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多発性骨髄腫末期・進行期の骨の痛みと対処法・緩和ケアについて専門医が解説します。

多発性骨髄腫の緩和ケア

2017年のがん統計予測

によると、多発性骨髄腫は罹患数も死亡数も全体の10位には入っておりませんので、頻繁に見かける病気ではありません。

しかし後述するように、緩和ケア科への依頼は多いほうです。それはある症状が多いからであり、緩和ケアとしても重要な腫瘍です。

多発性骨髄腫は血液細胞のうちの形質細胞という細胞のがんです。

年齢の高い方に多いがんであり、がんだけではなく、しばしば他の病態や疾病を持つご高齢の患者さんに対する諸配慮が必要になります。

多発性骨髄腫の緩和ケアについてお伝えします。

 

多発性骨髄腫の体の苦痛症状と緩和ケア

多発性骨髄腫と痛み

多発性骨髄腫は、形質細胞ががん化した病気です。

骨髄腫細胞はとても厄介な作用を持っています。

それは破骨細胞という骨を壊す細胞を刺激することです。

そのため、全身の骨に病変が出現する可能性があります。

なお、多発性骨髄腫の骨病変は「骨打ち抜き像」という、レントゲン写真だと黒く丸く抜けた像を呈します。

骨病変がいろいろなところに起こりますので、症状としては痛みがメインということになります。

痛みの形式としては、体性痛というものに分類されます。

体性痛は場所がはっきりした痛みですし、鋭さがあります。

また骨病変は、その骨に力が加わることで痛みが悪くなりますので、体動時痛(たいどうじつう)という動いたときの痛みが1つの特徴です。

体性痛にも医療用麻薬がある程度効きます

ただ骨痛は炎症も強いですから、胃・十二指腸潰瘍や腎機能障害がなければ、ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)のような非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用することが、緩和治療の1つのポイントになります。

しかし多発性骨髄腫は後述するように病気自体が腎障害を起こすため、NSAIDsの使用にも慎重さが必要です。バランスを考えて判断します。

他にも、破骨細胞の働きを抑える薬剤(商品名ゾメタやランマーク)等を用いたりすることもあります。

骨病変の中でも特に問題になるのは脊椎、一般にいう背骨です。

このような脊椎骨にも、病変は好発します。

背骨の骨破壊性病変は、重大な結果を招くことがあります

これは「即対処」が必要なので、皆さんもぜひ知っておいてください。

背骨(脊椎)の後ろには脊髄があります。

脊髄は運動神経や知覚神経が集まる、人の神経の中枢の1つです。

ここが障害されると、運動麻痺などを起こし、また現在の医学では神経再生を臨床レベルで行えておりませんから、一度不可逆的な神経障害を起こしてしまうと、もう元には戻りません

脊椎の病変の進行により骨が変形あるいは骨折などすると、後方の脊髄を圧迫し、運動障害を起こします。

初発症状としては、両足のしびれ(腰椎の場合)であることが多いです。

時期を逸すると、完全麻痺になってしまいます。

脊椎病変を指摘されている方は、両足のしびれや動きが悪いなどの症状が出たら、すぐにかかりつけの病院に連絡をしてください。

緊急の放射線治療や手術で神経障害の進展や障害の固定を食い止める必要があります。

また、多発性骨髄腫は病勢が抑えられても腰痛が持続するケースがあり、非がん慢性疼痛に属するような事例も散見されます。心理的な要素への理解も大切です。痛みに関しては全病期にわたって緩和的なアプローチが必要です

 

多発性骨髄腫と痛み以外

骨髄腫細胞は全身の多様な場所に影響を与えますから、出現する症状も多種多様にわたります。

● 貧血

息切れや動悸が出ます。

● 感染

免疫機能が複合的な理由で低下し、感染を起こしやすくなります。

● 腎障害

骨髄腫細胞が出す蛋白で腎臓が障害され、腎機能障害が進行するとむくみなどが出現することもあります。

他に骨髄腫細胞が出す蛋白が各組織に沈着して起こるアミロイドーシスや、高カルシウム血症を起こすことがあります。

これらの症状に関しては血液内科医が対応してくれます。

 

多発性骨髄腫と心理的な問題、治療に関する問題

悪性リンパ腫は高齢の方に多いがんです。

しかも完治が容易ではないという特徴があります。

年齢が65歳以下の場合は、造血幹細胞移植も行われます。

一般に年齢が66歳以上の場合は、造血幹細胞移植ではなく、各種薬剤による寛解導入療法や維持療法が中心になります。

特にご高齢の患者さんの場合は、完治が目標にならず、症状を抑えてできるだけ良い延命をすることが治療の目標となります。

様々な新しい薬剤が使用できるようになり、分子標的治療薬や免疫調節薬などが、旧来の一般的抗がん剤による治療に加えて選択肢となっています。

治療に関しては専門的な知識が必要となるため、血液内科医が担当します。

治療に関連した症状を我慢せずに、治療担当医にしっかりはっきり伝えることが大切です。

患者さんにはご高齢の方も多いので、他にご病気を有している場合もあり、老年医学の観点からも全身を診ることが大切になります。

多発性骨髄腫の治療も比較的長期にわたります。病気の性格や治療等で患者さんが理解しなければいけない情報も多いですが、ご高齢の方の場合なかなか詳しく理解するのが難しいケースもあり、ご家族の支援が必要となるでしょう。

完治が難しい腫瘍であるため、治療が継続されることも多く、当然治療の副作用も起こりえますし、病変自体の苦痛もあり、不安や心理的なストレスも人によっては相当なものになります。

「治療しているのになぜ良くならないのか」と悩まれる患者さんもいらっしゃいます。確かに副作用を伴う治療にもかかわらず、完治し難いというのはなかなか受け止めるのが困難な場合もあるでしょう。

厳しい経過の場合は患者さんの心理的負担も強くなります。お話をよく伺い、心身のためにできることを探っていきます。

 

まとめ

多発性骨髄腫も他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。

痛みが重要な緩和ケアの対象となりますが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。

他の血液がんと異なり、抗がん剤が効いても骨痛や腰痛などが残存するケースがあります。疼痛の慢性化(非がん慢性疼痛のメカニズム)の合併もあるのかもしれません。緩和系の薬剤を使用して少しでも症状を軽くする必要があります。

病気の性格上、ご高齢の方も多く、多発性骨髄腫だけではなく全身の状態や心理の状態にも十分な注意を払い、療養を支援します。

多発性骨髄腫は血液がんに属しますが、痛みという問題が顕在化しやすいので、比較的緩和ケア部門とつながりやすいがん種です。しかし施設によってはあまり緩和ケア部門に紹介されないことも存在し、多発性骨髄腫でも緩和ケア「併用」ができることを患者さんやご家族が知らないケースもあります。

比較的身体の症状が抑えられている時期でも心理的な問題や社会的な問題があったり、総合的かつ広範なアセスメントとアプローチによる緩和ケアが必要です。

苦痛がある場合は遠慮なく緩和ケアの利用をお申し出頂くのが良いでしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。