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骨転移の痛みは手強い

しばしば激烈な痛みと患者さんによって表現される骨転移痛の緩和について紹介します。

一般の皆さんも、がんが骨に転移すると痛い、ということはお聞きになったことがあるかもしれません。

実際、患者さんによっては激烈なと表現されるような痛みになる場合もあります。

のたうち回るほどの痛みについて述べた記事でもそれを書きました

ただ、骨転移があっても、たいして痛くない患者さんもおられます

痛みが出現・増悪する、原因は下記の本(専門書)にも書きましたが、脊髄の神経の種類が痛みの持続とともに変化するところにあるようです。

誰でもわかる医療用麻薬 大津秀一

いずれにせよ、激烈なものとなった骨への転移痛は、緩和が容易ではないのは事実です。その一方で、がんの骨転移はけして珍しくなく、頻繁に緩和対策が求められます。

 

同時期に同じがんの骨転移の患者さんが2人 運命はわかれた

あるがんの患者さんが2人いて両方ともstageは一緒(stageⅣ)でした。

どちらの方も激烈な痛みで夜も眠れないほどでした。

Aさんには、医療用麻薬や他の鎮痛薬、放射線治療などを様々に組み合わせて、かなり症状緩和されました。

「あの痛みが続いていたら、間違いなく死んだほうがマシ」

患者さんはそう仰っていました。

がんの治療も開始することができ、穏やかに長く生活されました。

ところがもう1人、Bさんは夜も昼ものたうち回る日々が続きました。

ついに治療に入ることもできず、短時間で旅立たれてしまいました・・・。

何がそれをわけたか? 皆さんはわかりますか?

 

緩和の介入が為されなかったために

違い。

それはAさんとBさんの置かれた立場の違いです。

Aさんは、担当医の先生からすぐに私に紹介があって、緩和ケア医が早期から関わった患者さんです。

Bさんは、私がよく知っている人の知人です(少しややこしいですね)。

お住まいの場所も、地方でした。

Bさんの知人(つまり私がよく知っている方)は、早く緩和ケア部門に関与してもらうほうが良いと、Bさんやご家族にお伝えしました。

しかしBさんもご家族も、あまり緩和ケアのことをご存じなく、また「末期になって行くもの」というイメージが強かったようです。「診断の時期なのになぜ緩和ケア?」と思われてしまったのでしょう。

結局緩和ケア医等が関わることがなく、夜も家族総出でさすりながらの状況が続いたそうです。

それでも痛みは良くなりませんでした。

消耗も激しく、治療に入ることもできなかったそうです。

もちろん同病・同stageの患者さんでも個人差がありますから、緩和の介入があっても病気の経過はもしかすると変わらなかったかもしれません。

ただBさんの治療内容を伺った時に、少なくとも緩和ケアの観点からはAさん並みに多様にできることがあったのではないかとも感じました。

批判ではなく、このような現実があることもまた事実なのです。

 

骨への転移の痛み 具体的には何をする

まず医療用麻薬を適切に使用することは必要不可欠です。

①必要な量まで必ず基本量(ベース量)を増やすこと

②痛い時の追加投与(レスキュー。頓服薬)を適量に調節すること

他に、しばしばNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)→<変更して>医療用麻薬、となってしまっています。

NSAIDsが使用可能な状況(腎機能障害がなく、消化性潰瘍もない)ならば、医療用麻薬とNSAIDsを併用することが大切です。

ロキソニン(一般名;ロキソプロフェン)やボルタレンSR(一般名;ジクロフェナク)などを医療用麻薬に足して使用する、ということです。

他にも、ビスフォスフォネート製剤やデノスマブという骨を吸収する細胞の働きを抑える薬剤を用いたり、

症状緩和目的の放射線治療を行うことも重要です。

また、骨転移痛の特徴は身体を動かした時の痛みである「体動時痛」です。

時にこれは激烈になり痛みの立ち上がりが早いので、事例によっては医療用麻薬の持続注射を選択したほうが良い場合があります。医療用麻薬の持続注射は、追加投与(レスキュー)の濃度の立ち上がりが早く、急峻な痛みにも効きやすいためです。

患者さんは痛みに対して薬剤が複数になり、他にも様々な治療が加わる場合もありますから、ご心配になることもあるかもしれませんが、手強い骨転移の痛みを緩和するにはそれくらい複合的な手段を組み合わせる必要があるということは知っておかれると良いと思います。

 

まとめ

多くのがんが骨転移を起こします。

そして中には、激烈な痛みで苦しまれる方もいらっしゃいます。

しっかりと疼痛緩和を希望すること(我慢しないこと!)ですが、それでも良くならなければ、「緩和」部門に関わってもらうことです。

どうか、緩和が関わると末期などと誤解されずに、緩和ケアを活用してほしいと思います。

前掲のBさんのような悲しい出来事はなくしたいと思いますし、そのためにもこのような情報の広まりを願う次第です。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

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About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。