Pocket
LINEで送る

パーキンソン病とは

パーキンソン病は、ドパミン神経細胞が変性する進行性の病気です。

ドパミンは身体の運動において重要な役割を果たしています。

それなので、ドパミンの低減により、安静時振戦、筋固縮、無動・寡動、姿勢反射障害などの運動症状が出現します。

しかし単に運動症状だけではなく、精神症状などの運動以外の症状も出ます。

発症年齢は50~60代に多いですが、高齢になるほど発病率は増加します。

一方で、40歳以下で発症するものもあり、若年性パーキンソン病と呼ばれます。

緩和ケアといえば、皆さんがご存知のように、がんのイメージです。

しかし認知症筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経疾患も海外では適応症と考えられています。残念ながら日本では保険上の適応疾患となっていません。

ALSに関しては、日本でも先駆的な取り組みをしている神経内科医を中心に、緩和ケアの必要性が叫ばれ、実践されてきた病気でもありますが、パーキンソン病も多様な苦痛症状(痛みを含む)を来たすにもかかわらず、あまり緩和ケアと結びついていない疾患でもあります。

 

緩和ケアとは症状緩和だけにあらず

緩和ケアとは名前が必ずしも良いわけではなく、
①終末期のイメージが強い
という側面ばかりではなく
②症状の緩和だけのことのように見える
という点もあります。

緩和ケアとはQOLを向上させるアプローチ(世界保健機関の定義)なので、症状を直接的に緩和するだけではなく、多様なアプローチをすべて包摂するものです。

パーキンソン病は、生命予後自体はそれほど悪くないとされ、一般より2~3年ほど短くなるのみとされていますので、その点では同じ神経難病であるALSとは異なっています。

しかし経過には個人差があり、介助が必要になることもあり、先に起こりうる問題を、患者さんやご家族と事前から十分相談し、価値観に沿った生活を送れるように支援する、という点が重要になります。

パーキンソン病も専門性が非常に高い神経内科の病気なので、神経内科医が意思決定にも十分関与して支援してくれるでしょう。

ただ緩和ケアも、生活の質を上げるアプローチで、また早期から対応するものであり、今後起こりうることに対して十分話し合い、前もってその際の道すじを策定しておくことも範疇に含まれます。

緩和ケアはその名前がゆえに症状緩和が中心の医療と捉えられがちですが、実際はそうではなく、症状緩和はあくまで緩和ケア全体の一部です。

在宅医として緩和ケアに従事している際等に、進行したパーキンソン病の患者さんを診療して參りましたが、これから紹介するような多様な苦痛を自覚する疾患であり、それぞれ対処が必要です

 

パーキンソン病の身体的苦痛症状

パーキンソン病も様々な苦痛症状を来します。

ただし基本的な神経症状(安静時振戦、筋固縮、無動・寡動、姿勢反射障害等)は主担当科である神経内科が対応するので、それ以外の苦痛症状に関して概説します。

それらに関しては、対応に濃淡があるため、広範な症状緩和の専門家たる緩和ケア医が並行して関わる価値が存在します。

痛み

パーキンソン病の患者さんの痛みはよくある症状です。

46%に認められるとの報告もあります。

痛みは、刺すような感じやつねったような感じ、灼熱感などの神経障害性疼痛を全身の様々な場所に自覚します。

朝のジストニアや、ドパミン製剤のwearing off、あるいはジスキネジアでも痛みを起こすとされており、痛みの原因は多様です。

既存のパーキンソン病治療薬でも疼痛緩和が不十分な際は、アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が使用され、それでも症状緩和が不十分な際は海外では医療用麻薬の適応と考えられています。

倦怠感(だるさ)

比較的多い症状とされています。海外ではメチルフェニデート等が用いられることもあるようですが、あまり顕著な効果は得られていないようです。本邦では適応外です。

流涎(りゅうぜん。唾液分泌過多)

抗コリン作用がある薬剤が使用されます。

他にも、便秘、睡眠障害、起立性低血圧、嚥下障害、排尿障害、性機能障害など様々な苦痛症状を出現しうるため、神経内科医だけでの症状マネジメントが難しくなることもあり、緩和ケア医の並行関与で改善する余地があるでしょう。

 

パーキンソン病の精神的苦痛症状

パーキンソン病は多様な精神症状を起こす疾患でもあります。

妄想、幻覚、認知機能障害なども認められます。

パーキンソン病の患者さんも、抑うつやうつ病になりやすい可能性があることが知られています。

抗うつ薬にはパーキンソン病の治療薬と相互作用を起こすものもあるため、使用には注意が要ります。

またレビー小体型認知症などパーキンソン病に似ている疾患もあり、それらにも留意する必要があるでしょう。

家族ケア

海外の文献ではパーキンソン病の家族ケアの重要性も指摘されています。

患者さんだけではなくご家族も支援する必要があるのは、がんなどの他疾患の緩和ケアと同様です。

 

まとめ

パーキンソン病の苦痛症状についてまとめました。

パーキンソン病でも様々な身体的・精神的苦痛症状が生じますので、適切な対処が必要となります。

神経内科医が治療してくれますが、パーキンソン病の症状は極めて多様で、神経症状以外の身体症状や精神症状には十分な緩和が及んでいないこともあります。

治療の専門家には患者さんが集中しますので、多様な症状の緩和に物理的に時間を割けていないこともあります。

症状の専門家ということで緩和ケア医に紹介されることもあり、医療用麻薬や精神系薬剤の使用に熟達しているという特性を活かして関わっていました。

パーキンソン病は患者さんやご家族にとってストレスとなりうる疾病であり、患者さんのケアのみならずご家族のケアも大切です。

症状緩和のスペシャリストとして、ALS等の他の神経疾患・神経難病と同様に、神経内科医と協働して緩和ケア医が関わる価値のある疾患だと考えられます。

早期からの緩和ケア外来相談 緩和ケア医(緩和医療専門医)大津秀一

★早期緩和ケア相談所での外来・相談についてはこちらから

 

 

Pocket
LINEで送る

Share this Post
アバター

About 大津 秀一

緩和医療専門医/緩和クリエーター。数千人の患者さんの緩和ケア、終末期医療に携わり、症状緩和のエキスパートとして活動している。著書や講演活動で、一般に向けて緩和ケアや終末期ケアについてわかりやすくお伝えすることをライフワークとしている。