在宅緩和ケアの前に……医師の力量を見分けるのは困難
一般の皆さんは意外に思われるかもしれませんが、医師でも医師の力量を把握するのは容易なことではありません。
特に、まずは同施設にいないと、ほぼわかりません。
学会発表や論文・書籍執筆では優れていても、必ずしも実際に患者さんを診ることに対して総合的にバランスが取れた力量を保証するものではないからです。
したがって、「高名な」医師は、”名がとても知られている”ということなのであって、患者さんを診る能力は保証しえません。
名医本もどうやらいかがわしいものもあるようです。
逆に、私は名医本には出たことがない、「高名ではない」けれども非常に優秀な医師を、何人か存じ上げています。
なぜ名医とわかったかというと、一緒に働いたためです。
そして、自身の専門分野と重なる部分があると、初めて何らかのことを言うのが可能です。
専門分野が重ならないと、同施設に勤めても一切正確な判断はできず、風評からの類推となります。
例えば、私はプロとしての手術施行歴がありませんので、外科医の手術室内の力量に関しては、一切評価できません。
このように医師の臨床の力を判断するというのは極めて難しいもの、と思って頂ければと思います。
なお「伝聞」という方法もありますが、これは人間関係を元に調整して信じないと誤判断のもとになるのは医療界以外と同様で、その点では「百聞は一見にしかず」の言葉通りでしょう。
在宅緩和ケアは流行り……だが
改めて様々なホームページを見てみると、今は「緩和ケア」や「在宅緩和ケア」を表示した診療所が多いことを実感します。
もちろん地域差はかなり大きいです。
都市部は、ある程度細かい地域を絞っても、複数以上選択肢に上がってくるのがある種当たり前になって来ています。
ただ、すでに知られているように、看板等で示せる「科」が、必ずしも臨床的に専門の科目であるか、というとそれは異なります。
緩和ケア、というのはどうも(多少は)はやりのワードなので、それを入れ込んだほうが良いだろうという判断が働いたという事情もあるやもしれません。
とにかく多いです。
その一方で、必ずしも十分な研修歴がなくても、独学で相当なレベルにまで到達し、緩和ケアの準・専門医とでも言えるような医師は、時に在宅医療の現場でも出会います。
そのような真の力量ある医師もしばしば、声高に緩和ケアができることを主張しない(比較した主張ができないのが、国の法律の縛りであることもあります)ので、多くが緩和ケアを名乗っている中で埋もれてしまっていることもあります。
いつものことですが、これは上下の問題ではなく、どの先生は優れてどの先生は優れていないとかという話ではありません。私がそういう格付けをしたいということでもありませんし、上から目線で、能力の話をしているわけでは断じてありません。
医師はそれぞれ専門があります。
専門分野は人よりできて当たり前です。
逆に、いまだに医師側にも、患者・家族側にも存する、「万能であると良い」という願望が、しばしば精度に欠ける情報提供や、時に混乱を招く社会発信を招いてきたことは周知のとおりです。
医師も、勇気を持って知らないことは知らないと伝え、患者さんやご家族もそれをもって専門分野の力量まで疑わないことです。それが当たり前になると少し違うと思います。
今も大学に講座がないことも多い緩和ケア分野は、緩和ケアの専門家が少ないのが当然なのです。
ただ皆が「緩和ケア」と書けば、書くほうに力は働くでしょう。
結果、少々わかりづらい状況を招いてしまっていることは否めません。
結局は受けてみるしかない
ではどうすれば良いか?
医師ですら、一緒に働かなければ、正確にはわかりません。
したがって、在宅緩和ケアと表示してある診療所の力量を、外側から完全に把握することは緩和ケア医でも困難です。
データもある程度参考にはなりますが(例えば年間看取り件数など)、どうもそれだけではない気が。
そこで、最善策は、もちろんこれまで緩和ケア関連の経歴(ホスピス・緩和ケア病棟、緩和ケアチーム、在宅緩和ケアの診療所勤務など)があるかどうかを事前にある程度は確かめた上で、実際に在宅医の訪問診療を受けてみる、ということになるでしょう。
その結果、非常に満足できる、という場合は、問題ありません。
心配なことがある場合は、やはり①アセスメントと②対処、についてしっかり尋ねることです。
専門分野に関して質問がされた時に、わかるように①と②を話してくれるならば概ね良いと言えるのではないでしょうか。
なお専門分野外のことに関して、「専門外のことです」「わかりません」「あまり確証がないですが」などとの言葉で、真摯に対応してくれるような場合も、良いと言えるでしょう。
この点では「先生におまかせします」と言って何も質問しないでいると、判断できません。「百聞」も必要になり、「百聞も一見も重要です」。
内科的な疾患は、このブログでも何度か触れておりますように、アセスメントが要です。
アセスメントも対応策も、複数がすぐに浮かぶのが専門家であり、それをどう説明するかというところもまた腕の見せ所です。
そのような作業を通じて信頼関係が構築されるので、もちろん優れた臨床医は、一般の患者さんやご家族に対してその労を惜しむことはないでしょう。
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