Pocket
LINEで送る

前立腺癌の緩和ケア

2017年のがん統計予測

によると、前立腺がんは罹患数が全体の第5位に入っています。

男性しかならないがんにもかかわらず罹患数が5位なのです。

数としてはいかに大きいかわかります。

なお女性しかならないがんである子宮がんは体がん16400人、頚がん11300人で、その数と比較すると多いですね。

全がんの4位である乳がんは罹患数が89100人で、前立腺がんの86100人はそれに近接します。

なお乳がんは、男性でも少数ながらなる確率があります。

前立腺がんの死亡数は全体の第8位で、男性の6位になっています。

前立腺がんは高齢化や食生活の欧米化などが関係しているとされ、増加傾向です。

疫学~前立腺がんは増えている?~

アメリカにおいてはなんと罹患数は1位、死亡数は2位となっています。

しかも日本でもいずれ罹患数が1位となるだろうとのこと。

前立腺がんは甲状腺がん等と同様に、進行しないがん、命と関係しないがんがあることが知られており、低リスク群には監視療法も行われています。

総じて、進行は緩徐なケースが多いようですが、個人差があります。

前立腺がんは、好発する転移場所が問題となり、緩和ケアの視点からもそれを注視する必要があります。

また患者さんにはご高齢の男性が多いため、がんだけではなく様々な病気や、身体的衰弱、認知症など、他の健康上の問題やご病気を併せ持っておられることも多く前立腺がんがその他の病気を悪化させることもあります。

前立腺がんの緩和ケアについて解説します。

 

前立腺がんの体の苦痛症状と緩和ケア

前立腺がんと痛み

前立腺がんといえば……、というくらいポピュラーな転移先があります。

それはです。

前立腺がんは、全身のあらゆる部位の骨に転移を起こす可能性があります。

問題になるのは脊椎、一般にいう背骨です。

このような脊椎骨は、転移が好発します。

骨転移の痛みの形式としては、体性痛というものに分類されます。

体性痛は場所がはっきりした痛みですし、鋭さがあります。

また骨への転移は、その骨に力が加わることで痛みが悪くなりますので、体動時痛(たいどうじつう)という動いたときの痛みが1つの特徴です。

体性痛にも医療用麻薬がある程度効きます

ただ骨転移痛は炎症も強いですから、胃・十二指腸潰瘍や腎機能障害がなければ、ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)のような非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用することが、緩和治療の1つのポイントになります。

他にも、破骨細胞という骨を吸収する細胞の働きを抑える薬剤(商品名ゾメタやランマーク)等を用いたりすることもあります。

最新情報 前立腺がんの診断と治療によると、

ゾメタやランマークの治療により、『痛み、骨折、放射線療法、手術』などの発生を、行わない患者さんに比べて16ヶ月遅らせることができるといわれているとのこと。

背骨への転移は、重大な結果を招くことがあります。

これは「即対処」が必要なので、皆さんもぜひ知っておいてください。

脅かしではなく(真剣です)、本当に「即即対処」すべきです。

背骨(脊椎)の後ろには何があると思いますか?

そう「脊髄」です。

脊髄の障害で車椅子になった……という障碍者の方の話を皆さんも聞いたことがあるかもしれません。

脊髄は運動神経や知覚神経が集まる、人の神経の中枢です。

ここが障害されると、運動麻痺などを起こし、また現在の医学では神経再生を臨床レベルで行えておりませんから、一度不可逆的な神経障害を起こしてしまうと、もう元には戻りません

脊椎の転移により骨が変形あるいは骨折などすると、後方の脊髄を圧迫し、運動障害を起こします。

初発症状としては、両足のしびれ(好発部位の腰椎の場合)であることが多いです。

時期を逸すると、完全麻痺になってしまいます。

前立腺がんで(あるいは他のがんでも)脊椎転移を指摘されている方は、両足のしびれや動きが悪いなどの症状が出たら、すぐにかかりつけの病院に連絡をしてください。

緊急の放射線治療や手術で神経障害の進展や障害の固定を食い止める必要があります。

前立腺がんと痛み以外

前立腺がんは、骨以外の重要臓器への転移が必ずしも多くないがん種です。

それが比較的長期に生存する例が多いことと関係しているかもしれません。

ただ高齢の男性が患者さんには多いですから、経過中他の病気を発症したり、元々の病気が悪化したりするなどして、総合的に衰弱してくることがしばしばあります。

肺塞栓症(動かないと下肢静脈血栓症も起こしやすくなります。そこから血栓が肺に飛ぶ)、脳梗塞、誤嚥性肺炎を繰り返す例もあります。実際、私が拝見した前立腺がんの患者さんはこれらを発症された方がいます。

前立腺がんの骨転移は、痛いので、あるいは神経障害から、動きを低下させます。

それが筋力を落とし、これまでできたことができなくなったりなど、一つの病気が全体のバランスを崩すことで、多様な問題を引き起こします。

若い人には起こりにくい問題が、ご高齢の方だから起こる、というのは医学の世界では非常によくあることです。

ご高齢の方固有の問題を前立腺がんの患者さんは有している場合がありますから、老年医学的な配慮も欠かせません

 

前立腺がんと心理的な問題、治療に関する問題

前立腺がんは長期生存が必ずしも珍しくない腫瘍ですし、また治療も内分泌療法ならば抗がん剤治療である化学療法よりも負担は少ないです。

ただ内分泌治療も抗がん剤治療もそれぞれ副作用がありますので、もちろん症状には配慮してゆく必要があります。

患者さんはご高齢の男性が多いことは何度も述べてまいりましたが、個人差はあるものの、あまりご自身の思いや症状を積極的に話さない方も少なくないため、コミュニケーションに工夫するなどして対応することが大切になっています。

手術は、話題のダヴィンチ®手術で、以前より合併症は減っているそうですね。

前立腺がんのロボット手術と合併症-尿漏れや性機能障害などの後遺症を減らすために

 

まとめ

前立腺がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。

転移の問題は圧倒的に骨なので、痛みなどにはしっかりと対処し、脊髄障害が出たら即対応するように十分知ってもらうことが大切です。

前立腺がんの患者さんはご高齢の男性が多いため、元々健康上のリスクや病気を抱えていらっしゃる場合や、骨の痛みで動かないことが微妙な全身のバランスを崩し、さらなる衰弱をもたらす疾患を呼び込む可能性もあります。

その点で、症状緩和に関しても、緩和ケアの視点ばかりではなく、老年期の医学の観点からも治療・ケアを行うことが大切です。

患者さんだけだと医師からの病状説明も心細い場合もあるかもしれません。

ご家族の方もサポートして、十分医師から話を聞いて、最良の決断をしていただくのが良いでしょう。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

 

 

Pocket
LINEで送る

Share this Post
アバター

About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。