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早期から緩和ケアにかかるとどんな良いことがあるの?

何かと症状を緩和することとほぼ同義と考えられている緩和ケアです。

しかし、現代の緩和ケアの役割はそれにとどまりません。

緩和ケアにかかるとお金がかかるイメージもありますが、実は総出費は減る可能性があるということにも触れました。

早期緩和ケア外来が目指すもの 出費・費用の減少「トータルで安上がりに」

基本的な利点としては

◯ 症状が緩和される

◯ 不安など気持ちにも対処される

◯ 自身の思いを忌憚なく話せる場所ができる

◯ 医学的なことだけではなく、生活や食事のことなどの助言を受けられる

◯ 今後のことについて話し合うことができる

などが挙げられるでしょう。

その結果として

◎ 入院が減る

◎ 総出費が減る

など、二次的な、しかし無視し得ない利点が期待されます。

そしてその最たるものが、余命の延長でしょう。

 

早期からの緩和ケアで余命が延びる

2010年、重要な研究が発表されました。

非小細胞肺がんにおいて、通常の治療にプラスして治療中から(早期から)緩和ケアを定期的に受診してもらった群のほうが、生存期間中央値が長かった(11.6ヶ月 vs 8.9ヶ月)というものでした。

これは大変なインパクトがありました。

と申しますのは、1つのがんに対する治療に匹敵するくらいの余命の延長が示唆されたからです。

緩和ケアは直接的にがんを縮小させる治療ではありません。

しかし、早期から緩和ケアを併用した群では、余命が差し迫った際にそれをさらに縮減させる可能性のある積極的な治療を行った群が少なかったなど、正しい意思決定を支援することで、余命の延長に寄与したことなどが指摘されています。

それが、がんを減らす治療と並ぶ効果が得られたわけですから、大きな影響を与えたのです。

しかももう一つポイントがあります。

それは緩和ケア併用群ではない群も、かかりたいと希望した際に緩和ケアにかかることはできたという点です。すなわち、「強制的に緩和ケアを定期的に受診する群」vs「患者さんやご家族が必要と思った時に緩和ケアを受診する群」の比較で、前者に生存期間延長効果が認められたということです。

これまで緩和ケアは「かかりたい時にかかる」逆に言えば「必要性を感じなければ特にかからない」というのが常識だったのですが、とにかく定期的にかかるほうがメリットがあったということです。

今でも、なんとか生きたいと、数百万円もの自費診療に臨まれる方もいます。

それらには、厳しい科学的な検証が弱いものもあります。

比べると、早期からの緩和ケアは上述のように科学的に検証されています。

そして一般に安価です。しかも総合的な費用は低減する可能性もあります。

さらには余命の延長可能性まであるのです。

緩和ケアが終末期に限ったものではないことは従前から言われていましたが、この革新的な研究をきっかけにさらに、その流れが加速され、日本でも2012年の第二次がん対策推進基本計画に「早期から緩和ケア」が盛り込まれ、現在の第三次でもそれが引き継がれています。

しかし、緩和ケアが早期から受ける意味があるということが、一般の方の大多数に知られていないのはこれまでも幾度か様々なところで触れてきた通りです。

 

早期からの緩和ケアは科学的な検証が続いている

難治性の呼吸困難を出現する疾病(例えば慢性閉塞性肺疾患)を対象にした研究でも、余命の延長が示唆されるなど、がんでの早期からの緩和ケアの知見は、他の病気においても調べられています。

心不全に関しても、研究されています。

複数の研究が施行されており、それらを統合した1編の論文では、余命の延長には統計的に意味のある差は検出されなかったとされ、このように科学的なプロセスを経て「早期からの緩和ケア」の効果は判断され続けています。

しかし上記の論文でも、生活の質の改善や症状のつらさの軽減、患者さんやご家族の満足が示唆されるなど、様々な良い効果が得られたことは明らかになっています。

結論として、早期からの緩和ケアが確実に余命を延長するかどうかは、これからの諸研究で明らかになっていくことでしょう。

早期からの緩和ケアといっても、誰がどのようにそれを行うかによっても大きな違いがあり、ばらつきがあることは否めません。

緩和ケアにおいては、生活の質を改善することが世界保健機関の定義上も、最も重要な目的となります。

しかし副次的な効果としての余命の延長可能性も示唆されている以上、緩和ケアの担当者としては引き続き(望まれる方に関して)その効果も患者さんとともに追求していきたいと考えています。

また、緩和ケアによる余命の延長が、身体を傷める治療の回避や今後のことに対する備え等に根ざしているのが示唆されていることを考えると、それらには早い時期からの対応が必要となりますから、早めに緩和ケアを使っていただくのが良いでしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。