Pocket
LINEで送る

アセスメントで”時間”も変わる

緩和ケアのアセスメント(評価・分析)の重要性について先日触れました。

アセスメントの大切さについては強調してもし過ぎることはないでしょう。

この間は結果が異なった話をしました。

アセスメントによって結果も変わりますが、時間も変わります

 

アセスメントの的中が早期治療と成功を呼び込む・・・が

Aさんは、大腸がんですが、ずっと”腰痛”に悩んでいました。

他院で加療されていました。

レントゲンには何も写りません。

整形外科に紹介されましたが、異常なしとされていました。

腰痛に数ヶ月苦しめられていました

アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が出されていましたが一向に良くなりません。

うめいて夜眠れない時もありました。

ひょんな事情で、私に依頼が来ました。

腹部CTをみて、一目瞭然、大動脈周囲リンパ節腫脹でした。

これは背部痛の原因になります。

がんが転移してのものですから、医療用麻薬の適応です。

医療用麻薬を処方し、徐々に増量、痛みは大幅に緩和されました。

一件落着……

でしょうか?

腰痛があった時に、すぐに緩和ケア部門に依頼になっていれば、数ヶ月前に緩和できたことです。

患者さんはその時間苦しむことになってしまいました。

大動脈周囲リンパ節腫脹は腹部レントゲン写真ではわかりません

腹部CTと痛みの部位を照らし合わせればすぐにわかるのですが、注意してみていないとあるいは見落とすこともあるかもしれません。実際、患者さんを診療していたのはがん治療の拠点病院でした。そんな場合もあります。

もし緩和ケアのアセスメントを得ていたら、以前の記事でいう、アセスメントを買っていたら、数ヶ月の苦痛はだいぶ違ったはずです。

 

対照的なBさんのケース 早期からの緩和ケアあり

70代後半女性のBさんは乳がんで通院中でした。

早期から私が関わっていました。

骨転移痛があったからです。

骨転移痛は医療用麻薬などを使用し、かなり緩和されていました。

……一件落着……

でしょうか?

Bさんの骨転移は腰椎に存在し、大きさも目立ちました。

「もし両足がしびれるようなことがあれば、すぐに受診してほしい」

と伝えていました。

なぜか?

骨転移から腰椎の骨の形態が崩れて、その裏に存在する脊髄を圧迫する可能性があるからです。

もし脊髄を圧迫し麻痺が出現した際に、そのままにしていると完全下肢麻痺になってしまいます

そうすると元に戻りません。ずっと最後まで下肢麻痺で生活することになってしまいます。

はたして、しばらくして患者さんは両足のしびれを訴えました。

診察するとたしかに感覚障害だけではなく運動障害もあるようです。

すぐに検査を行ったところ、脊髄圧迫が認められました。

連携プレーで、放射線科がすぐに放射線治療を行ってくれました。

麻痺の程度が重くなってからだと、戻らなくなってしまいます。

幸いにして早期の緩和的放射線治療が奏効して、患者さんの運動障害の程度は軽度にとどまりました。

……というわけで一件落着……

にして良いでしょうか?

患者さんには生活があります

同じ70代後半のご主人と2人暮らしです。

何が必要でしょうか?

医学的に考えるならば「リハビリ」ですね。

さっそくリハビリチームに紹介、患者さんは早期からリハビリに取り組み、成果も出されました。

最終的にはリハビリ継続で転院していかれましたが、運動障害が出た当初の沈鬱な表情はではなく、活気のある表情とお姿になっていたことが印象的でした。

 

もし早期から緩和ケアが介入していなかったら

患者さんは「いつ受診するのか」がわからず、ひょっとして運動障害が出ても様子を見て、相当麻痺が進行した状態で来られて、重度の麻痺を残した可能性があります。

なおこのような受診が遅く、気がつかれるのも遅く、対処も遅いために、骨転移から麻痺になってしまう患者さんは一定数存在します。たまに、相当早い段階から対処しても障害を残すケースまであるほどで、このような病態は「腫瘍学的緊急症」と呼ばれ、早急の対応が必要です。

また運動障害が出た段階で、放射線治療を行い、それで良しとしてリハビリを行わなかったら、ご高齢の患者さんなので回復がより遅延した可能性もあります。

緩和ケアの担い手が、必要な部門に遅滞なく紹介することで、結果を出すことができたケースです。

 

緩和ケアの世界保健機関の定義に、”苦しみを「予防する」”とあります。

一刻も早く苦しみを緩和し、あるいは起こりうる問題に前もって対応することが、問題の重度化と、複雑化、複数化を防ぎます

問題が起きてからの対応のほうが、目に見えてわかりますが、実は「問題が起こらないように対処すること」は目に見えにくいがゆえに、評価もされづらいですが、実は価値としては上回るかもしれないのです。

このような「予防する」緩和ケアもまた重要です。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

<※事例には個人情報保護の観点から諸調整を加えています>

 

 

Pocket
LINEで送る

Share this Post
アバター

About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。