に応じてしっかりと原因をアセスメント(評価)し、できることを探っていきます。

 

頭頸部がんと心理的な問題、治療に関する問題

頭頸部がんは、抑うつの頻度も相対的に多い腫瘍で、それは治療前後を問わず認められます。27~28.5%との報告もあります。

【参考;英文】

Anxiety and depression in head and neck out-patients.

Long-term health-related quality of life in survivors of head and neck cancer.

疾病に関連する厳しい環境だけではなく、疾病自体でも抑うつを起こしやすい可能性があり、周囲は注意する必要があります。

手術、化学療法、放射線治療など集学的治療が施行されることもあり、治療による合併症や副作用も起こりうるため、経験豊富ながん治療医の関与が不可欠です。

治療にまつわる不安やストレスも、支援すべき問題です。

患者さんに高齢の男性が多いため、コミュニケーションにも様々な工夫を行い、社会的な支援をより強めることも重要です。

 

まとめ

頭頸部がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。

痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。

頭頸部は摂食やコミュニケーションに関連する機能を有しているとても重要な場所であり、同部位のがんの高度進行は機能の障害が不可避であり、その支援にも十分な配慮が必要となります。

また頭頸部がんも痩せや食欲不振が目立つ腫瘍で、しばしば食べていないためだと捉えられているのですが、それだけではない可能性があります。

倦怠感と食欲不振、抑うつは、ある研究において、ステロイドに反応して同様に改善したということが指摘されています

病態の背景が似ている、つまり腫瘍性の炎症性サイトカイン血症などが関係し、腫瘍が起こしている特定の物質の上昇や活性化が、倦怠感や抑うつの源となっていることが推測されます。

頭頸部がんは抑うつの頻度も相対的に高く、頭頸部という場所にある腫瘍自体の恒常的な不快感や、治療の大変さ、病者のプロフィールによっては社会的支援要素の脆弱性など様々な要因が背景にはあるものの、病気自体もそれに影響している可能性があります。

痛みに関しては、特に「内服薬が飲みづらい・飲めない」ため、治療の選択肢が限られ、緩和ケア医に早期から関わってもらったほうが良いがん種です。

高齢男性の患者さんも多いため、ご家族からも緩和ケア介入を希望する由を主治医・担当医にお伝えするなど、コミュニケーション面での支援も重要でしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。