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膵臓がんと早期緩和ケア

膵臓がんと言えば、厳しい病気で有名です。

ただし、長期に生存されている方もおり、一概には言えません。

膵臓がんに関しては、転移のある進行期のケースに、標準治療+患者さんの必要時に緩和ケアを行った群と、標準治療+緩和ケア外来を定期的に受診(2~4週毎)して問題や症状の評価と対処を受け、意思決定の支援も行われ、それが腫瘍治療医と共有された群を比較した研究の結果が出ています。

Systematic versus on-demand early palliative care: A randomised clinical trial assessing quality of care and treatment aggressiveness near the end of life.

結果はどうだったでしょうか?

 

ぎりぎりになっての抗がん剤治療は定期緩和ケア介入群で少なかった

死亡前の30日以内における抗がん剤治療は必要時緩和ケア群(27.8%)よりも、早期緩和ケア群で少なかった(18.7%)と結果が出ました。

早期緩和ケア併用の重要性を知らしめるさきがけとなった、下記の非小細胞肺がんの研究とも同じですね。

Early Palliative Care for Patients with Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer

命が差し迫った状態での抗がん剤治療はメリットが少なく、リスクも高いです。

早期緩和ケア群ではホスピスの利用も多く、概ね正しい選択を行うことができ、それを支援できていたということが透けて見えます。

非小細胞肺がんの研究では、生命予後も統計的に意味のある程度に延長しました。

進行期の膵臓がんではどうだったでしょうか?

 

生命予後に関しては統計的に意味のある差は出ず しかし早期緩和ケア群では長かった

緩和ケアを定期的に併用した群で、統計的に意味のある程度に生命予後が長かった非小細胞肺がんの結果とは異なり、膵臓がんでは有意差は出ませんでした。

しかし早期緩和ケア群で生存期間中央値は6.6ヶ月、対して通常群(緩和ケアを必要時受診)では5.7ヶ月と1ヶ月程度早期緩和ケア群で長かったという結果でした。

統計的に意味のある差ではありませんが、試験の設定の仕方によっては、統計的に意味のある差が出た可能性も指摘されています。

進行期膵臓がんでの早期緩和ケア介入の無作為化比較試験:終末期ケアの比較

生命予後の延長に関しては確たることは何も言えませんが、他の要素等について、転移のある膵臓がんというがんの中でも厳しい状況の中で、早期緩和ケア併用は一定以上の意味が示唆されたと捉えられるでしょう。

 

まとめ

日本では、苦痛等で困ったら緩和ケア受診を「考える」(する、ではなく)という思考が一般的でしょう。

しかし海外では上記のように、半ば強制的に緩和ケアを定期受診してもらう、という研究が複数行われており、それが効果を示しています。

緩和ケアには苦痛の「予防」も定義上含まれます。

困ったら受診、という方法は、基本的に「問題が起こったら対処する」タイプです。

けれども確かに、緩和ケアの担当者として感じてきたこととして、それだと問題がかなり大きくなってからの受診となり、未然に防げたことが防げず、また苦痛が心身を一定期間以上傷めている状況で、ということになりがちです。

「問題が起こらないように対処する」ものとして、早期緩和ケアが機能している可能性も見逃せません。

元気なうちからの在宅医療導入や緩和ケア病棟・ホスピス申し込みなどと同様に、早期からの緩和ケアも

「まだ必要ない」「意味がわからない」

と後回しにしがちです。

早期緩和ケア定期受診群では諸研究において、結果的に概ね正しい決断ができたこと、がんによってはより長く生存する可能性につながっていることを考えると、「転ばぬ先の杖」の早期緩和ケアが重要なのではないかと感じる次第です。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。