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おひとりさまという言葉は、すでによく知られているものであるため使用したのであり、実際「おひとりさまなので」と自らを表現される患者さんもおられ、そのため用いました。

そこに言外の意味は何ら含まないことは最初に確認しておきます。

 

増えるおひとりさま

単身世帯は増え続けています。

増える核家族と単身世帯…種類別世帯数の推移をグラフ化してみる(最新)

高齢者の単身世帯も実に552世帯に及ぶとのこと。

「お年寄りがいる家」のうち1/4強・552万世帯は「一人きり」(2014年)(最新)

2040年になると、単身世帯が実に4割になるそうです。

2040年推計 単身世帯4割に 未婚化が影響

これまで以上に、単身で腫瘍を患い、治療に一人で臨み、場合によっては終末期を迎える方も増えるでしょう。

 

おひとりさまも色々

単身の方といっても、それぞれの環境は千差万別です。

複数の趣味等を通して、いくつものコミュニティに属し、社会的な関係が強固なケースがあります。

その一方で、ほとんど他者との付き合いがなく、孤立しているケースもあります。

病気になると、社会的な関係は変化することが通常です。

よほど親しくないと、人付き合いもお互いに気を遣うことから、少なくなることも見受けられます。

とはいえ、病気を抱えても、定期的に参加する場がある場合と、引きこもりを深めるのでは、全然違います。

基本的には何らかのコミュニティに参画しているほうが、病気一辺倒にならないという点でも良いのではないかと思います。

 

独居で逝けるか?

「私は独り身なので、最後は施設で……」

という方も多くいらっしゃいます。

もちろん、それぞれの価値観が優先されるべきです。

しかし、実は独居でも最後まで家で生活して逝くこともできないことはありません。

特に、機能が比較的遅くまで保たれるがんにおいては、やってやれないことはないのです。

実際私も、在宅医をしていた際に、何人もの独居の方(がんを患っていた)を看取った経験があります。

一人になる時間は確実に生じますが、入れられるサービスは全て入れて、一人の時間が出来る範囲で少なくなるようにスケジュールを組み、緊急時の連絡手段の確保や、ご本人の意思確認を継続的に行い、望むような時間を提供することができました。

 

おひとりさまのメリット

おひとりさまには、がんなどの医療の観点から考えるとメリットもあります。

それはデメリットと表裏一体かもしれませんが、利点は利点としてあります。

まず1つは、「病気は必ずご本人に伝えられる」ということです。

日本は良くも悪くも「思いやり」文化なので、2018年になってもまだまだ、悪いニュースはご家族優先で伝えるという状況が少なからず存在します。

場合によっては、「絶対に本人に伝えないでほしい」と切望されるご家族や、先にご本人に伝えると「なぜ家族に言わずに本人に言うのか」と腹を立てられるご家族もいるため、これも医療者には難しい状況を付け加えています。

家族の一存で情報が修飾されてご本人に伝わるということが「一切ない」ため、非常にシンプルな、そしてあるべき形の1つでもあると考えられる「医師と本人」のダイレクトな情報伝達が可能となります。

ダイレクトに伝えられることはつらいかもしれませんが、嘘をつかれて最後までわからずじまいよりはずっと良いでしょう。

私は告知原理主義ではありません。

認知症や超高齢者の場合などに、伝える意義を十分考えたほうが良いという立場です。

けれども、未告知が誰にとってもつらい結末となった事例を見るにつけ、わかる言葉で伝えることが基本的にはずっと良いと認識しています。

偽られることが絶対ないこと、これはおひとりさまの利点の1つと考えられます。

もう1つ利点があります。

それは在宅であれ、施設であれ、家族によって最後をどこで過ごすかという方針が揺らぐことがないということです。

私は、患者vs家族という捉え方をしていません。

人は生きている限り、完全な自由を得ることは難しいです。

大切な誰かがいれば、誰かの迷惑や足手まといになることを厭うのも、表裏一体です。

家族がいれば、ご本人とご家族がすり合わせて方針が決まります。

双方合意できれば良いのですが、これまでの関係等によって、「二度と帰ってきてもらいたくない」と強く家族が要請されるので、在宅継続が不可能になるようなケースもあります。

もちろんこれまでの家族の歴史等から生成している状況を医療者が裁くことはできません。

ときには家族が最大の抵抗勢力になることもあります。

(念押しですが、私は片方だけに肩入れするケアを好みませんので、患者や家族の一方が善で一方が悪という捉え方はしません。真の緩和ケア医は皆そうだと思います)

ご本人が帰りたいと言っても、家族が強く反対するならば、実質的に不可能となってしまうケースがあるのは事実です。

しかし、家族がいなければ、ご本人の決断が妨げられることはありません

本人の望む方針が通りやすいと言えるでしょう。

最後の1点は、単身者は一般に、有事の際の準備をより行っているケースが多いです。

いざという場合に人に任せられないという思いや危機感が原動力になるのでしょう。

これもいざという時の準備や決断の遅れが少ないというメリットにつながります。

 

まとめ

家族がいる場合、いない場合、それぞれのメリット・デメリットがあります。

家族がいる場合も、子供がいるかいないか、子供はどこに住んでいるか等で細部は異なります。

独居の場合も、近くに近親者がいる場合、いない場合、そもそも親類縁者が誰もいない場合、離婚しているが子供はいる場合など、多様なケースがあります。

もちろん私も含めて、緩和ケアの専門家は様々なケースの支援経験がありますから、どのような事例でも最適の解を見つけようと動きます。

その際に、それぞれのケースの良い点と不利な点を理解して、対応しています。

「おひとりさま」の利点は、特にそれを自ら称しているような方は、準備に意識的なことです。

また医療的には、シンプルな「患者さんが全ての情報を開示された上で、医師と相談して方針を決める」という形が取りやすいメリットがあります。

最初から在宅での最期を諦めている方もいらっしゃいますが、真に望めば不可能とも言えません。

「おひとりさまなので心配もあります」と仰られる方もいますが、必ずしもそうだから不利とは言えないと考えます。

むしろ見方によっては、自分が医療者と決めた方針に異を挟む人もいないという考えもあるでしょう。

積極的に医療者と相談し、最良の方向性を選び取って頂ければと思います。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。