膀胱がんの緩和ケア
膀胱癌は60代以降に患者さんが増えます。
また男女差が大きく、男性が女性の4倍罹患が多い(なりやすい)がんです。
それなので患者さんは基本的にご高齢の男性が多い、ということになります。
ただ女性もなりますので患者さんの経験は複数ありますが、やはりご高齢の方が多いです。
膀胱は骨盤内に位置しています。
①筋層非浸潤(しんじゅん)性がん(表在性がんおよび上皮内がん)、②筋層浸潤性がん、③転移性がんと分けられます。
①の場合は浸潤しないで進行が遅いものが多くあります。
ただ再発傾向がありますから、内視鏡を用いた治療が繰り返し行われたり、膀胱内注入療法が施行されることがあります。
進行してくると骨盤内に浸潤したり、骨などに転移したりすることもあります。
膀胱がんの緩和ケアについて見ていきましょう。
膀胱がんの体の苦痛症状と緩和ケア
膀胱がんと痛み
実は、膀胱がんは多様な痛みを取りうるがんです。したがって緩和ケアにおいても鎮痛が重要となります。
周囲に浸潤がなければ、痛みはそれほどでもないようです。
ただし膀胱出口に腫瘍が存在する場合は、排尿時痛が自覚されることがあります。
周囲に浸潤すると、下腹部等に鈍痛を自覚されたりすることもあります。
この痛みの形式としては、内臓痛というものに分類されます。
内臓痛は医療用麻薬が良く効きますので、適切に医療用麻薬治療で緩和すべきです。
膀胱は骨盤内にありますから、骨盤神経叢(こつばんしんけいそう。骨盤内の神経が網状になっている部分)に病変が及ぶと、大腿の裏側に神経性の痛み(神経障害性疼痛)を来してくることもあります。
神経障害性疼痛はしばしばモルヒネなどの医療用麻薬治療に対して抵抗性を示して難治化することがあり、様々な鎮痛策を駆使して事に当たります。
ただ膀胱がんで厄介なのは、それだけではありません。
しばしば尿路を腫瘍や腫瘍からの出血による血の塊が塞ぐため、激しい疝痛<せんつう。管などが攣縮(れんしゅく。けいれんして収縮する)>による痛みを引き起こすのです。
この疝痛に関しては医療用麻薬の効きも悪く、他の手段の併用も十分考慮する必要があります。個人的には膀胱がんの痛みの中でも緩和ケア担当者としては制御が最も難しいと感じるものです。
他にも骨転移を起こして、体性痛が問題になることもあります。
さらに、次の項目で出現する病態も痛みを発生するものであり、進行した膀胱がんはしばしば多様な痛み対応が必要となるのです。
膀胱がんと痛み以外
膀胱がんも転移を来しますので、転移した場所により様々な症状を来します。
私の印象ですが、意外に腹膜播種(ふくまくはしゅ)が多いというものがあります。
がんが進展した場合に、お腹の中に散らばりやすいということです。
腹腔内に散った腫瘍が腸管を癒着・狭窄させ腸閉塞を引き起こすケースを複数経験しています。
この腸閉塞も強い痛みを起こしうる病態ですが、腸閉塞の痛みは、腸閉塞自体を緩和することが重要です。それなので、単なる腫瘍の痛みとは違った対応が必要になります。
具体的には、ステロイドやオクトレオチドといった薬剤を使用して病態の改善に努めます。
腹部CTをよく精査すると小結節が多発しており腹膜播種と診断されるものを、しばしば癒着性イレウス(手術による癒着などで起こるがん性ではない腸閉塞)と診断されて別の治療をされていることもあるので、進行膀胱がんの患者さんに起きている再発性の腸閉塞はがん性も視野に入れねばなりません。
このように緩和ケアの病態把握の力を活かして、事に当たります。
膀胱がんと心理的な問題、治療に関する問題
膀胱がんは、筋層非浸潤性がん(表在性がんおよび上皮内がん)の場合でも再発するため、もちろん内視鏡治療で対応できるとはいえ、心理的なストレスがかかります。
筋層浸潤がん以降になりますと、前述したように様々な身体的苦痛も起こりますから、精神的にも疲弊しえます。
特に排尿に関わる苦痛というのは非常に不快であり、患者さんは強いストレスを自覚し得、みているご家族等にとってもつらいものです。
また膀胱がんは、先述したように、一般に高齢の方が多いがんですから、その身体・心理的な配慮も忘れてはなりません。
膀胱がんは特定の化学物質を扱う職業者に発症するリスクがあり、そのようなケースでは比較的若年で発症することもありますので、その際はご高齢の方と異なった社会的な配慮が必要になります。
その年齢における環境を理解し、治療とケアを行っていきます。
進行した膀胱がんは抗がん剤治療が行われることもあります。
その際は抗がん剤の副作用対策も重要となり、基本的には治療医が対応しますが、緩和ケア医も適宜支援を行います。
まとめ
膀胱がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。
膀胱がんにおいて特徴的な多様な痛みへの対処はもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対応が必要です。
膀胱全摘術は、性機能の問題を起こしうるため、患者さんによってはライフスタイルに大きな影響を及ぼす可能性があります。
基本的にはご高齢の方のがん種であり、老年医学的な配慮・ケアも重要となります。
泌尿器科は尿路系の問題のスペシャリストですが、進行膀胱がんは全身病であり、心理的な視点も含めて総合的な全身状況の把握や症状緩和・ケアが必要となります。
緩和的な諸問題に詳しい専門家を併用する価値があるがん種の一つとも言えますでしょう。