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緩和ケアと余命

「緩和ケアを受けるということは余命がどれくらいでしょうか?」

そのような質問を聞くことがあります。

このページをよくご覧の皆さんは、この質問がナンセンスだということをご存知だと思います。

ただ、緩和ケアと言えば「緩和ケア病棟やホスピス」という意味で使われていることもままあるため、このような質問が出てくる場合があります。

「緩和ケア? じゃあ、余命が長くないんじゃない……?」

そんな使われ方も一般ではされることもありますね。

ここを普段からご覧の方皆さんには耳にタコかもしれませんが、緩和ケアと余命について考えてみます。

 

緩和ケアと余命の関係

緩和ケアを受けると、むしろ余命が延長する可能性について指摘したのが、ニューイングランドジャーナルオブメディシンという権威ある医学雑誌に2010年に掲載されたTemelの論文でした。

Temelの論文(英文)

非小細胞肺がんという肺がんの一部の患者さんに、緩和ケアを標準治療と併用することで余命が統計学的に意味のある程度で延長した、というものです。

この論文は多数の論文にさらに引用され、様々な見解も示されています。

いずれにせよ、緩和ケアを提供することで余命が延長する可能性について示されたことは大きなインパクトになり、日本における2013年からの第2期がん対策推進基本計画に「診断されたときからの緩和ケア」が盛り込まれたことにも影響したのではないでしょうか。

緩和ケアを受けることで余命が短縮したという見解はあまり見かけず、緩和ケアを受けることで余命は変わらないか、延びるか、というのが一般的な考えだと思います。

なお緩和ケアを受けることで、抑うつが少ないとか、QOLが向上するということは諸論文でも指摘されており、余命も重要ですが、それに留まらない良い影響を提供することにも早期から併用する緩和ケアの意義があります

 

緩和ケアを受けている人の余命を聞くのは意味がない

緩和ケアと余命の関係が知りたいという方は、緩和ケアを受けるような人はどれくらいの余命なのかと気になっているのではないでしょうか。

しかし現在、この問いはあまり意味をなしていません

なぜかと言えば、緩和ケアは、早期でも、治るがんでも受けられるからです。

すなわち、緩和ケアを受けていて、今後余命は寿命まで、とか数十年はあるという方が含まれています。

一方で、緩和ケアは末期になると受けるものと思っていたり、実際に医療者からその話が来るのが末期になってからだったりという方も相当にいらっしゃいます。

このように、緩和ケアが早期から受けられることを知っている方は、早々に受けることができ(あるいは診てくれるところが見つからず受けられずということもある)、知らない方は最後まで受けられないで……ということもあるのが、2018年現在の緩和ケアの実態です。

地域によっては、最初から最後まで緩和ケアの話が出なかったり、周りに緩和ケアの提供元がまったくなかったりして、緩和ケアを全病期を通じて受けられないこともあります。

というわけで、緩和ケアを受けているから、余命がどれくらいということは言えません

末期になって受ける人は余命が一般に短いでしょうし、最初から受ける人は余命が長いです。

緩和ケアを受けているから、余命は◯◯くらいでしょう、と言えない理由はおわかり頂けたでしょうか?

 

緩和ケアで発展した余命の予測

がんの場合に、患者さんの実際の余命がどれくらいあるのか、それは医療者にとって関心事でした。

確かに、余命がどれくらいあるかによって、例えば患者さんがどれくらいのスピードで有事に備えなければいけないかが異なるでしょう。

そればかりではなくて、診ている医療者側からも、支援の内容やスピード感など、おおよその余命を予測できたほうが適切なケアや医療を行える可能性が高くなります。

そのような状況から、緩和ケアの領域から、高度進行がんの患者さんの余命を予測する尺度が開発されました

日本でもつの有名な尺度が開発されています。

このような状態やデータだと、余命はこれくらいと当てるというもので、妥当性を検証されて論文化されています。科学的根拠性の高いものです。

私も、このような状態だとこれくらいの余命というのを皆さんの役に立つようにと、以前からがん終末期の予後予測をホームページに掲載していますが、時々「参考になりました」とメッセージを頂戴します。

がん終末期予後判断指針(大津版)

スコアリングにはなっていませんが、一般の方がある程度大まかなものを掴むのには十分活用できると考えています。

このように緩和ケア領域では、余命を的中させるツールが開発・発展してきましたが、数週間の予想に関してはかなり当てられるようになっていますが、3ヶ月以上や半年以上、という場合は当てることが難しいです。

すなわち、ある程度余命が限られてこないと、予測はできない、ということです。

したがって、生存期間中央値を元に、「あなたの余命はあと1年です」的な予後予測は、当たるとは限りません。

一方で、がんの場合は、残り数週という場合にはある程度予測できます

いずれにせよ、それなので、余命は(かなり病気が進行している場合でもない限り)聞く意味が乏しいかもしれません。

数字に縛られてしまうことが予測されるならば、いっそ聞かないほうが良いでしょう。

もちろん性格や思いには個人差がありますので、尋ねて悪いということはありませんが、余命予測に関してはそのような限界があるのです。

 

まとめ

緩和ケアを受けていると余命がどれくらいということは気になる方もいるようです。

しかし緩和ケアは今はいつでも患者さん・ご家族と医療者のマッチングが行われれば、受けられる状況にあります(ただしそのような幸運な例は少ないのも問題。だから当所を立ち上げています)。

それなので、早期の方や治る方も緩和ケアを受けている方の中にはいらっしゃいますし、患者さんのご遺族も診ている場合もあります。そのような場合は、当然余命が云々という話ではないわけです。

一方で、末期になって緩和ケアを受ける方は当然余命としては厳しいでしょうし、緩和ケアを受けないで末期になって最後まで受けない方もいます。

状況は多様すぎて、緩和ケアを受けているから余命が短い、ということは必ずしも言えません。

むしろ余命が延長、とする有名論文まであることが注目されています。

緩和ケアを受けているってことは余命がどれくらい? という質問がまだ散見されること自体、緩和ケア=末期、緩和ケア=治療できない状態との一般社会への浸透が持続していることを思わせ、変わっていかねばならない、変えねばならないと感じる次第です。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。