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高齢者の緩和ケア(一般の方向けの記事です)

若年者への緩和ケアに関しての注意点を先日述べました。

ご高齢の方への緩和ケアにも配慮すべき点が様々にあります。

老いというものは個人差が極めてあるものなので、一概には語れないことは最初に明記しておきます。

私は以前大学病院に勤務していましたが、御高齢の患者さんもかなり多かったです。

時折100歳以上の患者さんもいらっしゃいました。90代も少なからず。

80代以下はたくさんいらっしゃいます。

ここからはエビデンス、というよりも経験(しかも私の)なのですが、80代以上は薬剤の使用には特に注意が必要です。

私の専門としている鎮痛薬、特に医療用麻薬に関してももちろんそれが当てはまります。

例えば、注射薬の医療用麻薬も、一般の患者さん(がんで痛みがある方)には内服モルヒネ換算24mg/日程度で始めることが多いですが、80歳を超えるような患者さんはそれでもせん妄になったり、傾眠傾向が強くなったりするなど、80歳未満の方々よりも副作用が出やすい印象があります。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で、腎機能障害が出現・増悪したり、消化性潰瘍を(対策していても)起こしたりなど、医療用麻薬に限らず、諸薬の副作用にも特に注意を払う必要があります。

全般的に、相対的に若い世代よりも薬の調整には繊細さが要求され、安全範囲はより狭く、時にはタイトロープ的なバランス感覚が必要とされます。

この薬をこの症状に、とレシピのように出すこと自体はそれほど難しくありません。

ただこの年齢の、この状態の患者さんに、「できるだけ安全性を並立させて」と考えると、薬の調整は必ずしも容易ではなくなります。あるいは副作用を出しにくい、問題を起こしにくい処方は……と考えると、より難易度は高くなります。

 

90代男性の緩和ケアの一例

例えば、90代男性、前立腺がん、骨転移痛。

背中の強い痛みを訴えます。

医療用麻薬を増やして来ましたが、途中で傾眠が増えて来ました。

気持ちとしては骨転移痛に医療用麻薬との併用で良好な効果が期待できるNSAIDsを使いたい。

しかし中等度の腎機能障害がある(一般にNSAIDsは使用しづらい状況です)。

アセトアミノフェンを足したいが、肝機能も少し悪い。

……というように使える薬剤や手段が限られている等という場合も頻々とあり、そういう際には専門家ならではの繊細な薬剤の調整と、多い(症状緩和手段の)引き出しが要求されます。

よし、放射線治療で骨転移痛緩和を目指そう!

となっても、痛みで治療台で姿勢保持できない

そうやって痛みで動けない時期が続くと、どんどん日常生活動作が障害され……

と時間とともに問題が増悪することもあり、繊細さと同時のスピーディーさも求められるのです。

なおこのような場合は、一時的に医療用麻薬を注射薬に切り替えて、ジャストの量となるように繊細に調節し、また放射線治療の前に医療用麻薬の追加投与(早送り。レスキュー)を行って、痛みのピークと薬剤濃度を合わせるなど、様々な配慮を行います。

 

まとめ

繰り返しですが、年齢で一律にわけることはできません。

しかしどんなに元気そうに見えても、症状緩和担当からすると、70代中盤以降の患者さんは投薬などの治療により配慮が必要だと感じておりますし、80代以上ならばなおそうです。

びっくりするほど活気がある患者さんでも、若年者と同じ量で鎮痛薬を使用すると、変化量が大きく驚くこともあります。一方で、必要な量まで使用しないと医療用麻薬は効きませんから、「ご高齢だから」と過剰に心配しすぎて十分な量まで増量できないと、苦痛も緩和されません。

通常よりも何倍も考えなくてはいけないことを、頭の中をフル回転させて、ことに当たっているのが緩和ケア担当者です。

ご高齢の方は、医療の現場の観点からは、我慢強い方も多く、苦痛を黙して語らない傾向にあります。

難聴があってあまり聞こえていないのに、医療者が話すことに合わせている場合もあります。

それらは巧い薬物調整にとって障害となり得ます。しっかりつらいことや、感じていることを訴えてもらうのが重要です。

このブログをご覧の皆さんは、お子さんやお孫さんの立場であることも多いでしょうから、ぜひつらさに関して尋ねて、すくい上げていただくと良いと存じます。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。