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「家族と話し合えない」という悩みは意外に多い

軽くない病になって――

家族ともよく話し合い、一丸となって、あるいは後顧の憂いをなくして治療に望みたい。

理解できる考えです。

しかし、しばしばそれは容易ではありません。

 

家族とはこれまでの経緯や立場がある

意外に、見知らぬ人の言うことのほうが、ゼロベースで判断できるところもあるかもしれません。

家族相手だと、すんなりいかないこともあるようだと感じています。

それは、家族のこれまでの経緯や立場があることと無縁ではないでしょう。

例えば、親からすると子はいつまでも子。そのため、素直に言うことに耳を傾けないということもあり得るでしょう。

子からしても、他の年長者だったら我慢できるところが、親だとつい我慢できずに、口うるさく言ってしまうこともあるかもしれません。

普段から関係が冷却している夫婦は、にわかに歩み寄ろうと思っても、いつもと同じ様式で冷ためにあしらわれ、傷つくということもあります(実はどう接して良いかわからず困惑している・・・というようなケースもあるのですが)。

もちろん、病になっても全く変わらず、支えを惜しまないご家族もいることはいます。

しかしかなりの数の事例に伴走させて頂いてきた私からすると、それはラッキーな例で、基本的には何らかの難しさを抱えているケースが多い印象があります。

「このような状況なのに、なぜ少しも心を交わせないのか・・・」

落胆し、涙される方もいらっしゃいました。

ではどうしたら良いのでしょうか?

 

最初の処方箋 自分を主語にして話をする

難しいことですが、人の気持ちを直接変えることは、たとえ家族でもあっても困難なものです。

あるいは人の行動というものは、急に変わることはあまりありません。

ゆえに、「自分が病気になったので、当然◯◯してくれるはずだ」と思うと、現実とのギャップに苦しむことになります。

まずは、自分すなわち”私”を主語に、気持ちを伝えることです。

あなたは、を主語にして、「なぜこうしない」と詰問したりなじったりしても、行動は変わりません。

むしろ逆効果になる場合もあります。

病気に伴い、自分(私)は何を感じていて、何を望んでいるのかを伝えることが大切になります。

「私」を主語にして話しましょう。

 

次の処方箋 チーム□□のキックオフミーティングを行う

家族が一人だけ、というような場合は、あまり顕在化しませんが、構成員が多いと、足並みの乱れがしばしば起こります。

また家族の誰かは理解が深いけれども、誰かはそうではなかったり、それとは別に、ある家族は関与の度合いが多いけれども、また別の家族はそうでもなかったりなど、個々人及び家族ごとに抱えている状況はそれぞれです。

一度、「病気について話し合う会」を設定し、主だった構成員に全員集まってもらい、自分の状況や気持ちを伝えて、理解してもらうということも大切となるでしょう。

理想としては、誰がどのように関わるのかなども、明確化できれば良いですね。

ただ、高めの目標を設定して、一直線に突き進むよりも、まずは「チーム□□(皆さんの名字がここに入ります)」の結成を宣言することが大切だと思います。

残念ながら、誰の厄介にもならずに人生を全うできる方はほとんどいないです。

誰かの世話になるのは、人の宿命です(だいたい、そうやって育っても来ました)。

「迷惑」に関しても、いろいろと話し合っておけると良いですね。

良くないのは、迷惑をかけると忖度して、(実はそう思われていないかもしれないのに)思いを飲み込んだり、やりたいことをやらなかったりすることです。

事前にこのような場で伝えておくことで、自他ともに良い可能性があります。

とにかくこのような「場」を強制的に持ち、関係各員を集めることで、話し合いやすくなることはあるでしょう。

 

最後の処方箋 医療者を使う

それでも話し合うのが難しいというご家族もいらっしゃいます。

元々不仲だったりするケースもありますが、ご本人の意思と異なってご家族が治療に熱心等で意思がぶつかり合うようなケースもあります

手前味噌ですが、このような場合こそ、医療者に介在してもらうべきです。

担当医や担当看護師でも良いですが、特に適任なのは、緩和ケアの担当医、がん看護専門看護師、緩和ケア系の認定看護師(緩和ケア認定看護師、がん性疼痛看護認定看護師)などが挙げられるでしょう。

人は近しい人の話をなかなか素直に聴けないことがあるという特徴があります。

ましてや意見がぶつかっている際に、当事者同士で話し合ってもなかなかうまくいかない場合には、無理にぶつかり合うと余計にこじれてしまうことがあります。

介在する、冷静な第三者が必要です。

ただ、この第三者も、意見のすれ違いに対する理解や調整法を知っているという力が必要不可欠です。

医療者もいろいろな存在がいますから、頼む相手によっては、一方に偏って判断を下したりし、全体を考えた対応の力が乏しい場合もあります。残念ながら、誰かに過度に肩入れし、余計に引っかき回してしまう人もいます。

それゆえ、まずは担当医や担当看護師に調整を頼むので良いですが、それでうまくいかない場合や、そもそも難しいのではないかと不安な場合は、緩和ケアの医師や専門・認定資格を持つ看護師に介入してもらうことが良いと思います。

 

なぜ緩和ケアの医師や看護師が、意見のぶつかり合い時に頼もしいのか

一般に、本当の緩和ケアの担い手は、このような家族間の意思の不一致や思いのずれがある場合に、誰かに偏って物事を裁定するということはありません。

全体のバランスを考えて、動きます。

難しい問題において大切なのは、結果よりもプロセスです。

たとえ、思うようにいかない経過を辿ったとしても、自分が十分悩んで決断してきたことならば、人は一定の満足感は得られます

一方で、人から押し付けられたり、安易に決断したことに関しては、納得がいかず、悔いが残ります

もちろん絶対がない医療や世の中の問題で、誰もが100%満足のいく結論を得ることもまず不可能です

しかしそれぞれが十分悩み、思いを伝えられる、そのようなプロセスを経ることで、そうではない時よりも一定の納得は得られやすくなります

非常に厳しい重病の場合は、いかなる手を尽くしても、生きるという結果は得られない場合も残念ながらあることは事実です。

しかしその時に、十分情報を与えられ、皆で悩み考え、決断して生きた場合と、お仕着せで生きることになってしまった場合とでは、旅立つという結果は同じでも、その満足や悔いには雲泥の差が生じるでしょう。

この「プロセスの大切さ」を熟知しているのが、本当の緩和ケアの担い手です。

したがって、緩和ケアの担い手はそれぞれの思いを十分引き出し、表出してもらい、それぞれの思いを明らかにし、そのうえでともに最善を考えるというプロセスを支援するでしょう。

安易に誰かの訴えで、誰は良い人、誰は最低等と家族の値踏みをして、特定の誰かに肩入れすることはありません。

家族というまとまりが最大限にうまくいくように、輝くように、支援するのです。

 

まとめ

日本は古来から「言わずとも察する」という文化を育ててきました。

しかし価値観が多様化している現代において、忖度はしばしば通用しません。

ただいざ話そうとしても、なかなか土俵に乗ってもらえない、そのような患者さんやご家族の声は、それはもうよく聞きます。

そんな時、どうしたら良いのか。

それはなかなか書いていないことですので、ぜひと思って記しました。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。