Pocket
LINEで送る

病気と向き合うのは様々なスタンスがある

私達は千差万別の性格で生まれてきます。

いや、環境が形作る要素も大きいですから、生き方が性格を形作り、また性格が生き方を形作ります。

人生において大きな障害として立ちはだかる重い病気も、直面した際の思考や行動も人それぞれです。

いろいろなやり方があり、その人に合ったものがありますから、一義的に良いとか悪いとかは言えません。

 

ただし最初は初心者マークであることは誰も同じ

運転に習熟した方は、路上に出た頃がいかに脆弱かを体感されていると思います。

私も「よく大丈夫だったな」と振り返れば理解できます(その時には今ほどは理解できていないものです)

経験を積むことによって、いずれ熟練のドライバーになっていきます。

すると、危険の回避技術が上がります。

しかしそれまでには時間がかかる、ということです。

不安の項目でも触れましたが、

がんで不安 どうすれば良いですか? 緩和ケアの視点

がんは多くの場合、初めての体験です。1/2の人がなるほどありふれたものであるにもかかわらずです。

しかしがんはよく理解するのが簡単な病気かと言えば、そうではありません

また世の中を見渡せば、様々な人が様々なことを言っています。

惑わされる危険も相応に高いと言えますでしょう(患者さんがそれだけ多いメジャーな病気だからこそ、様々な関係者がそこに存在します。中には悪い人や、善意で間違ったことを言う人もいます)。

もちろん、まずはご自身の病気に対して、国立がんセンターのがん情報サービスなど信頼性が高いサイトで基本的な情報収集を行うことは重要です。

がん情報サービス

また医師の中にも大変有益な情報を長く発信し続けている臨床家もいます。

そのようなサイトで学ぶことも有用です。

がん治療の虚実

 

重い病気を患うと孤独である

病は非常に個人的な経験です。

私は緩和ケアが専門ですから、その方の苦痛を把握し、緩和することが仕事です。

ただし、難しいことに、その方の苦痛を客観的に指し示すデータはありません。

例えば、白血球やCRPという炎症を示す値が高ければ、その方の体内で炎症があることはわかります。これは強弱がデータで判断できます。

しかしその方の苦痛の強弱を示す客観的なデータはありません。

画像検査で同じようながんの広がりでも、苦痛には個人差があります。

要は、苦痛は主観的なもので、その人にしかわかりません

この「共有しがたいということ」が孤独の感覚と関係しています

「わかってもらえない」

重い病気の患者さんがそんな気持ちを抱くのは、実に当然のことと言えますでしょう。

ご家族へも、心配をかけまいと、時には言ってもなかなか理解してもらうのは難しいのではないかという思いから、口をつぐみがちです。

苦痛をつまびらかにしても、ご家族もどうして良いかわからず戸惑われます。

場合によっては、「私に言われても困る」とご家族も心身が疲弊して、つき放されてしまうこともあります。

確かに傍で「痛い痛い」「苦しい苦しい」と言われる側もそうなってしまう相応の理由があります。

迷惑をかけたくない、しかし迷惑をかけてしまう

ある40代の患者さんは3階の部屋にほとんど引きこもりになってしまいました。

2階より下の家族(奥さんと中学生の娘さん・小学生の息子さん)を煩わせることを恐れたのです。

一緒に住んでいるのに、彼はまるで一人で生きているようでした。病院にも来なくなってしまいました。

彼は手を差し伸べても、それが誰かの迷惑になることを厭うて、手を差し伸べてしまうことを止めてしまったのです。

私が往診した時、彼はそれでも笑顔で迎えてくれ、堰を切ったようにお話しされました。

「ありがとね」

別れ際は外来に通っていた時と同じ笑顔でした。

正式に訪問診療医を導入し、有事の際の入院先を決め、彼の診療は再開・継続することができました。

彼は孤独であることは仕方ないとあきらめていました。

ただそれでも来訪を喜んでくれました。

人はそれでもつながりを求め、それが力にもつながります。

 

話す相手を確保しよう

緩和ケアチームとして活動していると、時に、苦痛緩和以上に「気兼ねなく話せ、相談できる」ことをありがたいと仰ってくださる患者さんが多いことに気がつかされます。

「お話のチームね」等と仰ってくれる方もいました。

もちろん相手が緩和ケアの医療者でなくても良いとは思います。

ただ、話を聴いてくれて、必要時は医学的な助言もしてもらえる。

これを緩和ケアの利点だと感じてくださった方も多くいらっしゃいました。

緩和医療の技術を駆使している提供元(私)からすると、苦痛緩和の点をみて評価してもらえたらと思っていたものですが、それと同等以上に「自由に話ができること」「なんでも聞けること」を評価していただいていたようです。

実際に、自分も病気や入院の経験がありますから、病者の持つ孤独の一端は実感した経験があります。

なかなか気兼ねなく話せる医療者がいるわけではありません(システム上やむを得ないことですが、皆さん本当に忙しそうです。遠慮する患者さんの気持ちもよくわかります)。

そんな中に、心の垣根を取っ払ってくれるかのように、笑顔で接してくれる医療者には私も癒やされました。

既述のように、がんと付き合うことは大変で、最初はわからないことだらけだと思います。

一人で立ち向かうことには限界がありますし、またそうではないほうが良い結果を得やすい可能性があります。

別に、たくさんのネットワークを作る必要はないと思います(もちろんそれができる人、好きな人はそうすべきですが、無理に手を広げる必要もない、という意味です)。

数は少なくても、質・量ともに話を聴いてくれて支えてくれる人がいれば十分です。

孤独にならないように、それを作り上げること、これもがんと付き合う際に有効だと考えます。

なお、患者さんのご家族もまた孤独を経験しうるので、孤独を緩和すべきは患者さんばかりではありません。その点も注意が肝要でしょう。特に主たる介護者が、1人の場合(奥さんだけ、ご主人だけ、お子さんだけ)には十分な支援が必要です。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

<※事例には個人情報保護の観点から諸調整を加えています>

 

 

Pocket
LINEで送る

Share this Post
アバター

About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。