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苦痛を緩和し生活の質を上げる緩和ケア

緩和ケアにはある難しい点があります。

今日はそれについて述べたいと思います。

緩和ケアは苦痛を緩和し生活の質を上げることを目標としています。

苦痛が病気の苦痛だけならば、シンプルです。

苦痛を薬物療法等を用いて緩和すれば良いからです。

けれども苦痛は病気からばかりではありません。

それなので緩和ケア担当者の仕事も複雑になります。

 

治療に抵触しうる緩和ケア

がんの患者さんも、目や耳を悪くすることがあります。

目は眼科、耳は耳鼻科が専門です。

これらの科は専門的技術を使って対処してくれますし、担当医の内科医や外科医は、その専門性に委ねるでしょう。

問題は、がんの治療によって苦痛が出ている場合です。

例えば、精神科もしばしばがんの患者さんを診療します。

患者さんがせん妄(身体の状態や薬剤等をきっかけに意識変容や意識障害を来たすこと)になっている時、それが薬剤性である、という場合もあります。

例えば、医療用麻薬やベンゾジアセピン系薬、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬など、せん妄の原因になる薬剤は種々にあります。

そのような時に、①原因となっている薬剤の中止を直言する、②原因となっている薬剤の中止・減量をやんわりと示唆する、③薬剤については触れずにせん妄対策の抗精神病薬のみのアドバイスを行う、というのは臨床家ごとに異なります。

ある精神科医の先生のブログでは、③しかしないと記されてありました。

これも単に遠慮深いわけではない由も書いてありました。

①のような対応をすると、「精神科医が、身体の問題で使用している薬剤の件まで口を挟むのか」となり、結果的に相談が減ってしまい、ひいては助けられる患者さんが減ってしまう、そのため③にしている、というのです。

確かに、これは難しい問題です。

正解がない問題とも言えます。

このように治療に抵触することを提案しなければならない科は、しばしば難しい立ち位置となります。

そしてそれは緩和ケアも同様なのです。

 

緩和ケア科も治療に抵触しうる事案を扱う科

緩和ケアは患者さんの苦痛を軽減し、生活の質を上げます。

苦痛が、がん等の治療から生じることもあるので、まずはそれを薬物等の治療を用いて緩和するように努めます。

これは支持療法とも呼ばれ、緩和ケアの大切な要素の1つです。

けれども、それでも覆い隠せないくらい、治療のデメリットが大きい場合もあります。

例えば、A)すでに抗がん剤治療の適応ではない時期(末期が迫っている時期)に抗がん剤が行われているような場合や、B)標準的な治療ではない治療が為されておりそれで副作用が大きい場合などが挙げられます。

その際に、どのように対応するのか。

①原因となっている治療の中止・変更を直言する、②原因となっている治療の中止・変更をやんわりと示唆する、③治療については一切触れずに緩和薬のみのアドバイスを行う、といった対応策があります。

臨床家ごとにスタンスは違いますが、私は①や②で対応してきました。

おおもとを放置すれば、どんなに手を尽くしても、症状緩和も生活の質が保たれた延命も難しいからです。

一方で、①や②の対応にはリスクがあります。

先ほどのある精神科医の先生が指摘されるように、担当医の考えによっては不興を買い、依頼が減り、救える患者さんが減ってしまうという危険性があるからです。

 

まとめ

病院も含め、緩和ケアの担い手は上述のような難しさがある中を、ベストな立ち位置を取るべく試行錯誤しています。

患者さんやご家族が、苦痛緩和を担当医にはっきり要請して頂くことは、緩和ケアの担い手にとって大きなアシストとなります。

苦痛は必ずしも病気から来ているとは限りません。

治療自体が抑制できないほどの苦痛を生み出している場合は、担当医とよく相談し、適切に治療調整してもらうことも重要です。

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。