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診療報酬が動かす医療

2018年、末期心不全に緩和ケアチームが関与することで、がんと同様に診療報酬が得られるようになりました。

緩和ケア診療加算

これまでは実質的にがんのみだった(AIDSも診療報酬を得られるが、実際にはほとんど介入ケースはなかった)ところから、末期心不全も病院はお金が取れるようになったのです。

実は私は、前任病院勤務時に、ボランティアで心不全も循環器内科から要請があれば介入を行っていました。

緩和ケアチームの介入でお金が発生するようになったため、これから依頼は増えるでしょう。

なお、緩和ケア外来やホスピス・緩和ケア病棟の入院では、相変わらず対象疾患に入っていませんので、そこは注意が必要です。一般の緩和ケア外来で診てもらえたり、ホスピス・緩和ケア病棟に入院できるようになったわけではありません(私の行っている外来では診られます)。

また心不全はがんと異なり、基本「”末期”心不全」が対象です。

診断時からの緩和ケアが謳われているがん(緩和ケアは末期限定ではない)とは、その点も異なります

 

実は緩和ケアの対象数が最も多いとされる心不全

2014年に世界保健機関等による「Global Atlas of Palliative Care at the End of Life」(終末期の緩和ケア世界地図とでも訳されるでしょうか)が発行された際、読んで驚きました。

緩和ケアのニーズ 慢性心不全等の心疾患がトップ

Global Atlas of Palliative Care at the End of Life。p14より引用)

なんと「心血管疾患」の対象者(38.47%)が、「がん」の対象者(34.01%)より多いとされているのです。

日本では伝統的に、緩和ケア=がんでした。

もちろん他国でも、がんを中心に緩和ケアが発展してきたのは事実です。

しかし2015年のエコノミスト誌(イギリス)の死の質(QOD)ランキングの下記の記載も興味深いです。

死の質ランキング(p38)

the existing framework is focused on cancer patients, making it difficult to expand treatment to others. Although the number of specialised staff is adequate to meet oncological needs, it is insufficient to support patients with other illnesses.

他国には類する記載がないので、日本に特徴的だと捉えられているのでしょう。

つまり、「既存の枠組みはがん患者に焦点を当てており、他の疾患へ緩和ケアを拡大することが難しいです。専門スタッフの数は腫瘍領域のニーズを満たすのには十分ですが、他の病気の患者を支援するには不十分です」という状況は、記載するに足る違いと映っているようです。

 

戦線が拡大することは兵站の困難に拍車をかける

上述のように、末期心不全は対象者が多いゆえに、いつかは緩和ケアを拡大しなければならなかったことです。

一方で、現場は難しさを抱えることになりました。

また、あるがんの患者さんが「がんにも緩和ケアが十分とは言えないのに、大丈夫なのでしょうか?」と記されているのを見ました。

がんの患者さんからすれば危惧されるところでもありましょう

実際、2018年現在、まだまだがんとがん以外の緩和ケアを取り巻く状況は容易ではありません。

① 養成機関がまだまだ少ない

継続的に緩和ケアの専門家を養成する体制がまだ構築されていない大学もあります。

専門家が少ないので、新しい専門家を育てるのも数的な不利があります。

② これまでの養成プログラムに心不全が入っていなかった場合も多い

緩和ケアと言えばがんなので、これまでの養成プログラムで緩和ケア医になっても、抗がん剤等の化学療法や放射線治療の研修は受けても、心不全の研修は含まれていなかったケースも多いでしょう。

③ 緩和ケア医で慢性心不全の十分な診療歴がある医師は多くない

新しい世代では、上述のような研修プログラムを経て緩和ケア医になっていますが、以前は他の科から緩和ケア医になるのが唯一のキャリアでした(私はその最後くらいの世代です)。

外科や麻酔科から緩和ケアになった先生も多いです。

私は元々内科医なので、慢性心不全を自分が主治医として加療した経験があります

担当医として経験しないと、深い疾患理解につながらない側面もあり、診たことがない病気に対応するのは容易ではありません。

 

上記のような様々な難しい状況はありますが、すでに賽は投げられました。

がんとがん以外に緩和ケアを提供するにあたり、現状はまだまだ専門家の不足があり、また末期心不全の対象疾患追加は大病院の緩和ケア部門の限界に抵触するかもしれず、当院外来のようなサービスがその合間を埋めることが必要でしょう。

 

まとめ

がん以外の緩和ケアの知名度はまだまだ非常に低いですし、末期心不全も多くは従来どおり循環器科が診療するでしょう(緩和ケア科への依頼も手探りでしょう)からすぐには大きな変化にはならないとは考えられます。

しかし軌道に乗ってくれば、緩和ケア部門の持つ時間がより奪い合いになるかもしれません。

緩和ケア医に求められるスキルも、より内科的な傾向が強くなる可能性もあります。

元々、がんでも実際は緩和ケアの適応となる範囲は広かったので、「知っている者勝ち」な側面がありましたが、緩和ケア部門の業務量としては増える傾向にあるので、ますます「黙っている」「待っているだけ」が、がんの場合でも末期心不全の場合でもふさわしくないということは言えるでしょう。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。