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レジリエンスについて皆さんにお伝えしたいと思います。

レジリエンスは心の回復力、復元力あるいは逆境力などと紹介する人もいますが、人生でしばしば起こる困難に遭遇した場合にそれを乗り越えてゆく力と解されるでしょう。

私も下記の健康本で食事や運動、睡眠と並んで大切な要素としてこれを挙げました。

 レジリエンスと、それが注目される理由について解説します。

 

「病気は医者が治すものではない。思い上がるな」

恩師の言葉です。

研修医の頃、恩師は常にそれを私たちに戒め、「病気を治しているのは患者だ。私たちができることはそれを支えることだ」と言っていました。

これは本当にその通りです。

老衰でとても弱った患者さんに、いくら高カロリー輸液をしても改善しませんし、全身状態が悪い中での肺炎は、若者の肺炎とはまるで異なり、強い抗生剤を用いてもまるで良くなりません。

「生きる力」がそこにあるか否かが、医療の成否を大きく分けます。

最強の治療を用いても、治る力がなければ、どうやっても治りません。

それが人も属する生き物の、厳しい定めです。

野戦病院のようなところで数多くの経験をして、それが言葉だけではなく、実感として理解できました。

恩師とともに患者さんを診て、「自ら治るのを支える」という「緩和ケアの考え方」の1つを学んだのでした。

これから解説するレジリエンスとは、私たちが生きてゆく時に持っている力の一つです。

 

レジリエンスを知っていますか?

レジリエンスという言葉があります。

いろいろな定義や説明がありますが、主として逆境の状況において、それを乗り越えるしなやかな心の力を呼称しています。

レジリエンスを構成するものとして、下記の要素が挙げられています。

◎感情のコントロール

◎自尊感情

◎自己効力感

◎楽観性

◎支持的な人がそばにいてくれること

「ユーモアのセンス」などを加えるものもあります。

これらは確かに、厳しい状況においても、それを乗り越える力となりうるものです。

一方で、これらを厳しい状況の中に維持するということもまた、容易ではないかもしれません。それはどうしてでしょうか?

 

病気や人生の困難に遭遇するとしばしば自分を責めてしまう

病気になると、あるいは人生の大きな困難に遭遇すると、人はしばしば自分を責め、自己効力感は下がり、自尊感情も傷つきます。

鬱屈した気持ちに、身体的なつらさまで加わると、良い人間関係のときとは打って変わって、近しい人の言葉に過剰に反応したりするなどして、人間関係もゆらぎがちです。

つまり重い病気や大きな逆境は、レジリエンスを構成する要素を、ゆらがせます

しかし例えば、がんを患っておられる方は、一般的に「とてもよく頑張っている」と医師の目から見ても感心するくらいなことはしばしばあります。

客観的にはそうです。

しかし主観的な自己認識と、それが合致しないことは珍しくありません。

だからこそ、緩和ケアの担い手の医療者は、意識的にあるいは無意識的にも、その方の持っているレジリエンスを引き出すべく、話を聴き、何が支えになるのかをともに考えます。

そして価値あるものは正しく評価できるように、示唆します。

「十分頑張っていること」

「自分を褒めることはとても重要であること」

「気持ちが行ったり来たりするのはむしろ当然であること」

それを伝えるのです。一方で、私たち一人一人も自らの力を正当に評価する、積極的に自らを褒めることがケアにつながるはずです。

 

揺れる橋は揺れない橋より強い

私もピアノを弾くのでなるほどと思いますが、プロレスラーが力いっぱい叩いた鍵盤よりも、プロピアニストは大きな音を奏でられるそうです。

しなやかな指の力は、何よりも強いのです。

また、橋は揺れます。

しかし揺れない橋はもろく、折れやすいのです。

むしろ揺れ、たわむ、そのほうが強いのです。

もちろん揺れ過ぎも良くないと言われていますから、適切な揺れに収束させることが重要です。

けれども、弾力性の高い材質は、揺れやすい一方で、その振動で衝撃の影響を軽くし強いとされているのです。

まるで何かと同じです。

私たちは、強いことや、心が揺れないことが良いと思いがちです。

軽くない病気になると、ますます自分が弱いと痛感して、自分の評価が低くなり、責めます。

気持ちが揺れると、自分が弱いからだと嘆きます。

しかし、それは病気がそう思わせているだけで、実際には強いのです。

揺れる橋は折れないし、しなやかな指は誰よりも大きな音を奏でることができます

緩和ケアにおける支援の1つとは、その方が本来持っている力を、レジリエンスを、もちろん容易ではないことですが、時間をかけて関わることで、患者さん自身が引き出されるお手伝いをすることです。

そしてまた私たちが自身の気持ちをマネジメントする際にも、このレジリエンスの考え方を知って、思考のくせを変えてゆくことは、大病や大きな逆境になった場合にもそれを越えてゆく力となることが十分考えられます。

また「感情のコントロール」に当たっては、特に怒りを制御することも大切となります。

具体的には、衝動・思考・行動をコントロールすることです。

詳しく興味がある方はぜひ下の本を覗いて頂ければと思います。

 

自分と人の「苦しい」とは何か、それを把握するのにも役立つ本が文庫化されました。

 

人生の苦難をどう乗り越えてゆくか、物事をどう捉えれば未来に後悔しないのか、それを記した本が3年経って重刷となりました。ロングセラーの一冊です。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。