国全体で拡充中の緩和ケア がん対策推進基本計画
第三次がん対策推進基本計画により、診断された時からの緩和ケアが謳われています。
ただ緩和ケアに本当に専従する医師、つまりそれが仕事のほとんどである医師が、存在するケースばかりではないことはしばしば見聞きします。
実際には、看護師が緩和ケアチームの中心であるケースも少なくないようです。
医師と看護師は専門が異なります。
細やかなケアの側面において、看護師が果たす役割は極めて大です。
一方で、がんの患者さんには様々な苦痛が出現し得ます。
その医学的な背景をアセスメントし、薬物治療などの治療を計画・実行することは、緩和ケア専従医の重要な働きです。
苦痛緩和のためには、全身状態の把握が求められます。
全身状態によっては、使用できる薬剤やそうでない薬剤があったり、副作用が出やすい薬剤があったりそうではない薬剤があったりなど、様々なことを勘案して、効果と副作用のバランスがよくなるように治療は計画され実行されます。
このような身体の状態を把握して、適切な治療を選択することに関しては、緩和ケアの医師が専門となります。
緩和ケアチームではこのように様々な専門家がそれぞれの分野から、適切な緩和ケアを提供するところに特徴があります。
そのため、看護師だけでも緩和ケアチームは成り立ちませんし、医師だけでも緩和ケアチームは成り立ちません。
ただ、実際には上述したように、医師の関与が少ないケースもあるようなので、そのような場合は本来のポテンシャルが発揮できていない場合もあるかもしれません。
緩和ケアチームがあるのに緩和されない……
私が聞いたあるケースです。
患者さんは50代の女性で乳がんを患っていらっしゃいました。
痛みが強くなり、担当医の鎮痛薬の調整ではあまり大きな緩和は得られませんでした。
「何とか緩和ケアを受けたい」
この場合は、痛みを和らげてほしい、という意図ですね、それで緩和ケアにかかることを患者さんは希望されました。
「緩和ケアですね」
担当医から緩和ケアチームに紹介されました。
それで緩和ケアの認定看護師と1時間程度話をする機会を得られました。
ところが、話を聞いてもらうことが主で、痛みの治療は一向に変わりありません。
その病院では、緩和ケアの外来もなかったようです。
結局、同じ薬剤が続き、患者さんの苦痛は続きました。
このケースでは何が問題だったのでしょうか?
早期からの緩和ケアが謳われる一方で真の緩和ケア専従医は不足している
緩和ケアが必要なのは多くの方が知っていることだと思います。
けれども、緩和ケアに専従の医師を、つまり専らそれのみを行う医師を配置することが難しい病院も存在します。
そのような場合も、基本的にはまず看護師が話を聴き、オンデマンド方式で連絡を受けた緩和ケア担当医師が対策を考え、あるいは週1回のカンファレンスで話し合って、治療法を立案したりなどするようですから、もちろん医師も関与はしています。
しかし、終末期が迫ったり、患者さんの状態が悪化したりすると、日毎に全身状態や苦痛の状況も変化するものです。
毎日回診し、毎日緩和治療調整をしなければ、苦痛緩和が追いつかない、というようなケースもあります。
その時に、医療の専門家たる医師の関与が少ないと、臨機応変な医療対応が難しいという側面があるでしょう。
もちろん病院ごとのマンパワーの問題がありますし、大きな病院にすべて専従の緩和ケア医を配置するのは難しいでしょう。
ただ受け手側(患者さんやご家族)として知っておいても良いこととして、(※入院している場合は)医師の何らかの関与が毎日ある(できれば毎日回診、あるいは最低、毎日診療録は見ている)緩和ケアチームのほうが、そうではない場合よりも、良い緩和ケアを受けられる可能性はあると思われます。
緩和ケアチームにも質・量の違いはあります。
苦痛が十分に取れていない場合は、改めてその病院の緩和ケアにもっとも通じている医師の関与を言葉に出して希望するか、それでも難しい場合は、外部のサービスを利用することも検討するのが良いでしょう。
国はこのような仕組みを作りなさいと要件を挙げて要請しますが、現場はなかなか追いつかず(そもそも緩和ケアを専門とする医師も非常に不足しています)、形式だけ緩和ケア、というケースがまだあるのが実態です。
症状を和らげる点において、医療の側面も非常に重要であり、緩和ケアチームにどれくらい医師が関わっているかを尋ねることも、その水準の一定の判断材料になると存じます。