原発不明がんの緩和ケア
一般の皆さんは「原発不明がん」というがんがあることをあまりご存じない方もいらっしゃるでしょう。
しかし、その頻度は実に「すべての悪性腫瘍のうちの約1~5%」とされています。
原発部位として多いのは膵臓、胆道、肺と報告されています。
どれも一般に進行が早い、厳しい種のがんですね。
原発不明がんの中での、病理診断の結果でいくつかに分類されます。
① 腺がん(約60~70%)・・・肺がん、膵臓がん、胆道がん、腎細胞がんで2/3。
② 低分化がん・未分化がん(約30%)
③ 扁平上皮がん(約5%)
④ 神経内分泌腫瘍・神経内分泌がん(約3~4%)
統計が示すように、腺がんや低分化・未分化がんが多いです。
基本的には進行が早く、転移が進んでいることも多いです。
それなので、原発不明がんに早期からの緩和ケアということはまずありません。
原発不明がんはわかった時から緩和ケアに紹介される必要があります。
原発不明がんの体の苦痛症状と緩和ケア
原発不明がんと痛み
原発不明がんは、原発巣(不明)よりも転移巣が目立つ腫瘍です。
したがって、転移部位に応じて多様な痛みを発生させます。
肝転移はしばしば認められますが、これは肝被膜痛から鈍痛を発生させます。
この痛みの形式としては、内臓痛というものに分類されます。
内臓痛は医療用麻薬がとても良く効きます。
骨転移もしばしば認められ、骨転移痛を起こします。
骨転移痛も医療用麻薬が効きますが、内臓痛ほどではなく、また体動時の痛みが目立つため、工夫する点が多くなります。
また、腹腔内のリンパ節への転移が目立つ場合などに、医療用麻薬治療があまり効いた感じがしない場合もあります。
その理由は神経障害性疼痛を併発しているから、というケースも考えられます。
リンパ節転移から、各神経叢(しんけいそう、と読む。神経叢とは神経が集まって網目状になっている部分)などにも進展することがあります。
神経叢への浸潤は、神経障害性疼痛を引き起こします。
神経障害性疼痛は医療用麻薬だけでは緩和が難しいことがある痛みです。
難治性の神経障害性疼痛の場合は、医療用麻薬の他に、鎮痛補助薬という痛み以外の主適応症を有しているが痛みへの効果もある薬剤群を併用したり(例えば商品名リリカや商品名サインバルタなどが有名です)、神経ブロックを専門家にお願いしたりします。
腹部CTなどの画像から、神経障害性疼痛を起こす病変があることを確認すれば、痛みの原因が特定できます。
あらゆる系統の痛みを発生させうるので、原因を特定し適切な治療を行います。
原発不明がんと痛み以外
原発不明がんは全般的には腺がんは多く、また膵臓がん等が多いため、転移の形式はそれらの腺がんと似通っています。もちろん病理組織型が違えば、性格もいささか異なります。
原発不明がんは腹膜に播種を起こすことがあり、がん性腹膜炎となります。
がん性腹膜炎からも痛みを発症します。また、がん性腹膜炎は腹水の原因となります。
難治性がん性腹水の治療は今も難しいです。
基本的には腹水穿刺が治療法となります。文献的裏付けは乏しいですが、ステロイドで症状緩和されることがあります(がん性腹膜炎の炎症緩和を介していると推測されます)。
がん性腹膜炎から消化管閉塞を発症することもあります。ステロイドやオクトレオチドで加療します。
がん性胸膜炎から胸水を来たすこともあります。
ドレナージ、胸膜癒着術のほか、文献的裏付けは乏しいですが、ステロイドを使用することも考えられます。
がん性胸膜炎からの胸水の他、広範な肺転移や、縦隔リンパ節腫大は、呼吸困難の原因にもなります。
吐き気や嘔吐、倦怠感(だるさ)や食欲不振、体重減少も他の高度進行がんと同様に起こりえます。
あらゆる可能性が考えられるので、出た症状に応じてしっかりと原因をアセスメント(評価)し、できることを探っていきます。
原発不明がんと心理的な問題、治療に関する問題
原発不明がんは、基本的には進んだ状態で発見されます。
予後が良好な群も含まれますが、一般には厳しいものも多いです。
原発がわからないということがまずストレスになりますし、また見通しに関して等も(種類によっては)あまり明るい要素が少なく精神的な負担は多くなります。
治療も、想定される原発巣に応じて多種多様ですが、予後不良群の場合だと、多剤併用の化学療法が施行されています。
種々の副作用が出る可能性ももちろんありますので、抗がん剤治療にあたっては、経験豊富ながん治療医の関与が不可欠です。
治療にまつわる不安やストレスも、支援すべき問題です。
まとめ
原発不明がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。
痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。
均一な疾患ではないため、予後から発症する症状まで多種多様です。
ただし厳しい経過の腫瘍や進行が早い腫瘍もあるため、緩和ケアの早い段階からの関与が必要不可欠のがんだと言えるでしょう。
患者さんやご家族としては、早期から緩和ケアチーム等に介入を希望する由を主治医・担当医にお伝えして良いがん種であると考えます。