胚細胞腫瘍の緩和ケア
胚細胞腫瘍は、胎生期(赤ちゃんの時期)にいろいろな細胞に分化する力がある原始胚細胞という細胞が悪性腫瘍になったものです。
そのため、若年者が中心にかかる腫瘍です。
精巣、卵巣、縦隔、仙骨、脳内の松果体や下垂体など、様々な部位から原発します。
胚細胞腫瘍は他の固形がん(血液のがんではないがん)に比べて特筆すべき特徴があります。
それは遠隔転移があっても、根治しうるということです。
抗がん剤治療が大変よく奏効します。
進行性胚細胞腫瘍でも80%は根治するとされ、適切な治療が重要です。
一方で2割は難治化し、その2割の中だと持続的完全寛解は20%しか得られないともされます。そのため、私もこれまで複数の進行症例・終末期症例で緩和ケアを行った経験があります。
胚細胞腫瘍と早期緩和ケア
胚細胞腫瘍は先述したように根治を目指して抗がん剤治療が行われます。
有名なのはBEP療法で、シスプラチン・エトポシド・ブレオマイシンによる治療です。
BEP療法は骨髄抑制、倦怠感、食欲不振、嘔気・嘔吐、口内炎、脱毛、しびれ等の神経障害などの他にも、ブレオマイシン(商品名ブレオ)による肺繊維症を起こすことがあります。
多様な副作用を示し、一般にその対策が重要な療法であり、支持的な治療が肝要となるでしょう。
現在の考え方では、治る腫瘍なので「副作用は仕方ない」は断じてありえません。
治る腫瘍でも、その治療完遂確率を高めるべく、副作用はできるだけ少なくする必要があります。
なお精巣の胚細胞腫瘍だけではなく卵巣の胚細胞腫瘍でもBEP療法が行われます。
一般の卵巣がんとは治療が異なります。
進行胚細胞腫瘍における緩和ケア
胚細胞腫瘍は、胎生期から存在する細胞の腫瘍化です。
様々な場所に原発しますので、それぞれの場所の症状が出ます。
例えば、精巣発生の場合は、最初は痛みがない睾丸の腫れでわかることが多いです。
ねじれを伴うと痛みが出現します。
卵巣発生だと腹痛や、しこりで発見されます。
縦隔発生だと、胸痛や息切れ、咳などを来します。
脳の発生だと、頭痛や吐き気、視野の異常や内分泌症状などを呈します。
私は精巣及び卵巣の胚細胞腫瘍の進行例および終末期例を複数拝見したことがあります。
進行した場合の転移様式も、一般的な腫瘍とは異なり、浸潤性は顕著ではない巨大腫瘤が胸腔内や腹腔内に多発し、圧迫症状等が前景に立ちます。
また当然腫瘤が大きくなれば、疼痛の原因にもなります。
腫瘍は内臓痛の形式を取り(ただし仙骨原発だと体性痛)、医療用麻薬による鎮痛治療がしばしば必要となります。
縦隔原発のケースでは呼吸器症状を来しますので、この緩和にも医療用麻薬が有効です。
根治する可能性が高い腫瘍ですが、難治例の場合は再発性・多発性の腫瘤による症状緩和に難渋します。
治療期は化学療法の副作用を抑えた施行及び治療完遂が肝要であるがゆえに早期緩和ケアの適応があり、進行期には緩和ケアのアプローチは必須と言えましょう。
泌尿器科や婦人科が主担当科であることも多く、緩和ケア科が内科的側面でバックアップする場合もあります。
若年者のケースが大半で、社会的生活を直撃しますから、AYA世代のがんと捉え十分な社会的支援も必要です。
またしばしば、抑うつや不安などの精神心理的問題の併発も認められます。
緩和ケアを並行して受けるのが望ましい腫瘍と言えましょう。
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