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緩和ケア外来とカウンセリングの違い

緩和ケア外来とカウンセリングは何が違うのですか?

そのような質問を頂戴することがあります。

皆さんはどう思われますか?

 

カウンセリングと検索するも……

カウンセリングと試しにGoogleで検索してみましょう。

しかし不思議なことに、カウンセリングの定義を示したものがあまり出て来ず、ウィキペディアが最上段に出て来ます。

カウンセリングはカウンセリングで意味が通るからでしょうか。

総合すると、対話を通し、依頼者が自身の問題点や新たな視点を見つけることによって、本人自身が問題を解決することを援助する、ということが書かれています。

臨床心理士や精神科医などが行います。

「カウンセリング」と検索すると(2018年9月現在)、2番めに出てくるのが

カウンセリングを受けることの苦痛について」で臨床心理士の解説(※カウンセリングの効能を端的に記した文章で、一瞬タイトルから感じるカウンセリングに否定的なものではありません)なのですが、

カウンセリングは自身の中に存在する問題点を明確化させることである由が示されていると思います(あくまで私の理解です)。

思考や行動等に内在する問題を見出し、改善することで、心身の問題や社会との関わりを良い方向に変えるものと言えるかもしれません(同上)。

基本的には特に身体的な病気を抱えていなくても対象になることは緩和ケアとは異なるでしょう。

 

緩和ケアとは?

緩和ケアの定義は

「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチ」(世界保健機関)です。

痛みだけではなく、吐き気や息苦しさ、身体のだるさなどの痛み以外の身体の苦痛や、不安、うつ、気持ちの問題など精神的苦痛経済的問題や仕事、人間関係などの社会的問題等、総合的な苦しみやつらさに対処します。

また「予防」も大切なので、早期から対処して問題が大きくならないようにするのも緩和ケアです。

基本的には”生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して”とあるように、身体的疾病を持つ患者さんとそのご家族が対象で、これはカウンセリングと異なります。

代表的な病気は、がんですが、AIDS、慢性心不全、慢性肺疾患(肺気腫、肺線維症等)、神経難病(筋萎縮性側索硬化症<ALS>、パーキンソン病)、加齢性疾患(認知症・老衰)なども対象疾患と目されています。

 

がんの場合のカウンセリングと緩和ケアの相違

内在する問題を明らかにし、それに対処することによって、良い変化をもたらそうとすることは、共通しています。

カウンセリングはもっぱらカウンセリングを通して、それを目指します。

一方で、緩和ケアの目標は他にも様々にあります。

◎苦痛や不安の緩和を通して、生活の質の改善を図る

ということはまず挙げられます。しかし、まだエビデンスとしては必ずしも強固ではありませんが、早期からの緩和ケアが目指しているものは、

◎問題少なくがん治療を受けるための心身の支援(例;抗がん剤が楽に受けられる等)

◎最新の情報に基づいた、再発・転移を抑えるための様々な情報提供及び支援

そして究極的には

◎生存期間の延長や根治

という結果です。

それなので、カウンセリングが持つ「生きやすくする」という働きに追加して、「より長く」という要素を希求していることが、主として心理的なアプローチであるカウンセリングと異なると言えるでしょう。

もちろんこれは優劣ではなく、カウンセリングが上位、緩和ケアが上位ということではなく、思考等の問題や精神的諸問題の解決を目指しているカウンセリングと、心身ともに及び生活習慣に十分な支援を提供することで、「再発・転移を抑えること」「長期生存や根治」を目指している早期からの緩和ケアの外来では、求めている目標や目指す効能効果が違うのです。

 

手段も違う

手段も異なります。

対話を通して問題解決を目指す点は共通しています。

基本的に緩和ケア医は、精神分野の専門家というよりも、身体的・内科的な専門家です。

それなので、「身体的苦痛症状の原因特定」「薬剤を用いての心身諸症状の改善」を図ったり、「抗がん剤の副作用に関しての軽減(※担当医も対応してくれるとは思いますが、それに付加的に)」も行ったりすることができます。

またアドバンス・ケア・プランニング(今後の治療や療養について、患者さんやご家族と医療者があらかじめ話し合う自発的なプロセスのこと)、療養場所選定の支援(時に最後をどこでどう過ごすかなども)等、行っていることは多岐にわたります。

このような多様な手段を用いて、問題解決を支援します。

精神症状の原因が、身体から生じていることもあります。

有名なのは、甲状腺機能低下症や、高カルシウム血症などの電解質異常などです。

単に心理的な問題ではなく、それらの身体疾患由来の精神症状ではないか、それを検討することも専門家の役目です。

カウンセリングの技法を用いることがありますが、それに付加して、画像も含めた諸検査を読み込み、病状をわかるようにお伝えし、生活上の助言を提供し、必要ならば薬剤を処方します

なお、自覚的症状がなくても緩和ケアは定期的にかかることが勧められます

臨床研究という設定下ではありますが、海外で、緩和ケアを不定期(かかりたいと思った時)ではなく、定期的にかかることにメリットがあると示唆されたからです。

転ばぬ先の杖、という要素を持っているのでしょう。

 

まとめ

以上のように、臨床心理士や精神科医等が行うカウンセリングと、緩和ケア医が行う緩和ケアは、基本的には別のものです。

カウンセリングが、内的世界の変化をもたらすことで、外の世界との折り合いがより良く付けられる支援ならば、緩和ケアはすでにかかっている身体の病気による負の影響を最小限とし、特に早期からの緩和ケアにおいては、例えばがん治療が円滑に受けられることを支援することによって、できるならば根治や余命の延長、再発の抑制まで狙っていることがご理解頂けたと思います。

このように二者は、手段だけではなく、目的も異なります。

また、緩和ケアにとっても話を聴くという要素は非常に重要です。

ただカウンセリングの技法を用いて積極的に内的世界の変化を促してゆくというよりは、まずは支持的に受け止めてゆく傾聴が多いことも、異なると言えましょう。

カウンセリングにはカウンセリングの良さや素晴らしさがありますし、緩和ケアにも緩和ケアの良さがあります。

ただ身体疾患、特にがんにおいて、早期からの緩和ケアを選ぶという意味は、その目的の差もあるでしょう。

緩和ケアにおいては、元々かかっている身体疾患の改善も企図しているためで、それはカウンセリングにはない要素と考えます。

状況に応じて、選ばれると良いと思います。

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。