がん緩和ケアが初の全国病院調査だそうです
病院間で格差、当然ありますよね。
容認しているという意味ではなく、実態を見ていれば間違いなく存在します。
「全国約7800カ所の病院を対象にした初の実態調査を始める。国のがん対策推進基本計画で診断後早期の提供が求められているが、実態が不明で病院間で格差が生じている可能性があるためだ」
とあります。
ただ、がん情報サービスの各病院の緩和ケア情報では、どこもかなり緩和ケア部門を整備していることになっています。
しかし実際には、それとそぐわない内容の相談をそれぞれの病院におかかりの患者さんから聞くことがありますから、やはり上からの調査には限界がありますね。
大規模調査でも、結果は割引いて考えねばならないでしょうね。
早期からの緩和ケアが主治医頼みであることからの格差
緩和ケアの専門家は非常に少ないですから、現状は、がん医療に関わる全ての医療者が基本的な緩和ケアを提供し、それでも難しいケースを私のような専門家が担うことが想定されています。
特に全ての医師が緩和ケアを提供するべく、2日間の緩和ケア研修会が行われて来ました。
もちろん研修を受けたほうが良いですが、2日間で緩和ケアが出来るようになるわけはなく、そこからの継続的な自学自習が不可欠です。
緩和ケア研修会を修了するとバッジをもらえますが、あくまでそれは基礎中の基礎を学んだというだけで、それだけで基本的な緩和ケアがすぐに実践できるわけでもありません。
すると、経験や学習の多寡で、担当医ごとに緩和ケアの力量が違うということが普通にあるのです。
緩和ケアが「主観」を扱う領域だからこその難しさ
緩和ケアは患者さんやご家族の「苦痛」を扱います。
「苦痛」は客観的なデータでは計測できないところに難しさがあります。
例えば、苦痛緩和の腕はそれほどなくても、とても親切で、よく話を聴き、患者さんやご家族からの信頼は絶大という医師がいたとします。
一方で、苦痛緩和の技術はものすごいけれども、冷たく、無愛想で、あまり話を聴かず、何かにつけ断定的な言い方ばかりする医師がいたとします。
前者の医師の緩和薬の選択は今一つで、後者の医師の緩和薬の選択はいつも適切です。
では、患者さんの苦痛は、どちらが取れるでしょうか?
医療においては、プラセボ効果も発生しえます。
これが、「肝炎の治療」という客観的な領域ならば、知識・技術・経験がある医師の方が、治療成績は良くなるでしょう。
では、先ほどの緩和ケアの場合はいかがでしょうか?
はっきり言って、前者の医師のほうが「苦痛は取れる」と評判になってもおかしくないでしょう。
主観を扱う領域なので、緩和ケアがうまくいっているかどうかは、緩和ケア担当者の人数や部門の体制が整っているか等だけでは測り難いです。
緩和ケアの質の評価ということもたびたび取り沙汰されますが、他の客観的な指標がある分野に比べると、評価は難しいのです。
マクロな調査では見えにくいミクロ
緩和ケアという名前を意識していなくても、早い段階から懇切丁寧な治療説明を行っている医療者が多く在籍する病院では、「早期からの緩和ケアに取り組んでいますか?」→ノー、という返事でも、実際には患者さんは苦痛少なく療養できている可能性があります。
逆に、鎮痛薬を使うのが緩和ケアで、それを早期からしていれば緩和ケアだとか、最初から(患者の希望とは関わりなく)末期の緩和ケアの話もしているので、早期から緩和ケアをしているとか、そのような背景から「早期からの緩和ケアに取り組んでいますか?」→イエス、という返事でも、実際には患者さんは気持ちのつらさをずっと抱えているかもしれません。
また、病院としては「早期から取り組んでいる」といっても、実際に早期から緩和ケアを提供するのは担当医です。
その担当医ごとに緩和ケアの力はかなり異なるのですから、特に在籍者が多い病院で、「この病院では早期から緩和ケアに取り組んでいる」というお墨付きがあっても、個々のレベルではそれは保証されません。
極端なことを言えば、「早期からの緩和ケアは私がしている」と言っている一方で、標準的な緩和ケアは一切せず、絶対に緩和ケア部門につながない医療者もいます。そのような病院にも、立派な緩和ケア部門があり、早期からの緩和ケアに取り組んでいます。
病院としては立派な「早期からの緩和ケア」に取り組む病院です。しかし医療者の当たり次第では、いつまでも緩和ケアが受けられない病院です。そのようなケースもあるでしょうね。
早期からの緩和ケアといっても、容易ではないのです。
ただ、初の全国調査ということで、どのような結果が出るかが楽しみです。
病院の格差だけではなく、担当医による格差も実際には重要な要素なので、明らかになる部分とそうではない部分があるのではないかと考えられます。
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