膵臓がんの緩和ケア
によると、膵臓がんは罹患数が全体のトップ10に入っています。
しかしトップ5には入っていません。
それにもかかわらず、膵臓がんの死亡数は第4位で、男性では5位、女性では3位になっています。
胃がんはピロリ菌の感染率の低下、肝臓がんはウイルス性の機序の新規治療薬による制御などから、減ってくるだろうことを考えると、今後減少する主要因が想定しにくい膵臓がんは今後も大きな問題であり続けることが十分考えられます。
膵臓がんは一般に予後が厳しい病気です。
5年生存率も厳しい数が示されています。
ただし、当然、長期生存される方もいるので、過度に悲観的になる必要もありません。
膵臓がんは周囲に重要臓器が数多く存在します。
食事こそ通りませんが、お腹の交差点的場所です。
腫瘍自体の悪性度もありますが、その位置取りが、厳しい予後や、緩和ケアで対処すべき症状にも関係しています。
膵臓がんの体の苦痛症状と緩和ケア
膵臓がんと痛み
膵臓がんの存在する場所により、痛みは腹痛として自覚されることもあれば、背中の痛みとして自覚されることもあります。
膵臓自体の痛みは、必ずしも高度というわけではありません。鈍痛が多いです。
痛みの形式としては、内臓痛というものに分類されます。
したがって、痛みはともかく、不快感や重い感じ、気持ち悪さを伴う、など、一般的な切り傷や刺し傷、お腹の疝痛(せんつう。間欠的に激しく痛くなったり、痛みがなくなったりを繰り返す。その原因の1つは腸蠕動の痛み)とは異なった痛みであり、私たちは日常生活であまり自覚しない痛みなので、「痛み」との理解が遅れることがあります。
また患者さんはしばしば「痛みではない」と否定され、治療が遅れることがあります。
その点では、誰にとっても痛みとわかる骨転移痛などとはまた違った配慮が、医師には必要となります。
内臓痛は医療用麻薬がとても良く効きます。
また抗がん剤治療などを開始しても、抗がん剤が効いて腫瘍が制御されて痛みが緩和されるまでは一般にある程度時間がかかります(※なお悪性リンパ腫のような血液のがんは、このライムラグが短いです。膵臓がんなどの非血液のがんはタイムラグがあります)。
それなので、いたずらに苦痛に耐える必要は全くありません。
痛みは情動などにも悪影響を与えます。内臓痛は適切に医療用麻薬治療で緩和すべきです。
このような初・進行前期の膵臓がんの痛みと打って変わって、高度進行期や末期の膵臓がんの痛みは、時に治療に難渋し、患者さんも医療用麻薬を用いても痛みが続くことがしばしばあります。
膵臓の周囲は、腹腔神経叢(ふくくうしんけいそう、と読む。神経叢とは神経が集まって網目状になっている部分)などが存在し、進行期には容易に神経障害性疼痛を併発します。
神経障害性疼痛は医療用麻薬だけでは緩和が難しいことがある痛みです。
難治性の神経障害性疼痛の場合は、医療用麻薬の他に、鎮痛補助薬という痛み以外の主適応症を有しているが痛みへの効果もある薬剤群を併用したり(例えば商品名リリカや商品名サインバルタなどが有名です)、神経ブロックを専門家にお願いしたりします。
腹部CTなどの画像から、神経障害性疼痛を起こす病変があることを確認すれば、痛みの原因が特定できます。
膵臓がんと痛み以外
膵臓がんは腹膜に播種を起こすことがあり、がん性腹膜炎となります。
がん性腹膜炎からも痛みを発症します。また、がん性腹膜炎は腹水の原因となります。
難治性がん性腹水の治療は今も難しいです。
基本的には腹水穿刺が治療法となります。文献的裏付けは乏しいですが、ステロイドで症状緩和されることがあります(がん性腹膜炎の炎症緩和を介していると推測されます)。
膵臓がんは胆管閉塞からの黄疸を起こすことは知られていますが、胃や十二指腸とも近く、特に十二指腸狭窄などを引き起こし、通過障害の原因ともなります。
難治性の吐き気が続く際は、このような病態も視野に入れねばなりません。
ステント治療が症状緩和に有効なことがあります。
膵臓がんと心理的な問題、治療に関する問題
現代の患者さんは、インターネットで情報収集されることも多いでしょう。
膵臓がんに関しては厳しい病気であることを見聞されることもあるでしょうから、その見通しに対する不安などがストレスとなりえます。
膵臓がんも多剤併用の化学療法が施行されています。
種々の副作用が出る可能性ももちろんありますので、抗がん剤治療にあたっては、経験豊富ながん治療医の関与が不可欠です。
治療にまつわる不安やストレスも、支援すべき問題です。
また一般に経過が早いという状況から、乳がんや大腸がんのような「生きがいの揺らぎ」としての治療継続に対する葛藤や、大腸がんのオキサリプラチンのような神経障害の残存によるつらさというよりは、治療で期待できる効果の数値のインパクトが非常に大きいものではないため(例えば生存期間中央値が数ヶ月程度長いということが意味が乏しいように感じる等)、「では治療を受ける意義は……」と悩まれたりするなどの、一般に経過が長い腫瘍とはまた異なった苦悩が生じえます。
個々の価値観を十分お聴きし、対処をともに考えてゆくことになります。
まとめ
膵臓がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。
痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。
経過が一般に早いことは、患者さんやご家族にとって大きな心理的ストレスになります。ただ、生存期間中央値などのデータはあくまで一つの数値。希望を捨てないで、できる治療を行うことが大切であり、そのためには緩和ケアを早期から併用し心身の良いコンディションを保つことが肝要となります。
なお2018年の米国臨床腫瘍学会で、術後の膵がん患者さんに補助化学療法FOLFIRINOXで生存期間の大きな延長が認められたことが発表されたそう。
治療も日進月歩です。