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脳腫瘍の緩和ケア

脳腫瘍とひと口に言いますが、脳腫瘍の種類は実に150種類に及びます。

国立がん研究センター 脳腫瘍について

多くのがんは脳への転移を起こします。

肺がん(60%)、消化器系がん(15.7%)、乳がん(10.6%)、腎泌尿器系(6.4%)などが脳転移を起こしやすいがんです。

参照;転移性脳腫瘍|東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科

転移性脳腫瘍の発生頻度は全脳腫瘍の17.4%とされているようですが、実際はそれよりも多い可能性があります。米国などでは40%という報告もあると上記参照サイトには記されています。

これらの転移性脳腫瘍は、他の臓器に生じたがんが脳に転移したものです。

それとは別に最初から脳に発生する腫瘍があります。これを原発性脳腫瘍と呼び、この記事は転移性でなく原発性脳腫瘍の説明です。

原発性脳腫瘍は脳に発生しますが、脳の外に出ることはほとんどありません。

他のがんの場合は、がんの進み具合をstageで表しますが、脳腫瘍の場合は悪性度(グレード)をローマ数字のI~IVで表現します。

脳腫瘍が緩和ケア部門に紹介が来ることは、ある例外を除いて、多くありません。

それは脳腫瘍の特性と関係しています。

原発性脳腫瘍、特にその中でも多い神経膠腫(しんけいこうしゅ)の緩和ケアについてお伝えします。

なお神経膠腫の中でも悪性度が高いグレードⅣのものが膠芽腫(こうがしゅ)です。

 

原発性脳腫瘍の体の苦痛症状と緩和ケア

原発性脳腫瘍と痛み

原発性脳腫瘍で痛みを感じる場合は、まず頭痛があります。

脳自体は痛みを感じません。

しかし腫瘍があることで脳圧が亢進するため、あるいは痛みを感じる組織(髄膜や血管等)が引っ張られるなどして刺激を受けるため、頭痛が起こります。

基本的には腫瘍が原因であるため、腫瘍のサイズを減らすべく、手術などの治療が行われ、それで痛みは緩和されます。

薬物治療としては、ステロイド、特にデキサメタゾンが使用されます。

参考;European Association for Neuro-Oncology (EANO) guidelines for palliative care in adults with glioma.

原発性脳腫瘍と痛み以外

脳腫瘍で問題になるのは、多様な精神神経症状です.

● 嘔吐

● けいれん

● 運動障害

● 感覚障害

● 言語障害

● 視覚障害

● めまい

など、障害部位に応じて様々な症状や障害を発症します。

基本的に主たる担当は、脳神経外科等になります。

腫瘍終末期のけいれんに関しては、内服薬が飲めなくなるので、様々な工夫が必要になります。

 

脳腫瘍と心理的な問題、治療に関する問題

脳腫瘍は人の様々な機能と直結する腫瘍です。

脳は人としての活動の中心であることから、それが与える影響は甚大です。

治療が奏効している限りは問題は抑えられても、高度進行となると諸症状は無視し得ないレベルの障害となりえます。

脳という構造物に限局し、他の部位に転移することがない原発性脳腫瘍においては、基本的に脳神経外科等の脳の臨床専門家が継続的に診療することが多いです。

そのため緩和ケア科に紹介されるのは、多くのケースで末期になってからであり、紹介自体も多くありません。

しかし先述の海外のガイドラインでも記されていますが、海外でも(日本でも)相当進行してからの紹介が多く、本来は認知機能やコミュニケーションが保持されている時期に早期から紹介されて緩和ケアのサポートを受けることが望ましいとあります。

また私も診療経験がありますが、脳腫瘍はご家族の心身の負担が相対的に強い腫瘍であり、家族ケアが不可欠です。

次第にコミュニケーションが障害されるため、また日常生活動作も低下し、ご家族のつらさも甚大となりえます。

ご家族へもケアを提供するという緩和ケアの働きを活かして、支援します。

高度に進行した脳腫瘍のケースでは、個人的な考えですが、患者:家族=1:1のケアよりも、より家族ケアを手厚くする必要があるとこれまでの診療から感じています。

 

まとめ

脳腫瘍も他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。

痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。

脳腫瘍は、a)他の臓器への転移がない、b)人としての機能に直結する部位の腫瘍、という他の腫瘍と異なる特徴があります。

また終末期せん妄によって、どのような腫瘍においても終末期には認知機能やコミュニケーションが損なわれますが、そのような問題が比較的早期から出現し、ご家族における苦悩や心身の負担が相対的に早くから問題となる腫瘍です。

そのため、家族ケアを十分実行する必要があり、海外のガイドラインでも早期からの緩和ケアについてはっきりと記されています。

しかし諸外国と同様に、緩和ケアが高度進行期や終末期となってから担当医に意識されやすいという特徴があり、紹介例が多くありません。

原発性脳腫瘍も早期からの緩和ケアが必要です。

ぜひ緩和ケア部門に相談してほしいと思いますし、それを通して脳腫瘍においても緩和ケアの早期からの提供が当たり前になることを願います。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。