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乳がんと緩和ケア

まず一人として同じ経過のがんの患者さんはいらっしゃらないため、経過が早い、遅いというのはあくまで傾向や一般論であり、わが身に置き換えて「そんな悲観的ながんなのだ……」などのようにご不安にならないのが大切なことをお伝えしておきます。

それを前提に。

乳がんのケースは、一般的に言えば、膵臓がんや肺がんなどに比較して経過が長くなることはしばしばあるものです。

緩和ケアの外来でも長期に拝見している患者さんは、乳がんや大腸がんなどの、抗がん剤等の治療が比較的よく奏効し、長い経過を辿っておられる方が多いです。

患者さんは仕事等の社会生活を営み、また親としての役割を担う等、治療をしながら様々な役割を果たしておられる……というのが一般的です。

治療やケアの主眼も、いかにQOL(生活の質)を落とさずに、今の生活を維持して頂くか、というところにあります。社会や家庭における大切な役割を削ぐことなく、病気の制御と生命予後の改善、症状進行の抑制を図るわけです。

がんに対する治療がよく効いていれば、がんの進行に伴う症状は抑えられます。

一方で、ある治療が効かなくなって来た時に、症状がそれを指し示す場合もあります。

例えば、次第に痛みが増えて来る、あるいは息苦しさが出て来る……等々。

治療側としては(もちろん患者さんも)できるだけ進行が抑えられ、症状が出ないことを望みますが、治療期間も長くなってくると、時に症状が増悪することをみる(あるいは経験する)のは稀とは言えません。

症状が出た際に、遅滞なく症状緩和の対応を行うことが大切ですし、また腫瘍マーカーが急増するなどの変化があれば治療医は治療の変更も検討するでしょう。

 

乳がんを患う方が痛みを訴えたケース

40代のAさんは、紹介されて緩和ケア外来を受診する際、特に腰背部や骨盤部、両大腿などを中心とした体動時痛が強くなって来ていました。

腫瘍マーカーも上昇しており、ホルモン療法も別の薬剤へと切り替わっていました。

画像を拝見すると、骨転移像が多発して認められ、痛みの性状からも骨転移痛と判断されました。

オキシコドンを処方するも、痛みは強く、また当初なかった下肢のしびれも出て来ました。

これは……ということで、すぐに腰椎MRIを撮影してみると、脊柱管内に腫瘍進展が認められました。

これは放置すると下肢麻痺になりうる緊急の病態です。

すぐに放射線治療が開始となり、また頭部MRIで上部頸椎の転移も併せて発見され、そちらにも放射線治療を行うことができました。

上部頸椎は骨折によって死に至る可能性がある場所です。ここに関しては症状がありませんでしたので、頭部MRI(難治性の吐き気があったので撮影しました)で発見できたのは幸いだったと思います。

以後患者さんは痛みも緩和され、麻痺になることもなく、それなりに元気に生活されています。治療もこの間にホルモン療法から化学療法に変わりましたが、化学療法では進行が制御できているようです。

 

乳がんで早期緩和ケアが対象となる諸症状

別の機会に触れることもあるかもしれませんが、乳がんの患者さんで外来緩和ケアで対応したケースはこれまで多数あり、

皮膚浸潤の痛み
がん性リンパ管症→呼吸困難 (残念ながら難治。高度進行期に多い)
がん性髄膜炎→精神症状   (これも残念ながら難治。高度進行期に多い)
吐き気
不安
抑うつ(うつ病も相当数)
リンパ浮腫
など、苦痛の範囲も多岐にわたります。

大学病院での8年間の緩和ケア専門外来でも、患者対応数がもっとも多いがんの1つであると思います。

経過が一般に長いことも多いので、その間に気持ちが切れてしまった……治らないのに治療して生きることに意味があるのか……というような愁訴でおかかりになった方もいらっしゃいます。

うつ状態からそうなっているケースもあれば、そうではなくて、長い経過に疲弊して、というケースもあります。

確かにそのような“生きがい”にも関係して来る問題は容易ではありませんが、できるだけお話をうかがうことで対応して参りました。思いつくままに話されることで、その方自身が何らかの発見を得られたり、ということはあり、話を聞くことも大切な治療・ケアです。

患っておられる方へのご助言としては、他の種類の腫瘍の場合と同様に、とにかく相談できる医療者および非医療者を複数確保することだと考えます。

何でも言える環境の確保が大切ですし、それは黙していてはなかなか叶わないので、積極的に動くことも重要だと思います。

少しでも参考になれば幸いです。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。