がんの痛みでのたうち回る時はどうすれば良いか?
「がんの痛みでのたうち回る」
そのような言葉を聞くことがあります。
実際に、そのような事例もあるようです。
「ようです」と伝聞で書いているのは、緩和ケア医である私が関与していて、のたうち回るほどの痛みがずっと続いている、という事例が稀であるからです。
もちろん関与前の時期に、「のたうち回るほどの痛みがありました」というケースはあります。しかし適正な緩和医療を提供して、ずっとその程度の痛みが緩和されないで残り続ける、というケースは多くないのです。
一方で、メッセージなどで寄せられたりするケースの中には、そのようなことがあるとのこと。
必要なのはアセスメントと対処であり、まずは担当医とよく相談し、それでも症状が緩和されなければ、緩和ケアチームや緩和ケア外来など、専門部門とつながるようにすることです。
がんの痛みでのたうち回る2ケースとは
これまでの経験、見聞、ご相談を受けたケースで、がんの痛みでのたうち回る、と一般の方に表現されるのは、次の2つと感じています。
① 骨転移痛(体性痛)や神経障害性疼痛(神経の痛み)など医療用麻薬が著効しない難しい痛みのケース
② 終末期せん妄で苦しんでいるので医療用麻薬が著効しないケース
まず①ですが、内臓痛という種類のがんの痛みには、医療用麻薬がよく効きますので、医療用麻薬を始めれば、のたうち回る、というような激烈な痛みは多くの場合緩和されます。
一方で骨転移痛や神経障害性疼痛は、医療用麻薬が基本的には大切なことはかわりませんが、同薬が必ずしも著効はしないため、他の手段等との組み合わせでの加療が重要になります。
ある程度以上、症状緩和技術によって左右されるところもあるでしょう。
痛いというから純粋な痛みとは限らず 終末期せん妄は手強い
②の痛み(正確には痛いという訴え、痛そうな所作)は、余命が少ない場合に出てくる可能性があります。
確かに「痛いですか?」と尋ねると、「痛い痛い」と答えられたり、うなずかれたりするので、一見痛みのように見えます。
しかしその時に、意識の状態がどうかはしっかり確認されなければいけません。
意識が混濁化していると、身体の症状及びその訴えに関しても影響を受けるため、純粋な痛みとは言い難い可能性があります。
せん妄に関しては、医療用麻薬は効きません。むしろ逆効果になることもあります。
ただし、痛み自体もせん妄を悪化させます。
あちらを立てればこちらが立たず、という中を治療することになります。
このように、せん妄が起こりやすい病状がかなり進行した場合の痛みの緩和は難易度が増します。
よくインターネットで、(亡くなられたご家族などの方が)「痛みでのたうち回りました」という記載等を見かけますが、よく見ると痛みよりもせん妄ではないかと読み取れるケースも多いです。
(余命が短いケースで)痛みで人格がおかしくなった、などの場合もせん妄が考えられます。
①にせよ、②にせよ、緩和ケアに通じた医療者の並行した関与が妥当です。
かかっている病院に緩和ケアの提供元がある場合も少なくないので、まずはご自身で尋ねてみることだと存じます。
もちろんそれでも難しい場合には、私も相談にのることが可能です。