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延命してほしくないので医療は要らない

 

時々「延命治療はいりません」と仰る方がいます。

健康な方にも多いですね。

もちろん、望まぬ延命治療をしてほしい人はいないでしょう。

「そうなんですね」

と答えると、「はい」

「そうしなければ苦痛もないですから」

……

……ちょっと待ってください。

 

症状緩和の医療は必要

苦痛というのは、治療にまつわるものばかりではありません。

例えばがんの場合、病状が進めば、当然大なり小なり苦痛は出現します。

病気自体も苦痛を発生させるのです。

中には「治療しなければ苦痛がない」というようなことを言う識者もいますが、それは事実ではありません。

一切のがん治療を受けなくても、苦痛は出る時には出ます。

苦痛緩和が不要なくらいにとどまるかと言えば、そうとも限りません。

「治療しなければ苦痛がない」という情報を信じている方の中には、時々医療全般に対して否定的な方もいます。

例えば、症状を和らげるのに非常に有用な薬である医療用麻薬(モルヒネなど)も、不信が先だってしまい、あるいはポリシーから、そのような「不自然なことをしないで、そのままにしたい」と希望される方もいます。

ただ「自然」が一番楽かと言えば、そうではないわけですね。

これは医療に限らず、様々な事象でも同様です。

 

医療は人を幸せにすべく進歩して来ました。

がんでのたうち回って亡くなる、という時代がかつてはありました。

治療らしい治療もできずに、苦しまれたのです。

そこから医療は進歩し、今は苦痛を和らげられるようになって来ています。

医療は好きではなくても、症状緩和の治療は受けたほうが良い、これは断言しておきます。

 

最後を診てくれる医師も必要

また、「延命治療はいらない」という場合に、いずれ病気が進展して、いざというときを迎えた場合にどうするか、それも考えなくてはいけません。

かかりつけ医がいなければ、最期を迎えた場合に、結局病院で死亡診断をしてもらう必要があります。

現状の所、何らかの医療者の関わりがゼロで最期を迎えるということは、ないと言えましょう(監察医も医師ですし)。

「延命治療はいらない」と希望するのはあくまでスタートで、それと同時に、「症状が緩和され」「最後まで継続診療される」体制を構築しなければいけないのです。

医師や医療機関をしっかり選べば、世間でしばしば言われるような「病院は一律延命」「延命ばかり目指して苦痛緩和は今ひとつ」的な状況にはならないでしょう。

そういうわけで、延命治療を行う行わないにかかわらず、(症状に対処する)医師や医療機関は必要なのです。

 

延命をしないならばむしろしっかりとした医療体制を

延命治療を受けないということは、ある一定の医療機関では入院できなくなる可能性があります。

この時に、入院設備のないクリニックだけに絞ると、いざ入院が必要になった際に、完璧な「がん難民」と呼ばれる状況になってしまいます。

延命治療を希望しない時こそ、しっかりとした医療機関による支援体制を構築する必要があります。

「延命治療をしない」≠「医療をしない」

だということは、自明のことだという方もいれば、そうなのかと思う方もいると思います。

皆さんの周囲で、「延命治療をしない」→「苦痛もなく、自然に穏やかな最期」と思い込んでいる方がいれば、必ずしもそうではないということをお伝え頂ければと思います。

延命治療をしなくても、苦痛緩和の医療をはじめとした医療は必要ですし、医師や看護師などの医療者も必要なのです。

(なお、当所の緩和ケア外来相談で、「こういう医療体制の組み方で良いか」とすでに準備途上あるいは準備済みの患者さんからご相談を受けることがありますが、正しい使い方だと考えます)

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。