がんの便秘と、便秘薬
便秘薬といえば、緩下剤と大腸刺激性下剤。
緩下剤は便を軟らかくし、大腸刺激性下剤は大腸を刺激して排便を促します。
がんの患者さんの便秘の頻度は少なくありません。
運動や食生活の変化など、複合的な要因が関与します。
抗がん剤で「下痢」という症状は有名ですが、「便秘」になる抗がん剤もあります。
ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセルなどは様々ながんの治療で使用されますね。
そして、痛み止めとして用いる、医療用麻薬も便秘の原因となります。
それらに対して、緩下剤の酸化マグネシウムや、大腸刺激性下剤のピコスルファート液を用い、適宜新レシカルボン坐剤や浣腸で経肛門的に対応するというのが、便秘対策の定番で、上記のがん情報サービスでもそれらが記載されています。
そこに変化が起こりました。
にわかに活況を呈する新・便秘薬
まず2012年にルビプロストンが発売されると、2017年ナルデメジンが、2018年にはリナクロチドが慢性便秘にも使用できるようになり、同年エロビキシバットも使用可能となっています。
それまでの下剤と違って、それぞれはユニークな作用を持っています。
ルビプロストン
ルビプロストンは小腸のクロライドチャネルを活性化し、腸管内への水分分泌を促進することで排便を促すという機序です。
副作用として嘔気が出ることがあり、食後投与だとその頻度が少ないということで、1日2回の食後投与になっています。
ナルデメジン
ナルデメジンは、医療用麻薬の便秘対策の特効薬で、腸管などのオピオイド受容体(医療用麻薬が作用する場所です)に医療用麻薬が作用するのを抑えて、便秘を起こりづらくさせます。
リナクロチド
リナクロチドは過敏性腸症候群への薬剤だったのですが、2018年に慢性便秘にも使用可能となった薬剤です。
リナクロチドはグアニル酸シクラーゼC受容体作動薬で、腸管の内部表面にある同受容体を活性化させ、腸管分泌や小腸輸送能を促進し、大腸痛覚過敏を改善する作用があります。
食前薬で1日1回。添付文書量の半量からの開始が良いという意見もあります。
エロビキシバット
エロビキシバットは、回腸末端部で胆汁酸の再吸収を抑制し、大腸に流入する胆汁酸の量を増加させ、胆汁酸によって大腸内に水分を分泌させ、また消化管運動を促進させます。
エロビキシバットも1日1回食前の薬剤です。
このように新しい薬剤が続々と使用可能になりました。
酸化マグネシウムも、相手を選んで
酸化マグネシウムは昔からある薬剤で、使い勝手は良い薬剤です。
ただ、腎機能障害者や高齢者での高マグネシウム血症が懸念されるようになりました。
また胃酸の分泌を抑える薬剤と併用すると効果が減弱したりするなど、他の薬剤との相互作用も留意しなくてはいけません。
非常によく使われている薬剤ですが、配慮すべき点があるので、漫然と使用されることは避けねばなりません。
既存の下剤と比べたデメリットは?
新しい薬剤は、それぞれ魅力的なメカニズムを持っています。
もちろんその方に合ったものを使用すればよいのですが、既存の薬剤を比べると、ある点で泣き所があります。
それは、「高い」ということです。
1日の薬価が180~246円(の保険負担割合分が実費)でかかります。
基本的には連用する薬剤であることを考えると、それなりの値段になります。
酸化マグネシウム錠が(内容量を問わず)1錠5.6円で、1日の薬価が約17円(の保険負担割合分が実費)であることを考えると、全然値段が違います。
もちろん様々な価値観があると思いますので、それに合うように処方を受けると良いでしょう。
まとめ
酸化マグネシウムやピコスルファート液が中心だったがん医療等の便秘対策が変わりつつあります。
「ルビプロストン、ナルデメジン、リナクロチド、エロビキシバット」と(呪文のようですが!)新しい薬剤が次々に出て来ています。
どれも興味深い機序を持っていますが、まだ値段が高いです。
便秘は自覚があっても訴えていらっしゃらないことがありますので、しっかりと症状を伝えましょう。
それが便秘対策の第一歩です。
運動や食生活の改善なども重要なので、ぜひ心がけて頂くと良いでしょう。
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