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緩和ケアとホスピスの違いでこれを知らないとまずい最重要点を皆さんにお伝えします。

結論から言えば、どちらかは「かなり末期関連」ですが、もう一方はそうではありません。

この点はものすごく重要です。

ピンと来られない方はぜひ読み進めてください。

緩和ケアとホスピスの違い

緩和ケアとホスピスの違いは何ですか?

そう尋ねられることがあります。

皆さんはおわかりですか?

言葉の歴史が古いのはどちらかと言えば、圧倒的にホスピスです。

このページの画像は、フランスのボーヌにある通称「ボーヌのホスピス」と呼ばれている施療院で15世紀のものです。

ボーヌのホスピス

中世の頃から貧しい人や病を得た人にケアを施す場所としてホスピスの存在は記録されています。

 

20世紀でも途中までは緩和ケア=ホスピスだった

ホスピスはこのように昔から存在します。

終末期の方が穏やかに過ごせるようにというターミナルケアが、ホスピスでは行われていました。

症状を和らげる緩和ケアは近代のホスピスで発展しました。

症状を和らげるのは、何も終末期に限って行う必要もないわけであり、次第に緩和ケアは症状を和らげる一連のケアを総称するものとなり、がんの全病期に、そしてがんに限らず、と発展してゆくことになりました。

最近では少なくなりましたが、未だに緩和ケア=末期だと思っている医療者がいるのも、昔のイメージが強いからです。

そして専門家も少なかったですから、実際に、ホスピス・緩和ケア病棟という比較的終末期の方を中心に診療する場所でしか、「緩和ケアの専門家がいなかった」という事情もあります。

それなので、緩和ケアとホスピスが同義だった時代は確かにあったわけで、今も一部にそのイメージが残っています。

なお日本において、緩和ケア「病棟」というのは、事実上は、あるいは医学的にはホスピスと同義です。

ひと口に緩和ケアと言っても、緩和ケア自体なのか、緩和ケア「病棟」なのかによって意味が異なりますので、注意が必要です。

例えば、残念ながら、未だに大きな病院でも医療者が使うこともある

「緩和に行ってください」

という言葉。

これだと、緩和ケア病棟(高度進行期や終末期の患者さんが中心の施設)に行ってくれ、ということなのか、緩和ケア部門(早期からも介入する場合も多い。病院にもある)に行ってくれ、ということなのか、情報が不十分すぎて患者さんはわかりません。

ところがこのように「緩和」という言葉が、詳しく説明されないで伝えられることも多いですから、患者さんやご家族へのご助言としては、この場合の緩和ケアとは何なのかをしっかりと尋ねるということが大切になります。

 

緩和ケアの定義はどうなっているか

WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002年)があります。

”緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである”

とされています。

見て頂ければわかりますように、どこにも「末期」とは書かれていません

2002年の段階で、世界の定義としてはこのようになっていたわけです。

それどころか、「早期に発見し」とあり、早期からの介入を示唆することまで表現されています。

2002年段階の日本の緩和ケアが、実質的に緩和ケア病棟やホスピス、一部病院の先駆的緩和ケア部門に限られていたことを考えると、当時としては先を行った定義内容でした。

また、「生命を脅かす疾患」と括られているように、がんとは限定されていません

緩和ケアが今後最も必要になる疾患の1つとして慢性心不全が挙げられていますが、それも先取りするかのように、「がんに限らない」緩和ケアが表現されていたのでした。

緩和ケア病棟やホスピスの適応は、現在もがんと後天性免疫不全症候群(AIDS)ですが、AIDSが長期生存可能となった今は、実質的にがんのみです。

というわけで、緩和ケア病棟やホスピスが今もがんの患者さん中心である一方で、緩和ケア自体はがん以外の患者さんも対象にしているという違いがあります。

 

 

緩和ケアは広さを持った概念

以上のように、ホスピスと言えば、今の日本では特にがんの終末期に入院加療をしてくれる場所としての位置づけです。

一方で、緩和ケアというのは、ホスピス・緩和ケア「病棟」に限らず、病院でも在宅でも、場所を選ばず、いつでも、症状を和らげてQOLを向上させるアプローチのことを呼称します。

緩和ケアというものは、したがって、指し示す範囲が広いため、誤解のもとにもなりえます。

さらに、緩和ケアが終末期のものという捉え方や使われ方は、2018年現在もまだまだ散見されるものです。

しかしWHOの16年前の定義で、すでにそのような使われ方は一切されていないことに注目する必要があります。

今も、終末期の方をスピリチュアルケアも包摂して提供するホスピスの意義は大ですし、ホスピスから生まれた全人的苦痛緩和の概念は色褪せることはありません

ただ緩和ケアはホスピスという生まれ育った場所を超えて、今や「全病期」「数多くの疾患」にまで及ぶものとなったと考えることができるでしょう。

 

まとめ

緩和ケア病棟は、現在の日本では、緩和ケア病棟=ホスピスです。

しかし緩和ケア≠ホスピスです。

ホスピスは、主として高度進行期から終末期の患者さんが穏やかに過ごせる場所を提供する施設(緩和ケアも提供します)であり、緩和ケアは指し示す範囲が広がり、終末期の方に限らず、またがんの方に限らず、苦痛を和らげてQOLを向上させるアプローチを呼ぶことになりました。

それなので、現場では、緩和ケアという言葉が指し示すものが広がったため、この「緩和ケア」という言葉が何を示しているのかを明らかにしなければいけないという状況があります。

医療者によっては、様々な理解から緩和ケアという言葉を発するので、深く尋ねてみないとその意図がわかりづらいことがあります。

よく(その時に出た)「緩和ケア」という言葉の意味や意図を尋ねることがスタートになるでしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。