がんの患者さんに不安は多いのか?
がんの患者さんにおいて不安を自覚されるのは珍しくないです。
もっとも、私が言及しなくても、十分に想像できることだと思います。
報告によって、不安の頻度には差異があります。
不安障害と診断されるケースは9.8%とある文献では示されていますが、障害とは言わないまでも、不安を自覚することはしばしばあるのではないでしょうか。
ただし、上記の文献では、うつは24.6%ともされており、不安障害より多くなっています。
精神科等以外の一般臨床家には、しばしばうつ病の診断が難しい場合もあり、実際には混同されて加療されているケースもあります。
ありふれた事象ですので、医療者だけではなく、患者さんやご家族も留意して頂くことが良さそうです。
どんな不安があるのか?
明確な対象があるものから、漠然としたものまで様々です。
明確な対象があるものは、身体の状態に付随して、「病気が再発していないか」「がんが転移していないか」「腫瘍が進行しているのではないか」等と不安になるものです。
不安が身体の症状を作り出したり、強くさせたりすることもありますので、まずは症状と実際の病気が関連しているのかを、身体的に把握することも重要で、その点で身体的な症状にも詳しい緩和ケアの専門家が関わることが良いと考えられます。
強い不安が症状を形成することもあるので、画像等で病気の存在が否定されれば、それをお伝えし、問題ないことを保証することが患者さんの安心につながります。
終末期になり、死を意識されるようになると、死の不安も出現します。
根本的な解決はしばしば難しいですが、お話しをよく聴き、対処できる方法はあるか相談する中で、一定の緩和が図れる場合もあると感じています。
漠然とした不安、パニック発作、広場恐怖症
一方で、明確な対象が存在しない不安も存在します。
またパニック発作は一般群の2.15倍、広場恐怖症は3.3倍という報告もあります。
広場恐怖症とは、何でもないような状況に対し、過剰な恐怖や不安を持つ障害です。
以下5つの状況のうち2つ(またはそれ以上)に対し、ほぼ常に著しい恐怖または不安があり、それが典型的には6ヵ月以上持続します。
- 公共交通機関の利用(例:自動車、バス、列車、船、航空機)
- 広い場所にいること(例:駐車場、市場、橋)
- 囲まれた場所にいること(例:店、劇場、映画館)
- 列に並ぶまたは群衆の中にいること
- 家の外に一人でいること
患者さんには、あまり外に出たくない、人と会いたくないと仰る患者さんもおり、よく尋ねてみると、上記の病態が隠れていることもあります(もちろん他に明確な理由があって、外出したくない患者さんもいますので、原因を特定することが重要なのは言うまでもありません)。
勧めてみても、患者会になかなか参加できないという患者さんの中にも、大勢の前に出るのがあまり得意ではないというようなケースだけではなく、うつ病による気力の枯渇や、広場恐怖のような不安があるケースもあり、これも総合的な病態把握が重要になります。
どんな方に不安のリスクが高いのか?
大きなリスクの1つは、不安障害に罹患したことがある場合で、罹患したことがない方と比べて16倍高いという見解があります。
他にも不眠症の存在や、うつ病の併発、高カルシウム血症や低酸素血症、脳転移などの身体疾病(状況)もリスクと関連するという指摘もあります。
不安のケア
重要なことは、しっかり話を聴き、その原因を特定することです。
そして対処法を患者さんやご家族とともに考えることです。
ベンゾジアセピン系の抗不安薬は、日本では比較的よく使われてきましたが、依存性の問題もあり、早期からの緩和ケアにおいては使用するケースは限られます。
逆にうつ病に対しては、抗うつ薬で加療するのが適当で、ベンゾジアセピン系の抗不安薬の出番はある程度限られています(もちろん予測性嘔吐や不安を伴う呼吸困難など、身体要因でも使用するシチュエーションはありますので、必要時はしっかりと用いることが好適です)。
短い診療時間の外来だと往々にして薬だけとなってしまうため、そうならないように、十分話を聴き、解決策をともに考えることが重要となりますが、それを用意できる医療環境は限られている点がなかなか難しいところです。
しかし上記の丁寧な作業により、不安が改善したと緩和ケア外来では仰って頂けることも多く、それらを行ってゆくことが重要だと言えましょう。
患者さんやご家族へのご助言としては、不安も重要な受診対象となるので、遠慮せずにそれを打ち明けて頂くと良いということになります。
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