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医師に緩和ケアを勧められたら、どうする?

 

インターネットで、医師に緩和ケアを勧められたら、というようなタイトルの広告を見つけました。「緩和ケアに行ったら」「あとは緩和で」と言われたら等とバリエーションがあります。

末期でも根治を、のようなことが記してあるため、緩和ケアを勧められたら→末期→他に治療法がないか探される→うちの治療はどうですか? という流れがそこに見えます。

緩和ケア=末期、的な慣用的な使われ方がいまだにあるため、このようなタイトルの広告も成立するのです。

でも、ちょっと待ってください!! 

「医師に緩和ケアを勧められたら」

最初にすることは、自費診療のクリニックに行くことでも、「はい、わかりました。緩和ケアに行きます」と即答することでもありません。

 

医師に緩和ケアを勧められたら、まず最初にすること

「先生、この場合の緩和ケアとはどういう意味でしょうか?」

と医師に尋ねることです。

なぜか。

それを知るには、この20年程度の緩和ケアの変遷を知ることが必要です。

だいぶ前、緩和ケアと言えば、イコール終末期でした。

緩和ケアの従事者も少なく、緩和ケア病棟やホスピスではないと緩和ケアの専門家にかかることができず、したがって緩和ケアを供与しているのがもっぱら終末期の患者さんを診る施設であったという時代がありました。

しかし今は、その頃とは状況が異なります。「あとは緩和で」はともかく、「緩和に行ってください」は終末期だからこう勧められているとは限りません。より掘り下げる必要があるのです。

 

治療できませんの代わりに使われてしまう「緩和ケア」

病状がかなり進行し、抗がん剤治療をすることがむしろ命を縮めるような時期に至った時。

「治療できません」

と伝えることは、非常に患者さんにとってストレスが生じるものです。

それの婉曲的な表現として

「緩和ケアに専念するのはどうでしょうか?」

「緩和の病院に診てもらったほうが良いでしょう」

「緩和ケアで体力などを立て直して、そうしたらまた抗がん剤ができるかもしれません」

というような表現も、私の知る限りでは、10数年前まではわりと頻々と使われており、ホスピスで拝見した患者さんたちも、こう言われたんだ、と私に教えてくれたものです。

今もなお、このような「治療できない」と伝える代わりに、「緩和ケアの時期です」「緩和ケアに徹しましょう」などという言葉が使われることは見聞するものです。

 

新たに生まれている「早期からの緩和ケア」という潮流

一方で、苦痛があれば当然病気の進み具合がどの程度であろうが、和らげられるのに越したことはありません。

痛い苦しいにさいなまれていては、病気の治療もできなくなってしまいかねませんし、生きる力に影響を与えてしまう可能性だってあります。

そこで国も、2013年のがん対策推進基本計画(第2期)がんと診断された時からの緩和ケアの推進、を盛り込みました。

緩和ケアを、「いつでも」「早期から」提供すべし、と国の方針がそうなったわけです。

そして現在、このがん対策推進基本計画(1期5年です)が第3期となりましたが、今期でも「がんと診断された時からの緩和ケア」が(ある種変わらず)謳われています。

このように、実際は「病気の進み具合がどの程度でも」緩和ケアの対象になる、とされているにもかかわらず、現場ではいまだ、「治療できない」の代替用語として緩和ケアが持ち出されてしまっていることが、緩和ケアのイメージの不確かさを招いてしまっています。

患者さんやご家族も先入観をお持ちでないと大変緩和ケアを提供しやすく、結果良いことが多々あるのですが、どの時点でそうなってしまうのか「緩和ケア=終末期」「緩和ケア=見捨てられた」等々の観念を得てしまって、痛みや苦しみが強いのに「緩和ケアは嫌だ」(この場合の緩和ケアは諦めと同義なのでしょうね)と拒絶される方もいらっしゃいます。本当にもったいないことです。診ているこちらもつらいことです。

このように現在、緩和ケアが指し示すものは「早期から」もあれば「末期」もあり、広いです。

「医師に緩和ケアを勧められたら」

という場合も、「治療が困難になった」という意味で緩和ケアという言葉が使われることもあれば、「自分の手ではなかなか緩和できないので、緩和の専門家に症状緩和してもらっても良いのではないか」という意味で、「緩和ケア科に行ってみたら」「緩和ケアを受けてみたら」という言葉が使われることもあります。

どういう意味なのかは、発した医師の胸の中にありますので、掘り下げないとわかりません。

ですので、最初にその言葉を聞いた患者さんやご家族は、その真意をはっきりと言葉に出して尋ねることが重要だと考えます。

「先生それはどういう意味ですか?」と。

ただ、それの返答が「治療がもう難しい」という時期(意味)でも、「まだ治療を続けながら、専門的な緩和ケアを受けてみたら」という時期(意味)でも、間違いなく、緩和ケアは受けたほうが良いです。

皆さんもご存じのように、複合的な原因で医療現場には時間が少なく、患者さんやご家族が十分な情報を得るためには、重要な機会である診察時に尋ねるべきことはしっかり尋ねることの他、細やかな相談に応じてくれる場所を探すこと(患者会、看護外来、がん相談など様々なものがあります)が不可欠です。

私が行っている緩和ケア外来でも、たくさんの時間をかけて、細かな疑問にお答えして参りました。

話す中で、潜在的な問題が浮かび上がり、早い段階で対応することが可能となります。

問題はしばしば身体のことだけではなく、その点でも苦痛緩和の専門家と会って、話を聞いてもらうことは重要です。

 

まとめ

医師に緩和ケアを勧められたら→独自の自費の治療で治す

というよりも、まずは「なぜなのかを問い」そして案ずるより産むがやすし、勧められた緩和ケアの医療者・医療機関にかかってみると良いでしょう。

医師に緩和ケアを勧められたら→納得できたら、とりあえずかかってみる(これが推奨されます)

ひょっとするとですが、しっかりとした苦痛緩和は命の長さに関しても好影響を与えるかもしれません。

いずれにせよ指し示す範囲が広く、婉曲表現としても使用されている「緩和ケア」という言葉は、まず内容をはっきりさせることが大切だと言えると思います。

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。