いつもそうですが、特定の患者さんを想定して書いているものではないので、その点は明記しておきます。
戦略と戦術
戦略と戦術、皆さんは違いがわかりますか?
戦略とは、全体の闘いに勝つための、長期的視野に立った総合的な準備・計画・運用の方策です。
戦術とは、個々の闘いにおいて目標達成のために力や物資を効果的に配置・運用する術です。
もちろん闘いに勝つには両方が必要ですが、たとえ戦術で勝っても、戦略がまずければ闘いは負けます。
そのため、戦術も大切ですが、戦略はより重要です。
病とはある日突然、そのような待ったなしの闘いの場に投げ込まれること
病気との対峙はきれいごとではありません。
ある日突然、そのような闘わざるを得ない場に、投げ込まれてしまうようなものです。
もちろん、その中でも軽い場合は深刻度はそれほどないかもしれません。
しかし病気によっては、死力を尽くした闘いが必要になることもあるでしょう。
身体と気持ちが限界まで試される厳しい場となることもあります。
がんは今もって厳しく感じる響きがあります。
そのため、診断を受けると、すぐに対処しなければ命に関わると感じるのも無理からぬことです。
特に一部の血液腫瘍など、実際に日単位で対処しなければ危険な病気もあります。
時間的な猶予がないと思いますから、「すぐに治療を」と思いがちです。
しかしそれが要注意なのです。
言われたままに治療を行うことは戦術レベルで勝ちを狙うこと
気をつけなければいけないのは、標準化しているようで個々のレベルで見ると標準的ではない治療が提案されていることもままあるということです。
正しい診断のもと適した治療を選ぶ(これが戦略レベル)ことができなければ、いかに素晴らしい治療(これが戦術レベル)を用いても、厳しい結果になりえます。
すでに専門家によっても何度も指摘されていますが、標準治療というのは名前の問題で、「並」の治療に響くのですが、実際は科学的な検証を経て現状では最善のものと考えられている治療です。
それなので、標準治療を受けることが、最も長く生きられたり、根治したりする可能性が相対的には高いです。
正しい診断のもと、そのがんに合った標準治療を受けることは、回復や長く生存することを考えた時に、最良の一手なのです。
もちろんそれに何かを足すとか足さないなどは、個々人ごとの価値観があるでしょう。
ただ、診断と標準治療は、基本の戦略と言えると思います。
一方で、言われたままに治療を行うことは、それが標準なのかそうではないのかがわからないという点で、よりリスクが高いです。
例えば、かつてはアナウンサーの逸見政孝さんの治療が話題になったことがあります。
逸見政孝さん/Wikipedia<「手術について死後の賛否両論」の項目参照>
選んだ戦略が間違っていれば、戦術で成功しても、全体の闘いでは勝てないということもあるでしょう。
それがゆえに、最初の戦略が大切になります。
少しでも違和感を覚えるところがあったら、セカンドオピニオンを求めることが大切だと言えるでしょう。
戦略で勝つ
おおもとの診断や治療が間違っていれば勝てません。
また芸能人の方の一部のように、最初に一般的な病院にかからずに、それが結果に影響したのではないかと考えられるケースもあります。
すなわち、間違った医療施設を選ぶこともリスクです。
診断、標準治療、一定の水準の病院が揃った時に、勝ちやすくなる体制が構築されます。
これが戦略です。
また担当医は通常、治療の様々な見通しが見えているものです。
例えば、この薬が効かなくなったらこれ、これが効かなくなったらあれ、等と治療のロードマップが見えています。
基本的には、それを共有してくれる医師が最適でしょう。
当事者は患者さんなのです。情報不足では闘えません。
その基本戦略の上に、自分なりに何かを戦術レベルで足すということは十分考えられます。
早期からの緩和ケアが予後を延長させる可能性があるという点から、緩和ケア外来に継続的にかかるのも良いでしょう。
食事や運動の良さも明らかになってきています。生活習慣を変えてみることも挙げられるでしょう。
いろいろなプラスαを、その方に与えられた状況で出来る範囲で行えば良いと考えます。
まとめ
大もとを間違った場合、戦略レベルの間違いは、厳しい結果になりがちです。
予後がかなり厳しい状態で状況改善のために緩和ケアを求めるのも、(悪いことではありませんし、一時的に良くなることも多いですが、それは)戦術レベルの話であり、大勢を変えることはできません。
くれぐれも戦略を失敗しないようにすることが大切であり、そのためには正しい情報の収集は欠かせません。
知らずに戦術レベルの闘いに追いやられるのではなく、主体的に、協働できる医療者と戦略を練るようにすることが、勝ちへの方程式です。
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