大津 秀一/ 7月 16, 2018/ 慢性心不全 緩和ケア

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緩和ケアとは症状緩和だけにあらず

緩和ケアとは名前が必ずしも良いわけではなく、
①終末期のイメージが強い
という側面ばかりではなく
②症状の緩和だけのことのように見える
という点もあります。

緩和ケアとはQOLを向上させるアプローチ(世界保健機関の定義)なので、症状を直接的に緩和するだけではなく、多様なアプローチをすべて包摂するものです。

慢性心不全の緩和ケアにおいても、単に症状を緩和するだけではなく、予測されることを十分考え、患者さんやご家族と共有し、有事の際のことをよく話し合うというものが非常に重要になります。

それがゆえに、これから紹介する症状緩和はあくまで慢性心不全の緩和ケア全体の一部であることは前もって付記しておく次第です。

 

慢性心不全の苦痛症状

慢性心不全の苦痛症状はがんの患者さんのそれを上回っていたという報告もあります。

症状は多岐に及びます。

呼吸困難(息苦しさ)、倦怠感(だるさ)、痛み、抑うつ、不安、不眠などが認められます。

もちろん病気の途中までは、心臓病の管理が効いて症状は緩和されるでしょう。

しかし終末期が近づくと、既存の治療策では症状緩和が得られ難くなるのはがんとも同じです。

 

息苦しさ(呼吸困難)

慢性心不全で大きな問題となる症状ですし、緩和ケアの介入が求められることも多い症状です。

様々な薬剤を用いて緩和を図るのは、がんの患者さんに対してと同様です。

低酸素血症があるようならば、酸素療法が適応となり、これは在宅でも行えます。

運動療法も慢性心不全の息苦しさを緩和するとされていますが、重度の場合には議論もあります。

薬に関してご説明すると、まず医療用麻薬は、運動耐容能や運動に関係する息苦しさを緩和します。

特にモルヒネは以前から使用されているオピオイド(オピオイド受容体に作用して症状緩和する薬の総称)なので、使用経験が多く、勧められます。

ただしモルヒネは腎機能障害があると、代謝物が蓄積するので、その使用には慎重さが必要となります。

息苦しさに関しては、痛みと比べて相当少ない量でも症状緩和されることが知られています。

私自身はモルヒネの持続注射を用いて5mg/日程度で緩和した患者さんもいます。

モルヒネを使い慣れていない医療者は、しばしば呼吸抑制などを心配しますが、上記のような量を慎重に用いる限りその危険性は相当低いです。

一般に、ほとんどの循環器科医はモルヒネなどの医療用麻薬のスペシャリストではないため(専門性の違いで優劣ではありません)、必要以上に医療用麻薬使用に危惧を頂いているケースも中にはあります。

適正な情報を提供することで医療者側の抵抗感を減らすことも、大切な緩和ケア的なアプローチとなります。

ベンゾジアゼピン系の薬剤、いわゆる抗不安薬も慢性心不全の息苦しさの緩和に用いられます。

がんの患者さんに対してと同様ですね。

ただ医療用麻薬と比べるとその効果に関しては文献的には議論があり、基本的には息苦しさの不安や恐怖が強いケースに適しているでしょう。

痛み

慢性心不全と痛みは、一見結びつきづらいですが、実は頻度が多い症状で、80%以上という見解もあります。

胸痛や背中、関節などの痛みを訴えられることが多いです。

慢性心不全の痛みの緩和にも医療用麻薬がしばしば用いられます。

ただし日本の医療用麻薬の保険適応はがんのみである薬剤も多いので、使用時には考慮すべき点が種々に存在します。

関節痛には、慢性心不全以外の患者さんには、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が使われることも多いですが、慢性心不全の病態には向いていない可能性があり、使用には十分な検討が必要です。

それもあり基本的にはアセトアミノフェンや医療用麻薬で対応することが多いでしょう。

倦怠感(だるさ)

倦怠感は複合的な理由で起こるため、容易ではない症状の1つです。

大腿の筋肉を強くすることで緩和されるという報告もあります。

不眠や抑うつなどが関与していることもありますから、身体からだけではなく、包括的に捉えることが必要で、それぞれにできる対策を行っていきます。

吐き気

実は吐き気も少なくない症状です。

慢性心不全に続発する肝・腎機能障害や肝うっ血、腸管の浮腫、薬剤性など様々な原因を鑑別しなければならず、緩和ケア的な症状のアセスメント力が求められます。

がんの患者さんにも有効な中枢性の(脳等に作用する)制吐薬はQT延長などの不整脈の懸念があるため、慢性心不全の患者さんへの使用にはしばしば熟慮が必要です。

そのため同作用の懸念がないロラゼパムなどの制吐作用がある抗不安薬が使用検討されます。

うつ

慢性心不全の患者さんもがんの患者さんと同様に、抑うつやうつ病になりやすい可能性があることが知られています。

20%という報告もあります。

身体的な症状も同病態の悪化に関与するので、単に精神症状だけにとどまらないアセスメントが重要です。

場合によっては抗うつ薬等の薬剤を用いて緩和を図ります。

不安

呼吸困難の不安だけではなく、病気の見通し、死の恐怖、家族に迷惑をかけているのではないかという危惧など、様々なものが不安の原因になります。

身体の症状を出来る限り軽減することは精神的ケアの点でも有効ですので、緩和ケア担当者としては総合力が必要とされます。

できるだけ精神症状の加療にも精通している緩和ケア医に担当してもらうのが良いでしょう。

また不安を生じている背景を把握するため、傾聴なども重要です。

まとめ

慢性心不全の苦痛症状についてまとめました。

呼吸困難(息苦しさ)が中心となりますが、他にも多様な身体的症状を起こし、また精神的な問題も無視し得ない問題です。

家族ケアの重要性もがんの患者さんと同様に示唆されています。

病気がある程度進行するまでは循環器科の医師が主担当となりますが、それでも症状が抑えられなくなった時、あるいはその前でも精神症状などを認める場合は、緩和ケアの併診が望ましいと考えられます。

慢性心不全の終末期においては、がんと異なって緩和ケア病棟・ホスピスには現状入院ができませんが、緩和ケアチームで診療報酬が取れるようになった(診療対象となった)ことは後押しとなるでしょう。

一方で緩和ケアの担当者も慢性心不全の対応にまだ習熟していない可能性もあり、経験の蓄積がこれから重要になると考えます。

患者さんやご家族へのご助言としては、内科的な治療にも詳しい緩和ケア医の介入を依頼されるのが良いということになるでしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。