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口腔がん・舌がん・口腔底がんと早期からの緩和ケア

口腔がん・舌がん・口腔底がんなどの口腔内のがんは、広義には頭頸部がんに属します。

頭頸部がんの緩和ケアは一度下記で解説しました。

頭頸部がんの緩和ケア

頭頸部がんにもいくつかの特徴があり、緩和ケア医はそれを踏まえて緩和にあたっています。

口腔は、摂食や構音など、様々な機能と関連する場所です。

進行すれば、それらの機能への影響が出ますし、摂食等に伴う痛みなども出現し、心身へ大きなストレスとなります。

海外の有名な緩和ケアの教科書(The Oxford Textbook of Palliative Medicine)にも、頭頸部がんだけで独立した項目が設けられているくらい、特徴的な側面があり、緩和ケア医も実力が試されます。

 

口腔がん・舌がん・口腔底がんと痛み

口腔内のがんの痛みも、しばしば対処が難しいことがあります

どうしてかと言うと、腫瘍に唾液や食物が接触することでの痛みが頻繁に起きたり、進行すると皮膚上にまで進展してくるケースもあり、そうすると触ったり動かしたりするだけで痛んだりする場合もあるためです。

口腔内のがんの痛みもしばしば一筋縄ではいかない場合もあります。

これらのがんが進行して、口腔外まで出ると、体性痛や神経障害性疼痛を合併してきます。

そうすると、医療用麻薬だけで必ずしも著効を得られない、ということがしばしばあるのです。

対処としては、体性痛の要素があれば、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の併用を考慮します。

難治性の神経障害性疼痛の場合は、医療用麻薬の他に、鎮痛補助薬という痛み以外の主適応症を有しているが痛みへの効果もある薬剤群を併用します。

しかも口腔がんならではの難しさがあります。

それは嚥下障害や嚥下痛などもしばしば合併するため、「飲み薬が飲めない」あるいは「飲み薬が飲みづらい」ということもよくあるということです

したがって、鎮痛薬の選択肢も狭まります。その方がちゃんと鎮痛薬を使用できる方策を選択しなければなりませんが、これは診察時間もかかり、緩和ケア医の併診が望ましい理由の1つと言えるでしょう。

 

口腔がんと痛み以外

痛み以外にも様々な症状を起こします。

のどの異和感や飲み込みの悪さ(嚥下障害)、声がすれや、口内の難治性潰瘍、頸部リンパ節腫脹による張り感など多様です。

どちらかというと、離れた臓器や内臓に転移してというよりは、腫瘍周囲への進展によりもたらされる問題が大きいでしょう。

物理的な圧迫や閉塞、機能障害に関しては、緩和ケアでも対処が難しい症状もあります。

また食事摂取が腫瘍によって物理的に困難になることの他に、炎症性サイトカイン血症などから腫瘍性の悪液質を起こす傾向も強く、倦怠感(だるさ)や食欲不振、体重減少も他の高度進行がんと同等以上に起こりえます。

あらゆる可能性が考えられるので、出た症状に応じてしっかりと原因をアセスメント(評価)し、できることを探っていきます。

 

口腔がんと心理的な問題、治療に関する問題

口腔がんも含まれる頭頸部がんは、抑うつの頻度も相対的に多い腫瘍で、それは治療前後を問わず認められます。27~28.5%との報告もあります。

【参考;英文】

Anxiety and depression in head and neck out-patients.

Long-term health-related quality of life in survivors of head and neck cancer.

疾病に関連する厳しい環境だけではなく、疾病自体でも抑うつを起こしやすい可能性があり、周囲は注意する必要があります。

手術、化学療法、放射線治療など集学的治療が施行されることもあり、治療による合併症や副作用も起こりうるため、経験豊富ながん治療医の関与が不可欠です。

治療にまつわる不安やストレスも、支援すべき問題です。

 

まとめ

口腔がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。

痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。

口腔は摂食やコミュニケーションに関連する機能を有しているとても重要な場所であり、同部位のがんの高度進行は機能の障害が不可避であり、その支援にも十分な配慮が必要となります。

また口腔がんも痩せや食欲不振が目立つ腫瘍で、しばしば食べていないためだと捉えられているのですが、それだけではない可能性があります。

倦怠感と食欲不振、抑うつは、ある研究において、ステロイドに反応して同様に改善したということが指摘されています

病態の背景が似ている、つまり腫瘍性の炎症性サイトカイン血症などが関係し、腫瘍が起こしている特定の物質の上昇や活性化が、倦怠感や抑うつの源となっていることが推測されます。

口腔がんは抑うつの頻度も相対的に高く、口腔内という場所にある腫瘍自体の恒常的な不快感や、治療の大変さ等の他に、病気自体もうつの発症しやすさに影響している可能性があります。

痛みに関しては、特に「内服薬が飲みづらい・飲めない」という問題も起こりうるため、治療の選択肢が限られ、緩和ケア医に早期から関わってもらったほうが良いがん種と言えるでしょう。

また口腔がんも進行例では、抗がん剤治療や放射線治療が行われます。

それら治療の副作用対策を徹底的に行うためにも、早期からの緩和ケアによる支援が重要となるでしょう。

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。