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診断時からすぐに緩和ケアを定期受診した場合のメリットは?

欧米は何でも研究する姿勢は、本当にすごいですね。

3年前の論文なのですが、いつ緩和ケアを始めたら良いの? という疑問についてのランダム化比較試験です。

Early Versus Delayed Initiation of Concurrent Palliative Oncology Care: Patient Outcomes in the ENABLE III Randomized Controlled Trial.

207人を、診断時からすぐに緩和ケアを始める群と、3ヶ月後に開始する群に割り振っています。

がんは固形がんも血液がんも含み、病気の進み具合も進行がんと初めて診断された患者さんだけではなく、治療後の再発・進行が確認された例(それらの診断後30~60日以内)もあり、またがんセンター等の病院だけではなく地域の診療所での患者さんも含んでいるなど、患者層は幅広いです。

興味深いのは、初回は対面相談で、その後は遠隔(電話)相談を週1回で6週間行われました。

当院が提供している1つの方法のようなやり方ですね。

また他の臨床試験と同じく、症状の有る無しを問わずに定期的に緩和ケアを施行しています。

緩和ケアというと、これまでは「末期にかかる」からやや進化して、「症状が出てからかかる」が常識的だったわけですが、海外の臨床試験はより積極的なケアを行っています。

症状が出たり増悪してからでは遅い、という考えですね。

ただある意味、どちらも定期的な遠隔緩和ケア相談を受けることができ、開始が3ヶ月違うだけなので、大きな差は出ないのじゃないかなと読む前は思っていました。

ところが……

 

なんと3ヶ月早いだけで、1年生存率に差が生じた

評価項目は概ね2群で統計学的な有意差を認めませんでした。

開始が3ヶ月違うだけですからね。

ただ1年生存率には、なんと有意差が出たのです。

「すぐに」緩和ケアが介入した群(63%)が、3ヶ月後に介入した群(48%)よりも1年生存率は有意に高かった(群間差15%、p=0.038)のです。

正確なメカニズムは不明ですが、なんとも興味深い結果です。

たった3ヶ月ですが、統計的な有意差を検出することはできたのですね。

 

考えなしに3ヶ月にしたわけではない

むしろたった3ヶ月「だけ」と考えてしまった私も、旧来の緩和ケアの理解から卒業できていないのかもしれません。

この研究は、先行する研究の結果を元に、進行がんのケースでは(様々な進み具合があるからでしょう)診断から3ヶ月後に症状増悪の傾向があることや、ふさわしい開始時期が診断から30~60日以内と決定したようです。

3ヶ月とは、症状を出すのに十分というそれまでの知見からはじき出された数字だったようですね。

もちろんこの研究1つで何かを結論することはできませんが、週1回の6週連続電話という一見大したことがないように見える緩和ケアのアプローチでも、生存率等の結果には影響しうる可能性を示唆しているという点で非常に興味深いと考えられます。

また、こういう研究もあるということが専門家の中でしか知られていないため、「早期からの緩和ケア」というと、しばしば(医療者にも)非常に奇異な響きを帯びるようです。

ただ初回面談で、以後遠隔相談という形式であっても、診断時からの緩和ケア開始と3ヶ月後からの緩和ケア開始では1年生存率に差があったという結果は、面白いものだと思いますし、当院が提供している形でもありますね。

 

緩和ケアでも「時は金なり」

海外ではこのように緩和ケアによって生存率が改善するか否かまで研究されています。

緩和ケアに期待されているところが大きいわけですね。

もちろん、患者さんやご家族の苦痛が少なく、良い時間を過ごせるように支援することは変わらず緩和ケアの大切な側面です。

けれども、「困ったら受診」「直接対面」という世間一般的な緩和ケアの常識から外れた「症状がなくても緩和ケア部門が定期的に関与」「遠隔相談中心」という形でも、何らかの効果が得られる可能性まで指摘されていることは、知っておかれても良いものでしょう。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。