オプジーボを巡る混乱が示した大人のがんの理解
患者さんやご家族から、友人・知人に「オプジーボを勧められた」という声が相次いでいます。
適応がないがん種の方にとっては、ありがた迷惑どころか、腹立たしさやわかってもらえない絶望感を深めるような極めて安易な「おススメ」なのですが、どうもそれが予測できないのか、善意という名の暴力がまかり通ってしまいます。
がん相談部門には電話が殺到しているそうです。
「新薬はどうすれば手に入るのですか?」
というような内容まであると漏れ聞いており、4年前にすでに発売されている薬剤を巡りここまで社会が鳴動するさまは、「がんについて知らない大人が多い」という本記事の裏付けとなったと感じます。
子供へのがん教育が進んでいる
上の記事を読みました。
小学6年生の彩楓さんのお母さんはがんを患っています。
初めてお母さんの病気を知った時、すぐに「死」を連想してしまい、とても不安になったという彩楓ちゃん。しかし、多くのがん患者に出会っていくうちに、がんはむやみに怖がらずに正しい知識を持って付き合っていくことが、とても大切だと感じたといいます。
「がんは治らない病気とか怖い病気とか思っている子どもが多いので、そのイメージを変えようと思って」
「がんのことを知れば親の病気を理解できるし、自分がなった時も焦らないなと思いました」
このような思いから、夏休みの自由研究はがんについてまとめたそうです。
素晴らしいことですね。特にがんのイメージを変えようと思って、というのはとても良いことだと思います。
文部科学省が2017年度から小・中・高校でがん教育の全国展開を始めました。
がんに対する知識は誰にとっても必要です。
彩楓さんのように、なかには親ががんになることもあるでしょう。
そのような際に、教育を受けたことがあるのとないのとでは違うでしょう。
子供へのがん教育が始まっています。
大人へのがん教育は?
大人へのがん教育も厚生労働省で話題に上ってはいるようですね。
がんの知識は、大人になれば熟知できるわけではなく、「学習の適時性」が
示しているように発達段階に応じた学びが有効なのである。
がん教育は理解できる小学校低学年より、家族とともに教育すること
が必要。大学生、成人では遅すぎる。
上記が委員から出ている意見です。
議事録のようなものですから、本当にそのように各委員が話したかはわかりません。
大人になってからの教育では遅いから子供から、という考えなのですね。
ただ、がんの罹患率を見ればわかりますように、がんになるのは熟年以降が多いです。
がんになる確率が高い世代にしっかりとした情報が行き渡っていることが重要なのは間違いないでしょう。
それでは熟年世代に十分な情報はあるのでしょうか。
問題は、がんの分野の発展は著しいということです。
私は幼少期に病弱でした。
感染性疾患で寝込むことも多く、その時に家にあった『家庭の医学』をよく開きました。
自分がどのような状態であるか知りたかったのです。
『家庭の医学』は昭和50年版でした。
今からは想像もできないことですが、この『家庭の医学』は「死の本」でした。
「胃がん」「急性白血病」などの病名が並びますが、ほとんどが、「短い命」と「治療法の乏しさ」を記載していたのです。今では考えられない内容です。
早期でなければ、命がほぼ助からない時代でした。
それからだいぶ時間が経過して、私は42歳ですが、これまで一度も、仕事関係以外では「がんの教育を受けたことがありません」
一方で、がんに多く罹患している世代は、私よりも上の世代です。
自発的な何かがなければ、私が(仕事以外で)受けた教育よりも多くがん教育を受けていることは当然ありえないでしょう。
多く罹患する可能性がある世代が、そのような教育がなく現状に至っているということは無視し得ない問題です。
基本的な知識がなく、ある日突然当事者に
がん自体の実際やイメージも、この数十年で大きく変わりました。
数十年前は死の病でしたが、最近は治る事例や長期生存例が増えています。
ご高齢の方でも、気力・体力が十分ならば積極的にがん治療に臨んで、根治に至る例もあります。
十分な情報がないと、私たちはこれまでに見聞したものからイメージを構築するものです。
その個々人が持っているイメージと実際の乖離がある可能性があります。
そしてまた相対的安価と引き換えの、時間の不足に慢性的に悩まされている病院は、「初心者」には甘くありません。
情報を十分伝えてもらえるかは、まさしく医療者次第、運次第です。
なかには説明といって良いのだろうかという水準の説明のみで、治療を開始している患者さんもいらっしゃいます。
もちろん知らぬが仏なので、一施設しか知らなければ、それが標準かと思います。
しかし何らかのきっかけで、他の病院に移って驚かれている方もいます。
「病院ごとでこんなに違うのか」と。
がんは非常に多様性がある病気で、患者さんごと、進み具合ごとで、治療や見通しなどは大きく異なります。
基本的な知識がなければ、ある日突然当事者になった際に、「何が一般的なことと異なるのか」に気づくことも困難になります。
時に医療機関によって判断が分かれる状態もあるということを知らないと、後で正当な治療ではなかったのかと気づいても遅いということもあります。
けれども、どの病院もそこまで丁寧に手取り足取り教えてくれるかというと、慢性的時間不足にあえぐ病院には難しいのも事実でしょう。
だからこそ、患者さんは基本的情報で武装する必要があるのですが、それが待っていても与えられるものではありません。
そのような現状があります。
がんの基本的教育が必要なのは、大人なのではないでしょうか?
解決策は?
ただしかし、学び舎を離れてしまった大人が、再び義務的に教育に参加するというのも困難ではありましょう。
まずは、「大人にもがん教育が必須なのだ」ということを周知することからでしょう。
気になるのは、テレビも「健康を保つ方法」ばかり放送していて、「病気になったときの対策」の番組が少ないことです。
視聴率が取れないのかもしれませんが、このような内容こそ、いまだに社会に大きな力を持っているメディアとして放送してもらいたいとも思います。
幸いにして、「自分で探そうとする人には」有用なサイトはいくつも出て来ています。
で一般的な情報を得ることはできます(教科書的な存在ではありましょう)。
より個別化された情報を得る時に、がん治療医の押川勝太郎先生の「がん治療の虚実」とYouTubeサイトは有用です(がん教育が必要なのは大人と以前からご指摘されているのも先生です)。
なぜか知りませんが(視聴率?)、テレビで取り上げられるのは、「悲しい経過のがんの話やドラマ」が多く、あるいは神の手系のノンフィクションやドラマが多く、「一般的ながん治療」に関しての情報が少ない印象があります。
がんの情報を伝える講演会でも、出席者の偏りは指摘されるところです。
仕事等もあるのでしょうが、成人男性の参加が少ない印象があります。
罹患率も死亡率も男性が上回っているのにもかかわらず、です。
このような講演会等に「一般的に来ない傾向がある層」にまでどうアクションするかという時に、巨大メディアの動きや、YouTubeなどオンデマンドで流すだけで情報を得られるメディアでの情報発信は重要となるでしょう。
がんに対する教育(情報収集)なしに現場に出るのは、いきなり弾が飛び交う戦場に出るようなものです。
当事者となる大人こそ、がん教育を受けて武装する、それを忘れないで頂きたいと思います。
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