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国立がんセンター東病院がレディースセンターを開設

国立がんセンター東病院が、レディースセンターを開設したそうです。

幅広い年齢層の女性がん患者さんが安心し、治療を受けられる環境を実現するために
東病院 レディースセンター開設

女性看護外来を柱に、各セクションと横断的に連携して対応する体制を構築したことが記されています。

私の早期緩和ケア外来でも、女性のがんには力を入れています。

がんセンター東病院でも支援内容として挙げている「薬物療法などの副作用に関する相談」「社会的支援」などはまさしく緩和ケア領域ですので、専門家としてことに当たっています。

女性で腫瘍を患われている方に、引き続き万全のサポートを提供するべく、最大限の努力を行っていきたいと思います。

 

女性の患者さんの声、あるいはご家族の声から、認識するもやもや

一方で、このような「レディースセンター」ができたとのプレスリリースで、それは素晴らしいことと思うと同時に、いくばくかののもやもやが拭えません。

ある女性の患者さんが教えてくださいました。

「がん種を選ばない患者会なのですが、ちょっと気になることがあって……」

「どうしたのですか?」

男性の患者さんがほとんどいないんです。ごく少数の患者さんは、奥様が同伴されていました。それにしても数が少ないんですよね」

がんの生涯罹患率は、女性より男性が多いのです。

がんになる率は男性の方が高いのです。

しかし患者会に、男性の患者さんがほとんどいなかったことに、参加者の女性は驚かれたようです。

 

他にも、このようなことが頻々とあります。

「先生の外来にかかってもらいたいと私は思っているんですね」

男性患者さんのご家族から。

「でも、彼は『病気を考えたくないんだ。だから絶対にかかりたくない』って……」

また、別の患者さんのご家族からは、酒やたばこが増えたともメッセージを頂戴します。

酔いつぶれて寝ています、とも。

これらから、男性固有の問題が見て取れます

 

男性が気持ちを出しづらい理由

もちろん男性もいろいろですから、一概には言えないことは前提で記します。

ただ、最近の若い世代はともかく、40代の私より上の年齢の男性は、一般に、感情をあらわにすることは良いことではないという社会的な望ましさの中で育ちました。

感情を上手に伝える習慣が構築されて来なかったため、基本的には感情を抑圧し、その臨界点を超えたところで暴発したり、身体の症状として出現したり、アルコール等の物質的な気分解消策に偏ったりなど、そのストレスを会話などを通して自ら軽減することが難しく、種々の問題を続発させる傾向もあります。

元々、会話も、感情共有型よりも、情報伝達・問題解決型の志向性をもって為されることが多いです。

話して楽になる、という感覚が持ちづらいということもあるでしょう。

言っても無駄、と抱え込む傾向もないとは言えません。

そのような旧来の「あるべき」男性像に規定されてしまって、心身のストレスを溜めることは、私も男性なのでよく理解できます。

一方で、そうは言っても、男性の弱音(のようなもの)は、今もあまり歓迎されません。

その上手な出し方が女性より長けていない部分もあるのでしょう。

せっかく気持ちを表出しても、それを受け止めてもらえなかったと感じる時、孤独感は深まります。

 

性差も意識した緩和ケア

女性にも男性にも、それぞれの人生があり、それぞれの社会的背景があります。

それを十分理解して、対応してゆく必要があります。

しかしこと男性に関しては、「助けを求めない」「自分で解決しようとする」傾向が、一般に女性より強いと言えましょう。

したがって、家族会や緩和ケア外来などに女性より来られないという特徴があります。

けれども、がん死亡率は女性より男性が高いことを見逃してはいけないと思います。

<生涯でがんで死亡する確率は、男性25%(4人に1人)、女性16%(6人に1人)>

参考;がん情報サービス

相対的に助けを求めてこない男性ですが、女性と同等の支援が必要不可欠です。

しかも、しばしば助けを求めてこられないので、それをどうするかから考えなくてはいけないという難しさも持っているのです。

 

がん男性外来を創設します

そのような背景があり、また女性に特化したがん支援の動きも広がる中、変わらず当院において大切な緩和ケアによる支えを提供する対象である女性の方と同様に、男性の方にも積極的に緩和ケアを提供していきたいと考え、がん男性外来を創設しました。

特徴としては、まず「かかる気になれない」というご本人のご家族の相談からお乗りする、ということがあります。ともに解決策を考えます。

男性の場合、そのように診療以外の場で、情報を得たり、感情を吐露したりする機会が少ないという特徴があり、そこから一歩踏み出して頂く際に、ご家族などの周囲の方からの上手な促しというものが非常に大切な意味を持つことが多いからです。

がん男性外来では、全て男性のスタッフで揃えて……としたいところですが、それは規模としては不可能です。

しかし診療医は私一人(当然男性)で、男性の悩みに関しては熟知していますので、気兼ねなく何でもオープンにして頂くことができると存じます。

そして当然のことながら、守秘義務もありますし、女性でご来院されている方と同様、なるべく他の方と会うことがないようにプライバシー性には配慮しています(ただし絶対に会わないというわけではないので、その点はご容赦頂ければと存じます)。

 

社会的な側面の支援は女性と同様に大切 ~仕事、子供~

人は様々なものを抱えて生きています。

男性は、家計において重要な存在であることも多く、最近の基本的な考え方では「就労継続」し、治療を受けながら仕事も行うという方向性となることが多いでしょう(仕事を簡単に辞めてしまうよりも継続するほうが良いです)。

一方で、治療を受けながらの仕事は、様々な配慮が必要となリます

また、30代、40代、50代においては、まだまだ子育ての真っただ中という場合も多くあるでしょう。

特に小さなお子さんなどがいらっしゃる場合は、いかに病気を伝えるかということも問題となります。

拝見していると、母親ががんである場合よりも、父親ががんである場合の方が、必ずしもうまく子供たちにご本人が病気を伝えられていないというケースも見受けられます。

ひとたび命にかかわるような病態になれば、それをお子さんに知らせることも容易なものではありません。支援が必要となります。

ただもちろん、なるべくはそのような事態にならないように、心身のコンディションをよく保つためにこそ、緩和ケア的なアプローチを継続して、がんの経過を改善してゆくことが大切となります。

 

男性にも十分なサポートが必要

昨日まで気持ちを伝える習慣もなく、特に訓練もない状況で、今日からすらすらと気持ちを言うというのはひょっとすると難しい場合もあるかもしれません。

しかし前職の大学病院緩和ケアにおいても、中長期にわたって緩和ケア外来を定期受診してくださった方もたくさんおられます。

中には長期生存を継続されている方もおられます。

痛みやその他の苦痛と同様に、感情的な要素や不安に関しても、しっかりと伝えて、適切な対処を受けることが、生活の質ばかりではなく、ひょっとすると長期生存等にもストレス軽減を介して影響しないとも言えません。

あるいはストレスからの生活習慣の揺らぎは、その病気自体の経過ばかりではなく、他の疾病を誘発したり(例えばアルコール多飲などから)、うつ病などを発症したり、破滅的な生活を招来しないとも限りません

再発あるいは増悪しうる病気と付き合うことは、大変なことであり、抱え込んで良いことは1つもありません。

当院では引き続き女性の方にも熱意を持って診療に励むと同時に、治療を補完する支援的手段である患者会や緩和ケア外来にもアクセスされにくい印象がある男性に対し、「がん男性外来」を通して、サポートを提供することをお約束します。

 

がん男性外来のまとめ

◎名称;がん男性外来(がん男性緩和ケア外来)

◎予約方法;「がん男性外来希望」とインターネット予約に付記されるか、電話でお伝えください。

◎費用;変わりません。

◎特徴;女性の方と同様に、家族全体へのサポートを大切にします。具体的には、「かかってくれない」という状況からのご家族からのご相談にも(お問い合わせや各種メッセージ等で)お乗りします<ただし内容等によっては対応困難なケースや、ご返答できないケースもあります。ご容赦ください>。

◎ご家族同伴でも、お一人でも、ご家族に伏せてのご来院でもOKです。様々なニーズにお応えします。

◎様々なご相談に対応可能です。例えば「がん治療中の性の悩み」などの他では相談しにくいかもしれない事柄にも、応談可能です(事前にお悩みの内容はご教示頂ければ幸いです)。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。