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皮膚がんの緩和ケア

皮膚がんは死亡は少ないのですが、罹患はけして少なくないがんです。

2017年のがん統計予測

によると、皮膚がんは罹患数ががん全体におけるトップ10に入っており、女性に限っていえば8番目に多いがんなのです。

皮膚がんには様々な腫瘍があります。

有名な悪性黒色腫は、表皮の中にある色素細胞(メラニン細胞)ががん化したものです。ほくろの細胞が悪性化したものとして、一般の方にもそこそこ知られているかもしれません。

他にも成り立ちが違う有棘細胞がんや乳房外パジェット病など様々な腫瘍があります。

悪性黒色腫は60代から高齢になるにつれて増え、有棘細胞がんは70代以上が多いなど、基本的には高齢の方に多い腫瘍ですが、それより若い患者さんを複数診療しています。

皮膚のがんですが、悪性黒色腫は様々な場所に転移します。有棘細胞がんも転移を認めることがあり、全身の骨転移を起こした症例もありました。

これら皮膚のがんの緩和ケアについてお伝えします。

 

悪性黒色腫や有棘細胞がんの体の苦痛症状と緩和ケア

皮膚がんと痛み

皮膚自体は痛みを感じる部分ですが、初期の皮膚がんは痛くないことが多いです。

また原病巣は切除することが多いですので、皮膚の原病巣そのものの痛みは必ずしも目立つものではありません。

外科手術が行われますが、再発・転移を防ぐため、余裕をもって切除されます。

それなので病巣が大きいと、切除しなくてはいけない範囲が広くなります。

上・下肢の切断手術が行われた後は、すでにない部分に痛みを感じる現象(幻肢痛)が認められることがあり、経過とともに軽減しますが、適宜対処が必要です。

このように治療に関連した痛み、というものも想定されます。

もともとの皮膚がん自体の痛みよりも、転移先の痛みが問題になることが多いです。

悪性黒色腫も有棘細胞がんも骨転移を起こし、痛みの原因となります。

骨転移の痛みは内臓痛のような鈍痛ではなく、明確に痛み、時に激しく疼痛が自覚されます。

骨転移痛の治療としては、まず医療用麻薬を適切に使用することが重要です。

①必要な量まで必ず基本量(ベース量)を増やすこと

②痛い時の追加投与(レスキュー。頓服薬)を適量に調節すること

が対応策になります。

他に、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が使用可能な状況(腎機能障害がなく、消化性潰瘍もない)ならば、医療用麻薬とNSAIDsを併用することが大切です。

ロキソニン(一般名;ロキソプロフェン)やボルタレンSR(一般名;ジクロフェナク)などを医療用麻薬に足して使用します。

他にも、ビスフォスフォネート製剤やデノスマブという骨を吸収する細胞の働きを抑える薬剤を用いたりもします。

症状緩和目的の放射線治療を行うことも重要です。悪性黒色腫自体は放射線への感受性が高くないとされてきましたが、痛みの軽減の効果を得られることが多いです。

その他にも、悪性黒色腫は肝臓に転移して疼痛を生じたり、全身の皮下に転移して痛みを発生することがあり、痛み治療をしっかりと施してゆくことが大切になります。

 

皮膚がんと痛み以外

他のがんと同じように、悪性黒色腫はしばしば重要臓器への転移が認められます。

脳への転移もしばしば起こります。

脳に転移すると、麻痺症状やけいれんなどが起きたりする場合もあります。

ステロイドを用いたり、放射線治療等で脳の転移した腫瘍の対処を行います。

放射線への感受性が高くないとされる悪性黒色腫においても、症状緩和に放射線治療は有効ですので、適応があれば行う価値があります。

他にも様々な部位に転移する可能性があるため、その場所で発生する症状に対してできることを考え、行っていきます。

 

皮膚がんと心理的な問題、治療に関する問題

悪性黒色腫は進行した例はなかなか手強いがん種として知られています。

一般的には発見しやすい腫瘍ではある一方で、しばらく放置していたというケースも少なからずあり、「なぜ早く病院にかからなかったのか……」とご本人が悔やまれているような場合もあります。

手術も再手術が必要になったり、機能障害やリンパ浮腫などの問題が付随して起こることがあるなど、心理的なストレスは起こりやすいです。がんの種類によっては、外観に影響することもあります。

治療に関しては、旧来の使用できる薬剤が限られている状況から変化し、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬なども用いられるようになっています。

それらの薬剤も様々な副作用をもたらしますから、治療の副作用への対策も大切になります。これは主として、治療医が対応することになるでしょうから、ご自身の症状をしっかりはっきり伝えることが重要になります。

皮膚がんも確かに発生するのは皮膚ですが、全身に影響を及ぼす腫瘍ですから、単に皮膚に留まらず、総合的な全身状態把握や心理・社会的問題まで視野に入れての緩和ケア併用が重要となります。

 

まとめ

皮膚がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。

転移しての痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。

症状に関しては、転移先に応じて様々なものを発症しますので、総合的に対処することが重要となります。

基本的には高齢の方に多い腫瘍で、老年医学的な配慮も必要です。

皮膚に生じる腫瘍なので皮膚科が主たる診療科になりますが、進行例では全身病となるので総合的な診療が必要となり、緩和ケア部門の介入を求められると良いでしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。