肺がんの緩和ケアについて説明します。
肺がんも様々な苦痛が出現しうるがんです。
様々な可能性を念頭に置きつつ、症状が出たらそれに相応する病変があるか画像でも確認し、原因の診断と治療に移ります。
肺がんと痛み
肺の実質自体は痛みを自覚しないので、肺の内部にがんが留まれば、痛みとしてはそれほどではないです。
ただ肺の外側の胸膜は、痛みを自覚する部分ですから、肺の外部の胸膜にまで病変が及ぶようになると、厄介な痛みが出現する可能性があります。
胸膜痛は医療用麻薬単独での治療効果が薄い場合があり、鎮痛薬の組み合わせの加療をしばしば必要とします。
また肺がんも転移する病気です。
骨などへもしばしば転移します。
骨転移は代表的ながんで痛い病態です。対応次第で緩和可能です。
他にも、大動脈周囲リンパ節や、肝臓などにも転移することがあり、これらも痛みの原因になります(ただし肝臓も内部ならばあまり痛くない)。
治療は各種の鎮痛薬を組み合わせて行います。
医療用麻薬も当然、痛みが強ければ使用すべきです。
私の中のトピックとしては、比較的画像検査をしないホスピス・在宅医時代にはあまりピンと来なかったのですが、肺がんの患者さんで難治性の腹痛を訴える患者さんの中に、大動脈周囲リンパ節転移からの神経障害性疼痛を発症しているケースがあります。
これは腹部CTを確認することで診断できます。
神経障害性疼痛はしばしば難治化するので、専門的な対処が必要です。
肺がんでなぜお腹が痛いのか、と思いがちですが、そういう機序が働いています。
また肺の頂部(肺尖部)にできるパンコースト型の腫瘍も、腕にいく神経を障害することから難治性の腕の痛みを訴えることがあります。これも神経障害性疼痛なので、治療手段を駆使する必要があります。
肺がんと呼吸困難・咳
肺がんの場所によっても呼吸困難や咳の症状の程度は変わります。
特に太い気管など、いわゆる中枢側に病変がある場合は、咳の症状が強くなるようです。
一般の方には意外に知られていないこととして、医療用麻薬の一部は咳を抑える作用があります。
鎮咳薬として使用することができるのです。
胸水などが溜まってきたり、肺病変が大きくなってきたりすると、呼吸困難が出現します。
血中の酸素濃度が低下するようならば、酸素投与が適切です。
酸素を吸うことを嫌がられる方もいますが、症状緩和だけではなく、身体的負担を減らすためにも有効です。
特に、運動時など、必要量が多くなりがちな際に酸素使用を行うなどすると、だいぶ症状や動ける範囲が異なります。在宅酸素は担当医に相談することで、業者から連絡が入り、導入してくれます。
他にも、医療用麻薬は息苦しさを緩和する効果があります。
もうろうとさせて緩和するのではなく、呼吸中枢に直接作用しての効果です。
他に、呼吸困難の不安が強いような際には、抗不安薬(ベンゾジアセピン系薬)も有効です。
がん性の胸水に関しては、文献的裏付けは少ないものの、ステロイドが有効な症例があります(たまにがん性以外の胸水でのステロイドに関するご質問を受けますが、心性や腎性の胸水には無効です)。
脳転移
肺がんは脳転移をしばしば起こすがんです。
最近は定期的に頭部の画像評価を行うケースが多いですから、無症状で発見されるケースも増えている印象があります。
大きさや個数等によって、手術や、ガンマ線による治療、放射線治療などふさわしい治療が異なります。
進行すると、麻痺や痙攣などが出る場合もあります。
脳圧が上がってきていることによる諸症状が出現する場合は、ステロイドも効果があります。
肺がん最終末期、最後の数日の対応
肺がんでしばしば最後に問題になるのは高度の呼吸困難です。
また重度の低酸素血症から終末期せん妄も高頻度で起こしてきます。
推測される余命が非常に短い場合には、もともと万能薬ではない医療用麻薬では効果が不十分です。
息苦しさが非常に強い場合には、うとうと眠ることで苦痛を緩和する鎮静の適応が生じます。
鎮静には様々な誤解がありますが、検討される場合は、そもそもコミュニケーションが困難なケースが多いです。
したがって、苦痛がそれほどでもなく、コミュニケーションが十分取れる患者さんは、鎮静の適応とはならない(そもそも検討しない。適正な範疇ではないため)ことも多いのです。
また最近の研究では、鎮静は命に与える影響に有意な差がないと示しているものもあります。
ゆえに、鎮静薬を使用する→呼吸が抑制される→死が近くなるという説明がなされたりする場合もありますが、それはほとんどの場合事実ではありません(適正なケースに対して行えば)。
鎮静を、条件を満たし、ご本人あるいはご家族の同意がある場合に行うことで、最終末期の息苦しさも緩和することが可能です。
以上のように、病期の進み具合を問わず、肺がんに対して緩和ケアが必要で、またそれを行うことができます。
同病でお悩みの方、ご家族の方に少しでもお役に立てば幸いです。