肝臓がんの緩和ケア
によると、肝臓がんは罹患数が全体の第6位です。
ウイルス性肝炎の治療の進歩とともに、今後減少が予想されます。
男性では第5位の罹患数となっています。
死亡数としては、全体の5位になっています。
死亡数が比較的多いのは、肝臓から発生したがんの性格に関連しています。
肝臓は転移も多い場所です。転移したがんは転移性肝がんと呼び、肝臓から発生したがんと区別されます(治療も異なります)。
肝臓から発生するがんは、原発性肝がんと呼び、肝細胞がんと胆管細胞がんがありますが、前者がずっと多いです。
肝細胞がんは1つの病巣を制御しても、また別の(肝臓の)場所に発がんして来るという「異時性多中心性発がん」を起こし、再発が多いです。
これが治療の難しさや、死亡が少なくないことに関連しています。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、肝臓がんもあまり緩和ケア部門に連絡が来ない時代もありました。
しかし長期生存が増えているためか、旧来はまるでなかった転移形式からの強い症状も出現するようになっています。
肝臓がん、今回は肝細胞がんの苦痛・つらい症状と緩和ケアについて解説します。
肝臓がんの体の苦痛症状と緩和ケア
肝臓がんと痛み
肝臓自体は、あまり痛まない臓器です。
しかし肝臓の表面にある肝被膜まで腫瘍が進展すると(あるいは影響が及ぶと)、腹痛が自覚されることがあります。肝臓がんの場所によっては、右背中の痛みとして自覚されることもあります。
肝臓自体の痛みは、必ずしも高度というわけではありません。鈍痛が多いです。
痛みの形式としては、内臓痛というものに分類されます。
痛みには不快感や重い感じ、気持ち悪さを伴うことがあります。
一方で、痛みとして捉えられていないこともあり、そのような場合は治療が遅れることもあります。
患者さんは「胃の痛み」と仰ることもありますが、例えば肝臓の左葉に腫瘍があったりすると、胃の前面に肝臓がんが存在するような場合もあり、それで胃痛と勘違いされてしまっていることもあります。
腹部CTで確認することで原因を突き止めることができます。
内臓痛は医療用麻薬が良く効きます。
また肝臓がんに対して抗がん剤治療などを開始しても、抗がん剤が効いて腫瘍が制御されて痛みが緩和されるまでは一般にある程度時間がかかります。
その間、いたずらに苦痛に耐える必要は全くありません。
痛みは情動などにも悪影響を与えます。内臓痛は適切に医療用麻薬治療で緩和すべきです。
従来、肝臓がんは肝臓内で完結していることが多いがんでした。
肝臓が機能しなくなると人は生きられませんので、それでも十分以上に対処が必要でした。
最近、比較的長期に生存されるようになったためか、別の問題とそれに付随した問題が起こるようになりました。
それは「骨転移」です。
肝臓がんでも骨転移を示すケースが散見されます。
そして骨転移痛が発症すると、一般にかなり強い痛みとなります。
医療用麻薬の他、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、その他の鎮痛薬や放射線治療などを組み合わせて治療することが大切になります。
また時に、最終末期に肝臓の腫瘍破裂を起こす場合があります。
この場合は高度の激痛が出ることがあり、医療用麻薬の鎮痛にも抵抗性です。
鎮痛薬の技術を尽くし、それでも疼痛が緩和できなければ、うとうとと眠っていただくことで苦痛を緩和する鎮静(一般に命を縮めない。また、死を意図して薬剤を投与する安楽死とは全く異なる)を行ってその激痛を和らげます。
このように、様々な時期に応じて種々の痛みが出現する可能性がありますが、早期には一般にあまり痛みが出ないがんが肝臓がんです。
肝臓がんと痛み以外
肝細胞がんの場合は、背景に肝硬変などの進行した肝臓の病気が存在することが多く、肝機能障害や肝硬変からの症状も問題になります。
肝硬変からの腹水や、食道静脈瘤からの出血などがあります。
肝硬変からの腹水は、腫瘍が腹膜に転移(腹膜播種)してのがん性腹膜炎からの腹水よりは利尿薬が効くので、その調節が肝要です。逆に胃がんや膵臓がんが腹膜播種してのがん性腹水に関しては、最近の考え方では、利尿薬の効果は限定的であり、血管内脱水や電解質異常を増悪させないように治療には慎重さが必要です。
肝性脳症も問題になります。急性期には分枝鎖アミノ酸製剤の点滴で対処します。分枝鎖アミノ酸製剤の「内服」では、増悪した肝性脳症の症状を改善する効果は乏しく、急性期は点滴での対応が必要となります。アンモニアを上昇させないように、便秘の対策も重要です。混乱や興奮が目立つようならば、せん妄の対処に準じて治療を行います。
他にも全身倦怠感や食欲不振等も生じるため、適宜対処を行います。
肝臓がんと心理的な問題、治療に関する問題
肝臓がんも一般に手強い病気です。
それは一つの病巣を制御しても、別の場所に再発してくることも多いという肝臓がんの性質が関係しています。
肝動脈塞栓術等の治療も、術後全く症状がないわけではなく、身体には一定の負担がかかります。
治療も複数回行うことになったり、再発に関してのストレスがあったりなど、心理的な不安やつらさも生じやすいため、支援が必要です。
分子標的薬も治療に使われることになり、治療薬による副作用も問題となりますので、その点にも十分な配慮とケアが大切です。
まとめ
肝臓がんも他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。
痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。
肝細胞がんに関していうと、単にがんの問題ばかりではなくて、背景に肝硬変が存在することも多くあり、肝硬変からの症状も視野に入れて加療する必要があります。
また重度の肝機能障害は薬の代謝にも影響しますので、総合的な内科知識が求められるがん種です。
肝臓は沈黙の臓器と言われ、確かに症状に乏しいケースもあるため、緩和ケアの必要性があまり知られていないことがありますので、実際に苦痛がある場合には遠慮しないで医療者に伝えたり相談したりすることが大切です。