芍薬甘草湯が使えない場合どうするか

甘草量を記載しているページへのリンクも後で出て来ます。

さて、ある患者さんは芍薬甘草湯で肝機能障害が出てしまったので、足のつりに対して効いていた芍薬甘草湯が使えない・・・と仰っていました。

漢方というと副作用が少ないイメージがありますが、必ずしもそうではありません。

例えば、様々な漢方薬に含まれる甘草は、偽アルドステロン症を起こすことがあります。

漢方薬の副作用 偽アルドステロン症を中心に

甘草の主成分であるグリチリチンは科学的に極めて安定な物質であり、消化酵素や胃酸、アルカリなどで分解されずに腸内に進みますが、腸内細菌であるユウバクテリウムが産生するβグルクロニダーゼという酵素によって代謝を受け、2分子のグルクロン酸がはずされ、グリチルレチン酸として吸収されて薬理作用を示すのです。偽アルドステロン症は、このグリチルレチン酸によって引き起こされることがわかっております。

（略）

症状としては、さきほど述べましたとおり、四肢の脱力から現れますが、歩行困難になったり、起立不能となって入院する事例も知られており、多くは初期症状に気付きながらも受診せず、重症化させてしまう事例も報告されています。
好発時期としては、一定の傾向は見られないものの、3ヶ月以内の発症が40％を占めることが知られています。

 

上の文献には頻度が推測されていますが、おおよそ0.3％程度であるようです。

甘草は様々な漢方薬に含まれます。

漢方製剤148品目中、甘草を含有するものは実に109品目に及ぶとされます。

そのうち、甘草が2.5ｇを超える製剤12品目は、使用上の注意に「低カリウム血症に禁忌」とされています。

ではどれが2.5g以上か。

下記のページに詳しいです。

カンゾウ含有量一覧

甘草湯や芍薬甘草湯、甘麦大棗湯などは特に含有量が多いです。

また抑肝散は1.5ｇ／日なのですが、例えばこの量でも高齢者等だと（例え一日の甘草量が2.5ｇ以下でも）偽アルドステロン症が発現するため注意が必要です。

特に利尿剤や他の甘草含有製剤と併用するとリスクが増大するとされ、甘草含有製剤を高齢者に長期服用する場合は低カリウム血症や偽アルドステロン症に留意する必要があります＜参考；甘草含有漢方製剤の低カリウム血症について＞。

 

足のつり、こむら返り、筋けいれんへの芍薬甘草湯と牛車腎気丸

芍薬甘草湯は、こむら返りによく奏効します。

一方で、上述のように芍薬甘草湯は甘草量が多いですから、使用し難い場合もあります。

そのような場合に、代替として考えうるのが牛車腎気丸です。

牛車腎気丸は甘草を含みません。

がん領域では、抗がん剤のしびれ対策に使用されたり、むくみの対処で用いられることもあります。

科学的根拠の強い結果ではないものの、いくつか論文がありますので、紹介します。

◎抗がん剤のS-1の副作用の筋肉のけいれんに牛車腎気丸が奏効した1例

膵臓がんの80歳の女性。抗がん剤の内服薬であるS-1使用中。下肢の筋けいれんの悪化による歩行障害の訴えで緊急治療室を訪れるが、低カリウム血症はなし。芍薬甘草湯は無効。牛車腎気丸2.5 gを1日1回から開始し、開始2週間後に1日2回・5g／日に用量を増やし、その後奏効。

 

◎就寝中のこむら返りのために安眠が妨げられる sleep-related leg cramp （SRLC） に牛車腎気丸が奏効

就寝中にこむら返りのために安眠が妨げられる sleep-related leg cramp （SRLC） は睡眠障害の原因の1つ。牛車腎気丸を7例（男性5，女性2）に使用。7例中3例のに牛車腎気丸が奏効、4例は効果不十分。有効例は冷えや排尿障害など「腎虚」のある例。腎虚のない症例や胃腸虚弱のある症例、上肢の筋けいれんを認める症例には無効。

 

まとめ

がんにも漢方薬は様々な症状に対して使用されています。

多くの漢方で含まれる甘草は、偽アルドステロン症や低カリウム血症を起こすので一定の注意が必要です。

こむら返りと言えば芍薬甘草湯が速効を示しますが、使えないケースや無効例もあります。

なにせ芍薬甘草湯がよく効くので完全な代替薬にはなりませんが、一部奏効を示すケースもあり、医師等とよくご相談すると良いでしょう。