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多くの人にとってがんは初体験の病気である

生涯罹患率で明らかなように、実はがんはざっくり言えば1/2の人が一生涯にかかります。

2人に1人はなるわけです。

なるのが当たり前に近い病気とも言えます。

中には、1人で2つ目、3つ目のがんを経験される方もいます。

ただ多くの方にとって、がんは初めての経験である、ということが多いでしょう。

この「初めて」というところと、「がんの特徴」が不安と関連します。

 

初体験がゆえに

普段病気にならない人ほど大騒ぎ、巷ではそういう言葉もありますね。

確かにしょっちゅう風邪を引く人は、「また風邪か」と嫌な気持ちにはなっても、大騒ぎはしないかもしれません。

しかし普段そのような経験がなかったりすれば、大変なことが起きているのではないかと不安になることもあるでしょう。

知っていることは強さです。体験があることも強みです。

けれども診断された時、多くの方にとってがんは初体験のものです。

未知なものに、経験がまだ足りない状況で立ち向かわせねばならない、それも「がん」という重い響き自体に不安を感じながら・・・というところに気持ちが揺れるのはむしろ普通の事象でしょう。

したがって、がんで不安を感じるのはむしろ当たり前だと捉えて頂くのが良いと思います。

不安を感じている皆さんは、正常なのです。

 

がんの特徴も不安をかき立てる

私も大学の緩和ケア外来で、「治った」方を何人も拝見しました。

治ったから良いじゃないか? なんで緩和ケア? そう思われますか。

がんは他の病気と違う特徴があります。

それは再発と転移です。

様々な病気がありますが、がんの特徴の1つとして再発と転移があり、一度消え去ったように見えても、5年あるいは10年は100%絶対に再発がないとは言えないというところが悩ましい特徴です。

それが不安の原因となります。

腫瘍マーカーの増減にナーバスになったり、身体で痛むところがあるとついインターネットを調べてしまい、転移ではないかと心配したり。

実際、乳がんの患者さんが背中が痛いので、骨転移に違いないと確診していた(御本人が)というケースもありました。

「先生、もう私はだめです。再発なんです」と。

ところが検査してみると、腰椎椎間板ヘルニアでした。がんの再発とは全く無関係でした。

これは全然笑い話ではなく、このように少しのことが不安につながったりがあるのです。これもまた当たり前にあることです。

 

治療の意味が2つあることも難しい

がん治療には様々な意味があります。

普通の病気は「治すこと」が目標になります。

そのような「治す」ということは、誰にも理解しやすいものでしょう。

一般に、治療=治す、ですからね。

けれども、かなり進んでいるがんの場合は、完全に治すものが難しいものもあります。

そうすると「治す」治療はできませんから、それならば他の治療をしても「意味がないのではないか?」と思われる方もいます。

一見そう見えますが、病気が進行することで様々な苦痛が出る可能性があります。

病気の進行を抑える治療も、症状を抑えますし、それで命の長さを延ばすこともできます。

治すことを一般に目標とはしていないけれども、生活の質を保ちがんを抑え、良い時間をできるだけ長く、ということを意図した治療がある、ということです。

この「完治」を目指してはいないけれども意義がある治療に関しては、これもまた多くの方にとっては、聴いたことが少ないものでしょう。

治療でも様々な不調や副作用が出ることがありますから、それで不安になることもあります。

 

では不安に対してどうしたら良いか?

これまで挙げてきたのはあくまで一例で、患者さんごとに、また置かれている状態ごとに、様々な不安が生じるものだと思います。

一番大切なのは、聞いてもらいたい時にその不安を聞いてくれる人を確保することです。

できれば医療者と、医療者以外の人に複数いると良いですね。

同病の方とコミュニケーションを図る方もいます。それも良いと思います(ただし個人差があり)。

ただ同病の方とは言え、経過は千差万別ですから、病状の違い等で話を聞いて落ち込むようならば、あえて積極的にコミュニケーションしないという考えもあると思います。

また中には、旅立たれる方もいらっしゃいます。

同病の方とのふれあいは大きな力となるものですが、そのように色々な側面があり、ご自身の性格等を見極めて選択していかれると良いと思います。

継続的に話を聞いてくれる医療者も、探せば絶対にいますので、それを見つけることはとても有効だと思います。

私がおすすめするのは「書いてみる」ことだと思います。

書くことで可視化され、自身の気持ちがはっきりしてくる、ということが書くことの効用です。

亡くなった小林麻央さんも、思いをブログに表現することが、力となっていたのではないかと感じていました。

思うままに書き綴ることで、不安の本態が見えてくるかもしれません。

不安がまったくない、ということは難しく、それを目指さなくて良いと思います。

不安はあるけれども、日々生活できている、それでまずは十分以上だと考えます。

いずれにせよ色々な対処策がありますので、まずはその不安を躊躇なく、身近な医療者に相談してみるところから始めてみてはいかがでしょうか?

不安が解消されることを願っています。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。