数年前、あるブログを見つけました。
当時私は、読売新聞の医療サイトヨミドクターでコラムを連載しており、
それを読んでくださったKさんのものでした。
Kさんのブログより引用します(一部改変)。
(以下引用)
緩和ケア医は患者の数を考えると遥かに少ないのが現実です。
でも自分のように早期から緩和ケアを活用したいと思っている人も多いと思います。
でも緩和ケア医が少ない! その医師は何処に・・・・終末期の患者さんで手がいっぱい!
緩和ケアが早期から受けられるのは、緩和ケア医が増えないことには無理なんでしょうね。
自分はよくこのブログで緩和ケアを取り上げます。
理由はガン患者ならではの苦しみがあるからです。
自分のように抗がん剤後の副作用に悩んだり
死に対する恐怖感があったり・・・・・
10人の患者さんがいれば100の心配があると思います。
それを解決できているのは…悲しい事ですけどネットの情報ではないかと思います。
ネットには溢れる程の情報があります。
正しいもの、間違っているもの、詐欺まがいのものまで
でもどれが正しいかは見ている方が判断するしかありません。
相談出来る方が居るのならいいのですが、いない場合は間違った情報で進んでしまう事も。
これらの事を数が少ない緩和ケア医がこなすのは無理でしょう。
そこで出てくるのは緩和ケアチーム(これがまたよく分からない)なのでしょうが
緩和ケアチームがある病院が少ない! あっても機能していないなど。
でもこれが現実で受け入れるしかないんでしょうね。
(以上引用)
Kさんはまだ若く、2人のお子さんを育てていらっしゃいました。
一方で、がんはstageⅣで治療中、様々な情報をご自身で調べておられました。
それを通じて、Kさんが必要だと感じたものに「早期からの緩和ケア」がありました。
ブログで書いておられるように、“抗がん剤後の副作用に悩んだり、死に対する恐怖感があったり”したKさんは、治療と並行して、そのような緩和ケアを受けたかったのです。
しかし、現実は。
頂いたメールにはこうありました。
(以下引用)
緩和ケアに関しては、ブログで何度か書かせて頂いています。
大津先生からすると耳の痛い話題かもしれませんね。
自身も緩和ケアにかかれないかと、現在通院中の病院(がん拠点病院に指定されています)でも何度か話はしてみましたが…やはり終末期がメインで行われているみたいです。
住んでいるA市には、もう一つ緩和ケアを行っている病院がありますが、問い合わせをしたところハッキリと終末期のみとは言いませんが断られました。
自宅の近くには、他にも緩和ケアを行っている病院はあるのですが(他の地域より多いと思います)2件断られた時点で諦めモードです。
現在の抗がん剤も来年には使えなくなりそうです。
そうなると終末期での緩和ケアを視野に入れて考えなくてはならないのではと思っています。
現状では治療初期からの緩和ケアは病院によってはハードルが高いのかもしれません。
自分の世代では初期からの(抗がん剤治療中でも)緩和ケアは難しそうですが、大津先生のような方が、情報を発信していただき緩和ケアに関する意識を変えて頂けたらと思います。
そして自分の子供の世代には、がん=抗がん剤=緩和ケアで、がんは怖くない病気になっていることを願います。
今後もブログで緩和ケアに関する話題は取り上げようと思っています。
また何かの機会でブログに目を通して頂ける時があり、間違い等があればメッセージ等で指摘を頂ければと思います。
(以上引用)
Kさんは、ご自身の病気がどのような性質のもので、何が予測されるのか、それをよくご存知でした。
私がとりわけ心を打たれたのは、この言葉でした。
“自分の世代では初期からの(抗がん剤治療中でも)緩和ケアは難しそうですが、
自分の子供の世代には、がん=抗がん剤=緩和ケアで、がんは怖くない病気になっていることを願います“
Kさんは、自分は無理でも、お子さんたちの世代の時には、この問題が解決しているように、そう綴られていたのです。
どのような思いでこの言葉を記されたのか、それを思うと沈黙しかありませんでした。
一方で、「この今」Kさんのような方が緩和ケアを受けられなくてどうする! そうも思いました。
私はKさんの受けたい緩和ケアを提供してくれると考えられる施設の情報をお伝えしました。
またKさんのお悩みには、精神腫瘍学の臨床家が対応できるのではないかと考え、それもお伝えしました。
後日、お礼のメールを頂戴しました。
(以下引用)
先生からの今回のメールは凄く参考になり感謝しています。
メールの引用ですが大丈夫です。どこでも使ってください。
自分が、がんの告知を受けてから残された時間で何が出来るか考えていました。その思いが(自分勝手な思いですが)誰かに伝わり何かのキッカケや励みになればと思っています。
長くなり、おまけに個人的な事ばかりですみません。
今回は先生とこうしてメールのやり取りが出来たことを凄く嬉しく思います。
緩和ケアに対して、痛みや精神的な事を診るのは緩和ケアと思っているところがあったのですが少し違いますね。
実際にはしばしば緩和ケア医は痛みのコントロールが主であり、精神的なことやそれ以外の問題は緩和ケアチームや今回教えて頂いた精神腫瘍科などが対応しているんですね。
最後に返信が遅くなり申し訳ございませんでした。息子が妖怪に取り憑かれていたので(笑)
(以上引用)
Kさんは緩和ケアとつながることができました。
かかれるようになって良かったと感想を頂き、私は安堵しました。
そして。
のちに彼から頂いた次のメールが最後のものとなりました。
(以下引用)
こんにちは。
返信しようと思いながらも、今回は調子が(抗がん剤の副作用?)あまり良くなく遅くなってしまいました。
大津先生、今回はありがとうございました。
どうしてもそれが言いたくって遅いですが返信しました。
大津先生とは数回のメールのやり取りですが、先生の優しさを感じることができました。
自分も病院に近ければ必ず先生に診てもらいますね。そして最後は先生に人生を〆てもらいます(笑)
(それが残念で…)
でもこうして何度かやり取りをできたことは、良かったですし参考にもなりました。
これからは”がん”患者は確実に増えていくと思います。そして早期からの緩和ケアが、がん治療に関して重要な部分になると。
がん患者は抗がん剤の副作用には耐えます! 辛くとも選択肢がない以上耐えて頑張ります。
だから積極的治療をしていても気軽に緩和ケアを受けられる体制が出来ればと思います。
なので、大津先生にはこれからも緩和ケアの必要性やがん患者の思いなどを発信し続けてください。
もう今年もあと数日となりましたね。
日頃は忙しい日々を過ごしていると思いますのでお正月は少しでもゆっくり過ごしてください。
今回は本当にありがとうございました。そして何時か何処かでお会いできるといいですね。
(以上引用)
Kさんはユーモアを失わない方でした。
私の本に『人生の〆方』というものがあるため、“最後は先生に人生を〆てもらいます”と仰られたり、私こそが彼のユーモアで笑顔にさせられました。
「積極的治療をしていても気軽に緩和ケアを受けられる体制が出来れば」
Kさんの残した言葉。
自分の子供達の世代の時は、もっともっと緩和ケアが当たり前になるように。
Kさん、そしてこれまで拝見してきた多くの患者さんたち、その思いに応えたい。
2018年8月、その一石となるべく、早期からの、治療中からの、診断された時からの緩和ケアを可能とする、早期緩和ケア相談所を開設することにしました。
もちろん早期に限らず、全ての病期でご相談に対応することが可能です。
皆さまのご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。