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認知症に緩和ケア? と思われる方もいるかもしれません。

緩和ケアといえば、皆さんがご存知のように、がんのイメージが強いです。

しかし2018年、慢性心不全にも日本の保険診療上の適応疾患として広がったことは以前述べました。

【緩和ケア医解説】慢性心不全の緩和ケア

肺気腫などの病気も世界的には対象にはなっていますが、日本では保険上の適応疾患ではないため、普及にはまだまだという状況です。

慢性閉塞性肺疾患(COPD : 肺気腫・慢性気管支炎等)の緩和ケア

同じく保険上の適応疾患ではない認知症も同様です。

ただしこれらはあくまで保険上の適応疾患となっていないだけで、世界的には緩和ケアの対象疾患と捉えられています。

したがって、控えめに言っても、認知症にも緩和ケアは提供されて良いと考えられます。

 

緩和ケアとは症状緩和だけにあらず

緩和ケアとは名前が必ずしも良いわけではなく、
①終末期のイメージが強い
という側面ばかりではなく
②症状の緩和だけのことのように見える
という点もあります。

緩和ケアとはQOLを向上させるアプローチ(世界保健機関の定義)なので、症状を直接的に緩和するだけではなく、多様なアプローチをすべて包摂するものです。

認知症の緩和ケアにおいては、現在の医療では避けることができない、いずれ来る「持てる機能の低下」の問題を、患者さんやご家族と事前から十分相談し、価値観に沿った生活や最期を送り迎えられるように支援する、という点が極めて重要になります。

栄養もいずれ経口的に摂取するのが難しくなる時期が来ます。

その際にどうするか。

それを事前に話し合う機会がとても重要なのですが、多くの場合、それができているとは言い難い現状があります。

緩和ケアは生活の質を上げるアプローチで、また早期から対応するものであり、今後起こりうることに対して十分話し合い、前もってその際の道すじを策定しておくことも範疇に含まれます。

名前がゆえに症状緩和が中心の医療と捉えられがちですが、実際はそうではなく、症状緩和はあくまで認知症の緩和ケア全体の一部であることは前もって付記しておく次第です。

各々の苦痛に関して説明する前に、もう一つお伝えしなければいけないことがあります。

それは

③認知症の方も苦痛を自覚している可能性があるが、訴えを正しく受け取るのが難しいために、見過ごされているかもしれない

という点です。実は認知症を患っている方も様々な苦痛を感じている可能性があることは示唆されています。それを皆さんにお伝えしていきます。

 

認知症の身体的苦痛症状

症状は多岐に及びます。

終末期となると、繰り返す感染症(誤嚥性肺炎や尿路感染症など)、褥瘡、食事摂取不良や体重減少等が顕在化します。

ある研究The clinical course of advanced dementia.)によれば

呼吸困難(息苦しさ)・・・46%

痛み・・・39.1%

とされていますし、別の研究(Dying with dementia: symptoms, treatment, and quality of life in the last week of life.)においても

痛み・・・52%

呼吸困難(息苦しさ)・・・35%

興奮(せん妄性)・・・35%

とあります。

なお後者の文献では、77%が医療用麻薬(正確にはオピオイド。投与量の中央値は内服モルヒネ換算90mgと多い量)、21%が症状緩和のための鎮静を受けていたと記載されていますが、随分と日本と異なります。日本ではいずれも0%近いかもしれません(施設によるでしょうが)。

認知症の方の痛みを正しく評価するのは難しく、PAINADなどのツールが医療者によって用いられることもあります。

実際の治療においては、現在の日本においては多くの医療用麻薬の適応症が「がん」が中心なので、認知症高度進行期や終末期の痛みや呼吸困難に対して医療用麻薬を用いるのは容易ではありません。

また不用意な使用はせん妄を増悪させるリスクもあります。

基本的にはアセトアミノフェンや、慢性疼痛に対して使用できるトラマドールなどが検討されるでしょう。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)も使用できますが、終末期の患者さんは腎機能障害もあるケースが存在し、使う場合は熟慮する必要があります。

衰弱+高齢者という場合は、薬の使い方に特に注意を要し、老年医学や内科の知識が重要となります。

 

認知症の精神的苦痛症状

妄想、幻覚などが認められることは知られており、それはすでに認知症の治療をしている医師によって加療されていることも多いです。

他にも、うつ病や不安、睡眠障害など様々な精神症状を起こします。

認知症の患者さんも、抑うつやうつ病になりやすい可能性があることが知られています。

24%という報告(Mental and behavioral disturbances in dementia: findings from the Cache County Study on Memory in Aging.)や32%という報告(Prevalence of neuropsychiatric symptoms in dementia and mild cognitive impairment: results from the cardiovascular health study.)もあります。

身体的な症状も同病態の悪化に関与するので、単に精神症状だけにとどまらないアセスメントが重要です。

 

ご家族の苦痛への対処

周知のごとく、認知症の諸症状が強い方のご家族は相当なストレスを経験することになります。

参考;Neuropsychiatric symptoms in patients with Parkinson’s disease and dementia: frequency, profile and associated care giver stress(英文)

ご家族への直接的サポートも重要ですが、患者さんの諸症状の緩和がご家族の心身の負担軽減につながることもあり、双方へのアプローチを行い、緩和ケアを行っていきます。

 

まとめ

認知症の苦痛症状についてまとめました。

認知症で身体の苦痛症状があることはあまり認識されていませんが、実際にはそれなり以上の頻度で存在することがわかっており、適切な対処が必要となります。

家族ケアも大切です。

認知症の緩和ケアにおいては、起こりうる先の問題に関しても、十分話し合い、道すじを決めてゆく必要があります。それも大切な緩和ケアの一部です。

緩和ケア担当者にも内科、老年医学、精神医学など、様々な領域の理解が必要な、総合的対応が求められる疾病であるにもかかわらず、未だに保険適応ではなく、緩和ケアの普及にはまだまだという状況です。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。