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卵巣がんの緩和ケア

2017年のがん統計予測

によると、卵巣がんは罹患数が全体の18位です、女性では12位です。

死亡数は全体の16位ですが、女性のがん死では10番目の多さになります。

女性固有の腫瘍です。

緩和ケアの視点からも、他の腫瘍と同様に、注意点がいくつかあります。

1つは、好発年齢は40~65歳と若めで、卵巣がんの中でも性索間質性腫瘍や胚細胞腫瘍はさらに若い世代でもなる、ということが挙げられます

そのため、仕事や子育てなどの社会生活が妨げられる可能性があります。

卵巣は骨盤内に位置しています。

したがって、骨盤内の腫瘍として良くある症状群を発症しますが、卵巣の特性もあり、進展場所や症状は同じ骨盤内のがんである子宮がんとはやや異なります

卵巣がんは一部がde novo発がんという、突然のがん発症を起こしうるがんです。

したがって、その種のがんは検診等での予防が難しく、その点でも子宮頸がんなどとは異なります。

「突然なってしまう」という事象は非常にストレスフルであり、また「何か原因があったのだろうか?」と思い悩むことにもつながります。

同じ婦人科の腫瘍ですが、このように子宮がんとは異なった性格を持つ腫瘍です。

 

卵巣がんの体の苦痛症状と緩和ケア

卵巣がんと痛み

卵巣のがんそのものはあまり痛みを生じないようです。

時折巨大化したような腫瘍も認められ、それくらいになると鈍痛を自覚されたりすることもありますが、痛みよりも張り感などが中心であることも多いです。

痛みの形式としては、内臓痛というものに分類されます。

内臓痛は医療用麻薬が良く効きますので、適切に医療用麻薬治療で緩和すべきです。

先ほど卵巣の特性、と言及しました。

卵巣はお腹の中(腹腔内)に露出しているという特徴があります。

そのため、卵巣がんになって卵巣が大きくなっても、お腹の中のスペースがありますから、しばらくは症状が乏しいということがしばしばあり、それが早期発見を難しくしています。

また進展した場合に、お腹の中に散らばりやすいという特性もあります。

そのため、卵巣がんそのものの痛みはそれほどではなくても、卵巣がんが腹膜に散らばって(腹膜播種)、がん性腹膜炎を起こし、そこから痛みが生じて来るケースや、卵巣がんが腹腔内にある腸管を癒着・狭窄させ腸閉塞を引き起こし、そこから痛みが生じて来るケースといった、二次的な痛みを発生させる可能性が比較的ある腫瘍であると言えます。

がん性腹膜炎の痛みも医療用麻薬が効きますが、それだけで不十分なこともしばしばあり、他の鎮痛薬との組み合わせの治療が必要となります。

また腸閉塞の痛みは、腸閉塞自体を緩和することが重要です。それなので、単なる腫瘍の痛みとは違った対応が必要になります。

場所が子宮がんよりも頭側にあるため、骨盤神経叢(こつばんしんけいそう。骨盤内で神経が集まって網状になっている部分)への進展は、子宮がんほどない印象があり、骨盤神経叢浸潤からの神経障害性疼痛の痛みを発症することはそれほど多くありません。

このように卵巣そのものの痛みより、二次的な病態とそれに付随する痛みへの対処が必要となります。

 

卵巣がんと痛み以外

卵巣がんも転移を来しますので、転移した場所により様々な症状を来します。

高度に進行した卵巣がんで特筆すべきは、腹水でしょう。

卵巣がんは、他のがん種よりも余命がある状態でも腹水が出現するので、一般に腹水のマネジメントが非常に重要となります。

なお、「卵巣がん 腹水 余命」と検索すると、医師監修を謳ったサイトもヒットしますが、

× モルヒネは腹部膨満感(腹部の張り)を緩和する

× モルヒネの量を増やしていくと、意識のある時間が短くなってくる

× (卵巣がんで)腹水がたまり始めると、余命が1ヶ月を切った状態という指標

と普通に誤ったことを書いてあるものがあります。

何度か記しているように、批判ではなく専門性の違いですが、医師でもがん医療に精通した専門家は必ずしも多いわけではなく、普通に正確性の低いことを発信する医師もいるため、注意が必要です。私が糖尿病の最新治療について発信すれば、(もちろん最善を尽くしますが)糖尿病の専門家の書くものとは比べようもありません。それと同様のことが起こります。

したがって、この医師の専門はなにか、をプロフィールからよく読み込み、信じる度合いを決めるのが良いでしょう.

先程のものを訂正します。

× モルヒネは腹部膨満感(腹部の張り)を緩和する→がん性腹膜炎の内臓痛で、張った痛みを自覚している場合ならば効くが、腹水が溜まって物理的にお腹が張っているのを緩和する効果はない

× モルヒネの量を増やしていくと、意識のある時間が短くなってくるそうならないように、適量に医療用麻薬を設定する(重要!)

× 腹水がたまり始めると、余命が1ヶ月を切った状態という指標→先述したように、卵巣がんの患者さんは余命が1ヶ月を切った状態とは到底言えないような前から腹水のマネジメントが必要となることがままある。

腹水に関しては、腹水穿刺排液や腹水濃縮再静注などが行われます。

他にも、前述したように腸閉塞を起こしうる腫瘍なので、同病態の時はステロイドやオクトレオチドといった薬剤を使用して病態の改善に努めます。

卵巣がんは血栓塞栓症のリスクが相対的に高いとされており、その点も注意が必要です。

 

卵巣がんと心理的な問題、治療に関する問題

卵巣がんは病巣が卵巣に限局していても、子宮全摘が推奨されています。

がん診療ガイドライン/卵巣がん

がん治療に関連する性にまつわる問題も、子宮がんと同様に起こりえます【参考;がん患者の<幸せな性>春秋社】。

挙児希望がある場合の治療も諸配慮が必要で、上記のガイドラインにも仔細に記載されています。

再発例に対しても、卵巣がんは腫瘍減量術(手術)の予後改善性が指摘されているなどの特徴があります。抗がん剤治療も行われ、治療の副作用への対策も大切になります。これは主として、治療医が対応することになるでしょうから、ご自身の症状をしっかりはっきり伝えることが大切になります。

卵巣がんはピークが50代前半から60代前半ですが、種別によっては比較的若い世代も罹患します。

私が診療したある20代女性の患者さんは、20歳前後で性索間質性腫瘍と診断され、手術や抗がん剤治療を複数回経験され、それでも病状が増悪に傾向にあり、私の外来に来られた時には「末期で、もう治療法がない」「手の尽くしようがない」と言われて紹介されて来られたのです。

ところが、もっぱら症状緩和のために施行した複数回の放射線治療で、腫瘍の成長が著しく抑えられ、初診時から5年4カ月生存されました。

その間、患者さんは20代から30代になられ、たくさんの甥子さんや姪子さんにとって良いお姉さんであり続けました。

ある時ポツリと、「他の人と同じような人生を送りたかったな」と彼女は言いました。

偽らざる気持ちだったと思います。沈黙するしかありませんでした。

それでも前を向いて、与えられた環境の中をしっかり生き抜かれました。

卵巣がんは幅広い年代で起こるがゆえに、その年齢における環境を理解し、治療とケアを行っていきます。

 

まとめ

卵巣がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。

痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。

子宮がんと同様に、性の機能に関係する部位の腫瘍であり、ライフスタイルに大きな影響を及ぼす可能性があります。

がんの種類によっては発症年代が若いこともあり、相当病気が進行した際には、まだ幼少である場合も存在するお子さんに病気をどのように伝えるか等も問題になります。私の経験でも、支援したケースはほとんど子宮がんや卵巣がん、乳がんなどの女性の高度進行腫瘍例でした。

婦人科も大変多忙な科で、時間をかけてじっくりと悩みに向き合うのは、なかなか困難であることも現実です。

緩和的な諸問題に詳しい専門家を併用する価値があるがん種の一つとも言えますでしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。