緩和ケアは自宅で受けられる?
緩和ケアは自宅で受けられます。
正確には、在宅医に来てもらって、緩和ケアを受けることができます。
がんの場合は、がん治療中から在宅医を併用する方法もあります。
抗がん剤治療を受けている際の体調不良時に、病院を都度(調子が悪い場合は特に)受診するのは楽なことではありません。
担当医が病院にいる時間とは限らず、別の医師の対応だと必ずしも満足のいく対応ではない、ということもあるでしょう。
在宅療養支援診療所は24時間対応を行っていますので、まず同じ医師に相談できる、というのは結構な利点です。
一方で緩和ケアに関しては問題点もあります。
在宅緩和ケアは旬である
緩和ケアは、患者さんを総合的・全人的に診て、生活の質を向上・維持するケアや医療を提供するものです。
在宅の場は、基本的に患者さんを全人的に診る場です。
したがって、緩和ケアと在宅医療・ケアの相性は良いのです。
それもあり、多くの在宅医療機関が緩和ケアを提供することを表示する状況に至りました。
ただあえて申し上げねばなりませんが、増えているからこそ、「緩和ケア」を名乗っているが実際は……という場もまた増えているのが現実です。
他の医療技術と同様に、緩和ケアの技術・経験・知識も医師ごとに差異があります。
人はスーパーマンではないので、全ての医療知識に通じていることなど到底不可能であり、在宅医療の専門家ではあっても、緩和ケアの専門家ではない場合もある、ということです。
しかし、私も在宅医療常勤医の経験があるのでわかりますが、在宅のケースは、病院での難易度が高いケースよりも苦痛が軽い可能性があること、在宅という環境が痛みやせん妄などの増悪を病院よりも抑えている可能性があることなどから、一定水準以上の緩和ケアは提供できているように医療者自身としては感じます。それは自信にはつながるでしょう。
ただ問題は、難しいケースをいかに着地点に導くか、というところであり、その点で修練に終わりはないのですが、自信が強くなり、「医療用麻薬の持続注射は不要」「鎮静は在宅では不要」等の、在宅緩和ケアの経験がある緩和ケア専門家の視点からするとややどうなのだろうかと感じる内容を在宅緩和ケアの専門家として発信しているケースも多く、悩ましいところです。
では、どの在宅医が本当の緩和ケアの専門家なのでしょうか?
在宅緩和ケア医の緩和ケア水準の判断法
在宅緩和ケアを表示している場合は、それに相応する経歴があるのかどうかは重要なチェックポイントです。
すなわち、
●緩和ケア病棟やホスピスでの常勤勤務歴がある
●有名な在宅緩和ケア医療機関での常勤勤務歴がある
●緩和ケアチームでの「専従」勤務歴がある(「専任」だと「専従」に比べて経験時間が少ない。ただしここまで表示されていないことが大半)
などの経歴があれば、緩和ケアスキルの水準がある程度保証されるものと考えます。
あるいは上記の各施設の緩和ケア部門で
★数ヶ月以上の連続した研修を受けたことがある
も一定の保証にはなるでしょう。
非常勤歴に関しては、それだけでは何とも言えないと考えます。
継続的に診療することが、スキルアップには重要だと思われます。
ただし難しいのは、
★独学でも相当なレベルに達している可能性があるので、一概に決めつけることもできない
という点です。
私も有している緩和ケアの専門医(正確には日本緩和医療学会専門医)は取得するのがやや大変なので、それを持っている在宅医は緩和ケアに関して努力し続けてきたことは保証されるでしょう。
ただ臨床能力、すなわち実際に患者さんを診る力に関しては、極めて判断するのが難しいので、一言でいえば有名・高名だから得意とは言えない、ということは知っておいても良いでしょう。
地位や研究実績が秀でた医師が有名になりやすいですが、患者さんを診る力はそれとは異なりますので、判断は容易ではありません。
また、個人的な意見なのでご容赦頂きたいですが、ケースバイケースが多い医療の世界でも、緩和ケアは極めてその(ケースバイケースの)色合いが濃い分野です。
その点では、医師の、あまりに強すぎる信念は、バランスを取ることに関しては負に働く可能性があります。
発信や、普段の言動(例えば質問した時等)で、「医療用麻薬の持続注射は在宅では不要」「鎮静は不要」「家で亡くなるのが絶対に良い」「病院の医者は◯◯だ」等の100%こうだという意見が目立つケースは、(その信念に最大限共感できるような患者さんやご家族を除いて)やや慎重に判断しても良いかもしれません。
ただ相性が合えば、あるいは求めているものと提供しているものが合えば、どんな医師や医療機関でも患者さんやご家族に良い医療を提供することは可能ですから、私は犯罪などをおかす医師を除いて悪い医師はいない、そう思います。
合うかどうかを見極めることが重要になりますし、ただ在宅医を変えるのは容易ではないケースもしばしばあるので、最初の面談時などに「今後痛みが出た時の対応は?」「終末期でせん妄などで身の置き所がないような状態になったらどうするか?」あるいは「家で最期まで……と思ったらできるだけそれにそってくれるのか?」などを十分尋ねて判断されると良いでしょう。
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結論から言えば、十分過ごせます。
ただ、在宅に向いているケースとそうでないケースが厳然とあります。
もちろん向いているように見えてそうではなかったということもあったり、向いていないように見えてやってみたら良い在宅ケアだったということもあります。個人的な意見としては、条件がある程度揃えばやってみるのが(やってみないとわからないこともあるため)一つの考え方だとは思います。
「在宅で最後まで」という場合に必要な要素として、基本的には
① ご本人のある程度強い意思
② ご家族もできるだけ家で看てあげたい(看取ってあげたい)という気持ちが一定以上ある
③ 緩和ケアの実力があって希望に沿ってくれる在宅医がいる
④ 苦痛の状態が在宅に適している
などの条件が揃えば、在宅で最後を迎えることも十分可能です。
一方で、これらが揃わない時は難しくなります。
ご本人やご家族の思いは、全ての基本です。
ただ、優れた在宅医や、苦痛の状況など、その他の条件によっても難易度が変わります。
私は在宅医も、緩和ケア病棟医もしていましたから、双方の利点を知っています。
何かと「家族の大変さ」が強調される在宅医療ですが、ご家族にとっても良い在宅医療は「やりきった感じ」や「後悔の少なさ」につながります。
私は、どちらが絶対に良い、という立場は取りません。向いている療養場所を選択し、適正な医療者が関われば、いずれでも良い時間を過ごせます。
適した方向性を考えることも大切な緩和ケアですので、ぜひ担当医や緩和ケアの担当者とも相談して頂きたいと思います。